インタビュー

地方就活を振り返って~LO活卒業生インタビュー【7】

大阪生まれ、大阪育ちの私が、北海道で理想の仕事に出会うまで

LO活を活用して地方就職を実現した「LO活卒業生」にお話を聞く本企画。今回は北海道の紋別にある「有限会社パインランドデーリィ」で、乳製品の販売・製造に携わる杉本莉暖さんへ、リモート取材を行いました。LO活相談員の吉川さんとともに、当時の就活を振り返ります。

【LO活卒業生プロフィール】

杉本 莉暖さん
大阪府出身。大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部 管理栄養士専攻卒業。就職活動を経て、北海道紋別郡にある「有限会社パインランドデーリィ」に入社。現在は乳製品を扱う部署で、店舗での接客、乳製品の製造、商品開発などを担当している。趣味はパン屋さん巡り、旅行。

【企業情報】

有限会社パインランドデーリィ
住所:北海道紋別郡興部町字北興40番地

高校時代からの「動物関係の仕事がしたい」という夢が、就活でよみがえる

――就職活動を始めたときは、どんな考えだったのでしょうか? 最初から地方就職や酪農を意識していましたか?

杉本:場所については、もともとこだわりがなかったんです。強いて言うなら「本州だったらいいかな」くらいの気持ちで探していて。そのうちに「酪農に絞ろう」と思い始めて、酪農は北海道が中心なので、徐々に北海道の会社を見るようになった……という流れです。

――大学では管理栄養士専攻ですよね。その方向の就職も一時期は考えていたのでしょうか?

杉本:酪農に決める前はそうでした。周りの学生も先生も、就職=管理栄養士という雰囲気だったので、最初は私もその方向を目指していましたが、どうしても乗り気になれなくて。本当はずっと動物関係の仕事をしたいと思っていました。

――LO活を知ったきっかけについて教えてください。

杉本:大学で開催された合同説明会です。教室ごとにいろんな企業がブースを出していて、私は(管理栄養士での就活で)病院や施設のブースを回っていました。そこにLO活さんもブースを出されていて、立ち寄ってみたのがきっかけです。最初は就職相談のような話をしたような気がします。「酪農のほうに行きたいけど、大学ではその分野について学んでいません。大丈夫でしょうか?」みたいなことを。

吉川:そのとき杉本さんは「これからインターンシップに行く予定です」と話されていました。養豚や農業など、一次産業系のインターンシップです。酪農への就職を希望しているけれども、「本当に酪農でいいのか?」を自分なりに確かめるために、少し幅を広げていたのだと思います。もともと杉本さんは、昔から動物に関わりたくて、大学進学も本当は農学部系に行きたかったらしいです。でも家族と高校の先生に反対されて断念した。それで「食」というところで興味があった管理栄養士の大学に進んだ……というわけなんです。

──高校時代から「動物に携わりたい」と考えていたということは、4年間の大学生活でもその思いはずっとブレないままだったのでしょうか?

杉本:いえ、やはり管理栄養士の大学なので、入学してからは「管理栄養士で就職する」と自分で決めつけていたところがありました。でもそのまま就職するのはどうしても乗り気になれなくて。管理栄養士以外に、栄養教諭という学校の先生の資格も取れるので、本当にギリギリまで栄養教諭として就職しようと思っていました。

──その考えが変わったというのは、何か心境の変化があったのでしょうか?

杉本:そのきっかけになったのが、大学での就活イベントです。希望者だけが参加するイベントだったのですが、そこで大学のOB・OGの方が登壇して、就活を振り返る話をしていました。その方は管理栄養士の資格を持っていて、就職したのは有名な食品会社でした。それも管理栄養士としての採用ではなくて、一般職での採用で。その話を聞いて、「管理栄養士の大学だからって管理栄養士で就職しなくてもいいんだ」と気づけたのは大きかったです。

 

中立的な立場で意見も言ってくれて、インターンシップ体験の聞き役にもなってくれた

──現在の会社とは、どのようにして出会いましたか?

