インタビュー

仕事でSDGsに関わるにはどうすればいいか?

自ら質問して「良い未来」を作れる会社か見極めよう

地球の未来を良くするための活動「SDGs(エスディージーズ)」。誰もが関心を持たざるを得ない、地球規模の課題です。特に若い世代は、自分たちの暮らす未来について「持続可能な社会を構築すること」が、必要不可欠なことと捉えていると思います。そのため、地方創生といった地方を持続可能な社会にする活動は、特に若い世代で高い関心を集めています。

SDGs17の目標の中には、「3.すべての人に健康と福祉を」や「11.住み続けられる街づくりを」という項目もあり、これらは過疎化が進む日本の地方都市でも危機感を持って対応が求められる課題でもあります。

そのような背景から若い世代の中には、仕事でもSDGsに関わりたいと考える人も増えてきているでしょう。そこで、そんなSDGsの意識が高い会社はどうやって探せばいいのか? 地方企業はSDGsに対してどのように取り組んでいるのか? 金沢工業大学SDGs推進センター所長の平本督太郎さんに聞きました。

 

【金沢工業大学SDGs推進センター所長 平本督太郎氏】

博士(メディアデザイン)。慶応義塾大学大学院修了後、野村総合研究所入社。同研究所の経営コンサルタントとして、貧困等のグローバルイシューを解決するBoPビジネスや、アフリカビジネス推進支援、経営改革支援などに2016年度末まで携わる。ジャパンSDGsアワードにおける金沢工業大学の内閣官房長官賞、会宝産業の外務大臣賞にそれぞれ現場統括、顧問として大きく貢献する。12年より明治大学経営学部特別招聘教授を歴任し、16年に金沢工業大学経営情報学科講師就任。2019年より准教授。

金沢工業大学SDGs推進センターとは

―― そもそも、金沢工業大学SDGs推進センターとは、どのような組織なのでしょうか?

金沢工業大学は、いち早くSDGsへの取り組みを学部・学科の枠を超えて強化してきた大学です。2017年に開催された第1回「ジャパンSDGsアワード」でもSDGs推進副本部長 (内閣官房長官)賞を受賞しており、今もさまざまな研究を進めています。

センターの役割は大きく2つです。ひとつは学部・学科の枠を超えたプロジェクトが多いため「横串を通す」形で、プロジェクトを円滑に進める役割を担うこと。もうひとつは、自治体や企業と大学が連携するプロジェクトにおいて、私たちの知見を活かしHub(ハブ)となり、推進役を務めることです。

―― SDGs推進センターでは、どのような取り組みが行われているのでしょうか?

研究を含めたすべての取り組みは、「社会実装されてこそ意味がある」と金沢工業大学では考えていますので、学術的に考え、発表して終わりではなく、自治体や企業と一緒に「新しい未来」を作るために必要なことを、実際の「事業」として行っています。

SDGs推進センターには、大きく3つの対応分野があり「ビジネス」「地域デザイン」「教育」の3つです。

「ビジネス」では企業とともにSDGsにかかわる新しいビジネス創出を、「地域デザイン」では自治体や市民とともに持続可能な地域づくりを、「教育」では次世代を担う若者たちとともにSDGs という新しい常識の社会への定着を、推進しています。そして、各分野でご一緒した皆さんと分野横断する形で皆が一緒に楽しめる取り組みも生み出すことで、相乗効果が大きくなるよう促しています。

SDGsに取り組む地方企業とは

―― SDGs推進センターの取り組みから、「地方企業」のSDGsに対する意識をどのように感じていますか?

地方には、SDGsに積極的な企業がたくさんあると感じています。それぞれが丁寧に情報発信をしていますし、都会の大手企業に比べて取り組みが劣っているという感覚は、私にはありません。センターでも多くの地方企業と一緒にプロジェクトを進めています。また、そのような企業には、社会貢献意識の高い、魅力的な人たちが集まっているとも感じています。

―― SDGsに積極的に取り組んでいる企業には、どのような特徴がありますか?

