インタビュー

コロナに負けない!地方企業の探し方

コロナ禍の2021年、学生の「地方就職」への関心はかなり高まっているようです。
就職情報会社・学情によると、2022年卒業予定の学生の47.4%が「UIターンや地方での就職」を希望しています(*1)。これは、前年度から25.6ポイントもの増加だということです。

そんな地方就職への関心が高まる中、LO活では、どのようにして「コロナに負けずに頑張る地方企業を探せばよいのか」について、専門家に取材しました。お話をうかがったのは、「アフターコロナの経営戦略」という書籍を執筆されている経営コンサルタントの森泰一郎さんです。

お話を聞いていく中で、「IT」「ブランディング」「人材」の3つの切り口から、LO活生が地方企業を見る上でのポイントが見えてきました。

 

【経営コンサルタント森泰一郎氏】

株式会社森経営コンサルティング代表取締役。『アフターコロナの経営戦略』、『アフターコロナのマーケティング』著者。東京大学大学院経済学研究科経営専攻卒業。卒業後、経営コンサルティング会社および事業会社にて経営企画、デジタルトランスフォーメーション、M&A、新規事業開発に従事。「どんな産業・規模の企業でも必ずデジタル化できる」を信念に大企業から中小企業のデジタルトランスフォーメーション、新規事業開発を推進。「地方の力で明日の日本を創造的に、スマートに」をビジョンに地方創生×BPOサービスを手掛ける株式会社スマートシェアリングを2021年創業。

ウィズコロナの地方企業

長引くコロナ禍で、大きなダメージを受けている企業もあります。一方で、早くもコロナから回復している企業もあります。その2極化から「K字経済」という言葉も生まれました。そこで、まずは「コロナ禍の地方企業の状況」から質問しました。

 

――コロナ禍の「地方企業」の置かれた状況を、どのように分析されていますか?

飲食や観光など、事業を制限されているために苦戦している業界はあります。これは、地方も都会も同じではないでしょうか。しかし、小売りや企業を相手にビジネスを行うBtoB企業においては、地方・都会を問わず、回復している企業もたくさんあります。地方は人件費やオフィスの賃貸料などの経費が安い分、都会よりもコロナ禍の経営はむしろ有利かもしれません。実際に、コロナ禍でも好調な地方企業がたくさんあります。

例えば北海道のコンビニチェーン「セイコーマート」は、地域密着だからこその強みでコロナ禍を乗り切っています。

セイコーマートは、コンビニとお弁当屋さんの両方を併せ持ったような店舗が特徴です。店内でお惣菜やお弁当を調理して販売もしますし、一般的なコンビニ商材も販売しています。観光地やオフィス街よりも、圧倒的に住宅地での店舗が多く、地域の生活にしっかり根付いているコンビニです(*2)。

 

――その他には、どのような地方企業がありますか?

熊本県のはちみつメーカー「杉養蜂園」も、コロナ禍による店舗での売上減少をECに切り替えて成功している企業です。

杉養蜂園は、はちみつやローヤルゼリーなどを製造販売している企業です。コロナ禍で、海外から日本へ来る旅行客の売り上げがなくなってしまいました。そのため、ECでの販売を強化することで、海外での売り上げを回復させています。今中国でも話題になっている日本企業の一つです。

この2社に限らず、ウィズコロナの環境変化に対応している地方企業はたくさんあります。

若者にも大人気となっているワークマンが属するベイシアグループは本社が群馬県です。
他にも、ヤマダ電機は本社が群馬県高崎市、ニトリも本社は北海道です。よく調べると本社が地方にある元気な会社はたくさんあるのです。

地方企業の重要課題「IT化」は、若者にこそ活躍のチャンス

新型コロナによって、ビジネスのあり方は大きく変化しています。

杉養蜂園のように、ITでコロナ後の世界に対応している企業もある一方、「ITが苦手」という地方企業も多く、企業によって大きく差が付くポイントです。お話を聞く中で、ITの活用が今後の企業の命運を左右する大きなポイントであることが分かってきました。つまり、IT活用の度合いがコロナに負けない地方企業の見極めポイントになるということです。

 

――地方企業のIT化の対応状況を、学生でも確認できる方法はありますか?

