「魅力ある土地だから」という理由だけじゃない。魅力的な仕事があるから決意した地方就職。
サマリー
地方での働き方
大学卒業後に、就職のため神奈川から札幌市厚別区に移り住んだ江戸谷さん。就職先は、地下水の予測解析やコンサルティングサービスを提供するジーエムラボという企業です。「CAEエンジニアとして地下水解析ソフトの開発をしています。小さな会社ということもあり、入社1年目にも関わらずチャレンジングな経験をたくさんさせてもらっています。AIを使ったプログラムを一から作るなど、地方にいても最先端技術に携われるのがうれしいですね」
自宅から会社までバスで10分ほど。雨が降っていない日は、自転車で通勤しているそうです。「30分ほどでしょうか。風が気持ちいいです。オフィスに入ると、窓からはきれいな山々が望めます。会社のすぐ隣にあるのは原始林。働く前、エンジニアって1日中パソコンとにらめっこしているイメージがあったのですが、ここではお昼休みに原始林の中を散策してリフレッシュできます。まだ出会ったことはないのですが、フクロウやモモンガも探せばいるみたいです」。
会社のすぐ近くにはテニスコートがあるそうで、金曜日の始業前に社長や先輩たちと集まって練習しているといいます。「いつもより少し早起きになりますが、家からオフィスまで近いので気になりません」
北海道に移り住んで、初めての一人暮らし。大きな環境変化への不安はなかったかと質問すると、むしろ快適だと話してくれました。「最初は、環境変化に対応しなくちゃいけないのかなと思っていましたが、札幌市という都市部に近い場所ということもあって、大変なことは何もありません。ストレスがかかる変化を感じることもなく、地方での暮らしをエンジョイできています」
地方就職した理由
北海道の魅力を知ったこと。東京でのキャリアをイメージできなかったこと。この2つが、地方就職を決めた理由だと言います。
「大学時代、休学した時期がありました。歩いて日本を縦断するためです。自分に自信を持てなくて、なんでもいいから成し遂げるという経験が欲しかったんです。映画館でアルバイトをしていた時、ある映画の広告を見かけました。タイトルは『わたしに会うまでの1600キロ』。女性が自分を取り戻すために、たった独りで砂漠や山道を踏破するストーリーです。これにピンと来て、私も挑戦しようと思ったんですね。そこで、鹿児島から北海道まで歩いて日本を縦断したんです」
1日平均30キロ以上歩き、合計2800キロもの道のりを踏破したとのこと。この旅で訪れた北海道が、とても印象深い場所として江戸谷さんの記憶に残ります。「北海道の雄大な景色や自然は絶対に見た方がいいです。あと、旅人を受け入れてくれる風土もあって。自分が歩いていると対面から来るライダーが挨拶してくれるんです。他にもたくさんの人との出会いがあって、北海道の自然と人の魅力に触れたことが地方就職のきっかけになりました」
旅を終えて復学。最初は東京で就職活動を始めるも、すぐに違和感を覚えたそうです。「毎日、何十年間も満員電車に乗る生活でいいのか。転勤や異動で、自分の知らない場所で働くことに納得できるのか。自分の将来において、東京で楽しく働ける想像がつかなかったんですね。そんな時、北海道の思い出が頭をよぎったんです。そこで夏休みを利用して、北海道で就職活動を始めました」
そうして出会ったのが、ジーエムラボ株式会社です。旅で多くの自然に触れたこともあり、自然に携われる仕事がしたかったこと、また、地下水解析コンサルタントという専門性の高いビジネスをしていること、業界の最前線で最先端技術に触れられることに魅力を感じ、江戸谷さんは入社を決意しました。
地方都市での暮らし
「寒いのはあまり得意ではない方ですが、家の中はとても暖かいです」。日本一こたつの普及率が低いと言われる北海道。窓は二重窓で室内は密閉。灯油ストーブで室内を暖めますが、灯油が少なくなったら外のタンクに業者さんが入れてくれるので灯油を買いに行く手間もないそうです。今住んでいるマンションの間取りは1LDKでオートロック付き。しかも家賃も安いそう。「月4万8千円ですね。住宅補助があるので、実際の支払額はその半分です。歩いて4〜5分の場所にスーパーがありますから、普段の買い物にも困りません。住んでいる厚別区は立地として非常に便利な場所にあり、電車に15分ほど乗れば札幌駅に着きます」
快適な環境とはいえ、知人が一人もいない場所への移住に、孤独を感じることはなかったのでしょうか。「寂しさは感じていません。というのも自分の場合は、日本縦断時にいろんな方とのつながりができました。仲良くなった旅人の方が北海道に来た時は、食事をしながら近況を報告しあっています。知り合いの一人にバイカーの方がいて、今度一緒にツーリングしようと誘われ、二輪免許も取得しました。バイクはまだありませんが(笑)」
地方就職に限らず、社内の人間関係も気になるところです。「これは会社によると思いますが、社内の人とは距離の近い関係を築いています。先輩たちとテニスもしますし、他にも山登りやトマムへ旅行もしましたね。あと、海釣りが趣味なんです。この前は、ヒラメやサバなんかを釣って自分でさばいて、刺し身や焼き魚にして食べました。こちらの魚は、本当においしいですよ」
地方就職を考える人へのアドバイス
徒歩で日本縦断をしようと決めた時、父親からはこう言われたそうです。「休学して遊びたいという理由なら反対するが、自分の意思を持ってやりたいならやればいい」と。さらには北海道での就職活動時にも、似たようなことを言われたそうです。「東京はゴミゴミしてイヤだから北海道に逃げるというのは良くない。自分がやりたいことが北海道にあるのであれば行ってこい」と。
「父は『逃げる』という言葉を使いましたが、その時の気分や情報に流されず、自分でちゃんと決断して、その決断にちゃんと責任を持てるかどうかを問うたのだと思います。だから自分にとって今よりプラスになるのなら、地方だからという理由で悩まないで突き進んでいいんじゃないかなと思います」
仕事に限れば、東京の方がきっと選択肢は多く、知らない土地で会社を探すのは大変なことかもしれません。まずは、ローカルの就職支援サービスを利用するのがいいと江戸谷さんはアドバイスします。「私の場合は、UIターン就職支援企業のWebサイトにジーエムラボが登録されているのを見つけて、問い合わせました。一生住む可能性もあると思うので、焦らずいろんなところを回ってみるのがいいと思います。その中で、自分のやりたいことが地方にあったら、もはや場所がどこであるかは関係ありません。チャレンジした方が、きっと後悔のない就職となるはずです」