SDGsに取り組む上でまず大切なのは、「ブームに流されない」ことです。 「今話題となっているから何かやらなければ」ではなく、「自分たちの考えるより良い未来のために、必要な取り組みをする」ことが大切です。その点を理解している企業は、多くが若者の意見を尊重して事業に取り組んでいます。良い未来を作りたいからこそ、未来を生きる若者の言葉に耳を傾けているということです。

一般的に、上から「私たちの言うことを聞きなさい」というスタンスで進めるSDGsの取り組みは上手くいきません。「頑張ろうとする若者を応援したい」そんな雰囲気が、SDGsに積極的な企業の共通した特徴でもあり魅力です。

SDGs推進センターのプロジェクトの様子 SDGs推進センターのプロジェクトの様子

―― 具体的に、事業を通じてSDGsに取り組む地方企業の例を教えてください。

センターと一緒にプロジェクトに取り組む企業をいくつかご紹介しましょう。

瓦をリサイクルして舗装事業を行う「株式会社エコシステム」という企業が、石川県能美市にあります。瓦は産業廃棄物として、年間約100万トン排出されており、そのほとんどが処分場で埋め立て処分をされています。しかし瓦は、圧倒的な保水力・独特の色合い・景観性など、とても素晴らしい特徴や魅力を備えた「再生資源」です。そんな瓦を、環境にやさしい舗装道路の材料としてリサイクルする事業は、大雨の際の都市型災害の防止や、ヒートアイランド効果の減少にも貢献しています。グローバル展開も進めており、ベトナムやボリビアなどでもビジネスを展開しています。

自動車のリサイクル事業を行う「会宝産業株式会社」は、石川県金沢市の企業です。この企業は、使用済み自動車を解体して、問題なく使用できる中古部品を取り出し、世界90カ国に輸出しています。それだけではなく、国内の同業他社60社以上とアライアンスを組み、中東に立ち上げたオークション会場に日本全国から中古部品を簡単に出品できる仕組みを構築しました。インドやブラジル、そして最近はケニアでも日本政府や国連と連携し、自動車リサイクルの仕組み自体を日本の優れた循環社会の仕組みとして輸出することに取り組んでいます。

リサイクル等の循環産業以外の分野で言えば、石川県小松市にある「コマニー株式会社」はパーテーションの大手メーカーです。電話ボックスのようなテレワークブースや、避難所でも安心して着替えや授乳ができるブースなどを開発しています。工具不要で10分で簡単に組立てられるもの等、これらは災害時における持続可能な生活のために必要な商品で、SDGsに貢献する事業だと言えます。

――「SDGsに関わる仕事がしたい」と考えている学生は、どのようにして「SDGsに積極的な企業」を探せばよいでしょうか?

私がいつも学生に伝えているのは、「自分たちにとっての理想の未来のことから考えよう!」ということです。新卒で希望の職種に必ず就けるとは限りません。「SDGs企業ランキング」などを見てSDGsに携わりたいという思いを胸に就職しても、希望と異なる職種に配属される可能性も十分にあります。理想の未来さえ描いていれば、一見SDGsっぽく見えない仕事でも、将来的にSDGsの達成につながっていく可能性があることに気付けます。何をするかではなく、なぜするのか、こうした視点から共感できる企業にアプローチすることが重要です。

また、SDGsは「良い未来をつくること」ですから、柔軟な発想ができる企業が積極的に取り組んでいます。そのことから派生した「見分け方」のひとつですが、柔軟な企業は、昨今「副業」を許容しているケースや若手・中堅の従業員発の新たな事業・活動に取り組んでいるケースが多いです。これらも踏まえて、「自分が思い描く理想の未来」を軸に企業を探してアプローチしてみるとよいでしょう。

 

―― 最後に、「SDGsに関わる仕事がしたい」と考えている学生へ、メッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、大切にして欲しいのは、単に「SDGsに関わりたい」だけではなく、そのためにやりたいことを理由とともに明確にすることです。理由が明確で共感を得られれば、例え新卒であろうとも、実現に向けて動き出す可能性は大いにあると思います。

また、ぜひ就職面接で、「SDGsに関する質問」をしてみてください。そして、明確に「なぜ?」を答えてくれる企業かどうかを見極めてください。最近は企業が学生を選ぶのではなく、学生が企業を選ぶ時代になってきています。学生の質問に誠実に答えてくれないような企業は、SDGsとの相性がよくないかもしれません。

「社会課題を解決したい」と考える企業であれば、従業員の誰もが自分らしく生きられる会社になることを重視しているはずです。社員が一人も取り残されることなく自分らしく生きられる企業であれば、自然と業績も上向いてきます。ぜひ、自分の思いを明確にして、企業に伝え、共感しあえる人たちと理想の未来の実現に取り組んでいってください。

取材を終えて

今回の取材を終えて感じたのは、若者が「未来を良くする」ために動き出すことの重要性でした。「未来を良くしよう」と考えている会社や大人は、若者の言葉を重視して、一緒に動き出すことの大切さを知っています。それは、所長の実体験から出てきたリアルな言葉だと感じました。ぜひ、自分のやりたいことを言葉にして、動き始めてください。