コロナ禍での分かりやすい「IT化対応」は、ECへの対応だと考えています。
そのため、まずはその企業がECサイトを持っているかを確認してみてはいかがでしょうか。日本国内へ来る海外旅行客のインバウンド需要はなくなっていますから、「海外向けのEC(越境EC)を立ち上げているか」という視点でも、グローバル化の対応力が見えてくると思います。 

 

――ECへの対応は、一般顧客向けのBtoC企業が中心の話になりますが、企業を相手に商売するBtoB企業の場合は、どのような点を見ればよいでしょうか?

BtoB企業の場合でも、「どれだけデジタル対応できているか」という視点で見ることができます。例えばBtoB企業がデジタルマーケティングを行う際には、「ホワイトペーパー※」という手法で、新たな顧客との接点を作ります。自社のWEBメディアで、このような「デジタルマーケティング施策が対応できているか」という視点で、見てみてはいかがでしょうか。
※「ホワイトペーパー」とは、自社のターゲット企業が欲しそうな資料を、メールアドレスや社名などの個人情報と引き換えに無料でダウンロードさせるマーケティング手法のこと。「事例集」や「調査レポート」などの資料が一般的です。

 

――「ITが苦手」な地方企業は、苦戦はまぬがれないということでしょうか。

例えば地元に根ざした小売業や飲食業、石油やガスなどの重厚長大産業などはそうとは言い切れませんが、業界を問わず、ITを活用せずに飛躍するのは益々難しくなっていくと思います。そのような会社はITが得意な若者を信じて、思い切って若者に任せてみることがポイントではないでしょうか。

例えばECを立ち上げるとしても、今はWEB上で簡単な設定だけすれば、特に費用もかけずに自分たちの力でECサイトを立ち上げることができます。これを独自に開発しようとすれば、時間もコストもかかりますし、専門業者とのやり取りも必要となります。

独自の対応をしようとせずに、自社対応ができる既存のITツールを「社内の若手」に託して立ち上げることが重要になるのです。

 

――若手人材の「ITスキル」は、地方企業の武器になってくるということですね。言い換えれば、ITスキルのある若手人材は地方企業からすれば魅力的だということだと思います。今都会の大学に通っていて、Uターンなどの地方就職を考えている学生は、都会にいるうちにどのような体験をしておくと、地方企業に就職した際に役立つと思いますか?

都会のベンチャー企業でインターンシップに参加してみるのがいいと思います。

ITに関しては「社内の若手に任せてみることが大切だ」ということをお伝えしました。ですから、いろいろなITツールを使う経験が重要だと思います。ベンチャー企業は、そのようなITツールを活用する場面が多いですから、インターンで学ばせてもらうのは、非常に有効な方法だと思います。

アフターコロナで重要性が増す「ブランディング」

森さんは書籍の中で、アフターコロナ時代には「信頼・ブランディングこそが重要である」と訴えています。そこで、ブランディングの切り口から、コロナに負けない地方企業をどう見極めていけばよいのか、話を伺いました。

 

――企業が「ブランディング」として伝えるべきは、どのような内容になるのでしょうか?

私は、ブランディングを伝える上で重要なことは、3つあると思っています。

1.自社が今後どうなりたいか
2.それはなぜなのか
3.変化のために具体的に何をするのか

学生のみなさんや若い方が就職・転職で企業を探す際には、このようなポイントがしっかりと伝わる企業サイトになっているか、もしくは採用パンフレットになっているかを見てみると、土台がしっかりした企業なのかが見えてくると思います。

 

――地方の特に中小企業に関しては、自社サイトや採用パンフレットも予算の都合で大手企業のように立派ではないケースもあります。しかしながら、しっかりとした理念を持ってブランディングを考えている企業も必ずあるはずです。どのような情報源から、そのような企業を見つけ出すことができますか?

地方のエリア情報を扱う「地域情報サイト」や「地方新聞サイト」などでは、「社長インタビュー」を掲載しているケースも多いと思います。ぜひ、代表のお名前などで検索して、インタビュー記事を探してみてください。きっと先程の3つのポイントについて語っていると思います。

また、自社サイトや採用パンフレットは制作コストがかかるという理由から、ブランディングのメッセージを、採用ツールのWantedlyで発信している企業もあります。大手就活サイトには掲載されていなくても、Wantedlyのような安価な採用ツールを選択している地方企業もあるので、調べてみるといいと思います。

人材を大切にする企業が生き残る

最後に、就職・転職後も気になる地方企業の「人材育成」について話を伺い、都会の企業との違いや、人材育成の観点での見分け方について語ってもらいました。

 

――森さんは、アフターコロナ時代には「人材育成」がとても重要になるともおっしゃっています。それは、なぜでしょうか?

今後時代が進めば、テクノロジーは進化していきます。
当然企業が対応すべき新しい技術も増えてきます。その技術に対応するためには、人材への投資が重要になってくるからです。

世間ではAIに仕事を奪われてしまう、ということを言う人います。でも、そのようなことはパーソナルコンピュータが登場したとき、マイクロソフトの優れた表計算ソフトが登場したとき、インターネットが普及したとき、同じことが議論されていましたが、結局人間は新しい仕事を生み出してきました。

そのような新しい仕事をに対応できる人材を生み出すことが重要です。

 

――「人材を大切にする」という視点で、都会と地方での違いは感じますか?

地方の方が「人材を大切にしている」と思います。都会の方が人材豊富で、次々に採用できる可能性が高いからというだけではありません。

コロナ禍で、従業員の賃金を上げる判断をした企業は、地方の方が多かったと感じています。社員を大切にすることで有名な企業の社長は「不景気なら給料を下げるのではなく、給料を上げよ」と仰っています。それは、地方が都会と比べて人口が少ないことから、賃金が減り、地域全体の消費が低迷すると、自社の業績にも影響することが分かっているからだと思います。

そういう意味では、「仕事を終えた従業員は、お客さまでもある」という発想になり、できるだけ定時で仕事を終えて、地域内で買い物をして帰宅していただくことの重要性が、地方企業の方が分かっているのではないでしょうか。

 

――今のお話からも、「人材を大切にしている会社かどうか」は、コロナに負けない地方企業を探すうえでポイントになると思いますが、どこを見れば分かりますか?

従業員に対してどれだけ投資しているか、また若い管理職がどれだけいるかなどが挙げられます。従業員への投資は、さまざまな人事制度などに落とし込まれますから、企業の人事制度を見てみると分かります。

また、「その企業からどれだけの人材が独立しているか」という見方も面白いかもしれません。よくラーメン屋さんで「のれん分け」が行われますよね。その店で腕を鍛えた若手が、独立して自分の店を持つようになる。すると、そのブランドのラーメン店が増えていくことによって、ブランディングにつながり、結果的にブランド全体で成長できるという発想です。企業でも同じことが言えると思います。

 

――なるほど「のれん分け」ですか、面白いですね。ただ「のれん分け」の例も含めて、「アフターコロナを見据えて動いている地方企業」って、どうやったら見つけられるのでしょうか?

非常に地道な方法にはなりますが、やはり「地元に足を運び、地元の声を聞く」ことが、最も適切なのではないかと思います。もちろんネットで企業の情報は調べられます。しかし地元の情報は地元の人が一番よく分かっています。

地方は人とのつながりが深いので、地元のさまざまな情報は口コミで伝わります。
もしもUターンなどで地元に戻るのであれば、地元のご家族や友達などに、気になる企業について聞いてみてください。きっと何らかの情報を持っているのではないかと思います。

 

――最後に、地方就職を考えている学生や若者に、メッセージをお願いします。

今「地方で活躍したい」と考えているみなさんは、きっと地方就職ムーブメントの先人になることと思います。これからは、「通勤のために都会に住む」ような「仕事のON」を優先した生活から、「プライベートのOFF」を重視して地方に暮らす、というように、発想を切り替えることが当たり前の時代になってくるでしょう。

1回きりの人生ですから、ONだけでなくOFFも思い切り楽しむ暮らしをしてください。

今は地方が人材を欲している時代ですから、地方移住や地方就職にも、いろいろな助成制度が活用できます。そんな助成制度も、移住者が増えるとなくなってくるでしょう。
ぜひ先人として、お得な特典を使ってみるのもいいと思います。

まとめ

森さんのお話から「コロナに負けない地方企業を見つけるためのポイント」は以下の3つであることが分かりました。

1:IT化への対応に遅れがないかどうか
2:ブランディングが十分できているかどうか
3:人(従業員)を大切にしているかどうか

地方にも、これらをすべて備えた「コロナに負けない、素晴らしい企業」がたくさんあります。ぜひそんな会社に出会って、地方で自分らしい生き方を手に入れてください!

 

=======【参考】=======

・学情調査データ *1

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000725.000013485.html

・日本生産性本部 JCSI 日本版顧客満足度指数 コンビニエンスストア *2

https://www.jpc-net.jp/research/jcsi/resultlist/assets/pdf/3aa152580a6751834eb22acef1e144a8.pdf