杉本:もともとは東京で、農業に関する大規模な合同説明会が開催される予定があったんです。私も大学を休んで東京に行こうか迷っていましたが、そのイベントがコロナの影響でオンライン開催になったと、吉川さんがメールで教えてくださいました。その頃はまだ就職活動を始めたばかりで農業に行ってみようと思い始めた頃だったので、どこの会社がいいのか全然わからない状態で。イベントでは「あなたの会社が気になっています」とアピールできるボタンが押せるシステムとなっていたのですが、「とりあえずたくさんの会社の話を聞こう」と思って、すべての酪農の会社にアピールボタンを押しました。その中の1社が、パインランドデーリィでした。

──いろんな酪農の会社がある中で、今の会社を志望したのはどんな理由からですか?

杉本:もともと動物に関わる仕事がしたくて、資格がなくてもやれるのが牧場だと思って酪農で探していました。その中でもパインランドデーリィは食品関係の事業もありました。大学では食品関係のことを学んできたので、4年間学んだことをゼロにするのはちょっともったいないような気がしていて。それで、今までずっとやりたかった「動物系」と、大学で4年間学んだ「食品系」、どちらの分野もできる会社だということで選びました。

──酪農へと志望がシフトしていく中で、相談員の吉川さんとはどのようなやり取りをされましたか?

杉本:吉川さんはちゃんと厳しい話もしてくれました。「頑張ってください」みたいなことは誰でも言えるし、ある意味で無責任だと思うんですよ。ですが、吉川さんは「いきなり酪農に入るのではなくて、周辺産業の会社にいったん入って『自分の思った通りだった』と確信してから、行きたいところに行ってみたら?」ということも話してくれました。「家族が反対している中で就職したら、就職してつらくなったときに帰る場所がないかもしれない」とか、そういう現実的に起こりうる話もズバズバしてくれて、とても支えになりました。私の大学から一次産業に就職した人がほとんどいないので、そのあたりの情報をサポートしてくれたのもありがたかったのですが、中立的な立場から意見を言ってくれたことが一番助かりました。そういうことを言ってくれる人が他にいなかったので。

吉川:杉本さんのそれまでの学生生活についてお話しを聞いていくうちに、彼女はすごく貪欲で、置かれた状況の中でやれることをしっかりやっていく人だという印象を持ちました。管理栄養士というのは本人の中では不本意ではあるけれども、ちゃんと資格を取ろうとしていたり、教員免許の取得にも手を伸ばしたりしていて、とても好奇心が旺盛なんですね。その旺盛な好奇心は、酪農の世界で本当に収まりきれるものなのか。もしかしたら近い分野でもその好奇心を発揮する可能性もあるんじゃないかと思って、「いったん周辺産業の会社に入ってみたら」というお話をさせていただきました。

杉本:もう一つ良かったことは、インターンシップが終わった時期を見計らって吉川さんが連絡をくれたことです。私は酪農を家族に反対されていたので、家族にはインターンシップのことは言えなかったんです。「こんなことがあった」「こんないい体験をした」みたいな話をしにくい環境の中で電話をいただけたのはありがたかったです。

吉川:インターンシップの体験を言葉にしてもらうということを、私は大事にしていました。ただ行って感じたり思ったりするだけではなく、ちゃんと言葉にすることによって考えがまとまっていく。それが選考に役立てば……という思いで、終わったタイミングを見計らって電話してお話を聞いていました。

──吉川さんから見て、杉本さんはどんな学生だと思いますか?

吉川:好奇心旺盛で意思が強くて、行動力のある学生さんだなと思いました。私もサポートはしましたが、杉本さんの場合、「自分からどんどん動いていった」というのが一番印象に残っています。

──その特徴はたとえば就活のどんな面で発揮されたのでしょう?

吉川:杉本さんが今の会社を選んだのは、「説明に一番心を砕いてくれて、一番見せてほしいところを見せてもらえたから」というのが決め手だったと聞きました。詳しく説明を聞くにしても、見せてほしいところを見せてもらうにしても、学生からの具体的な質問や働きかけがあって、初めて成り立つものだと思うんです。抽象的な質問だと、会社としても抽象的な答えを返すしかないですから。だから彼女は自分の聞きたいことを具体的に突き詰めて、貪欲に求めていった……その姿勢は担当者にもきっと伝わったのではないでしょうか。そういうところで内定を勝ち得たのではないかと思っています。

杉本:行動していく中でも、吉川さんのバランスの取れたご意見はとても助かりました。改めてありがとうございました。

吉川:こちらこそ。画面越しでも「今がとても楽しい!」が伝わってくる感じがして(笑)。夢を叶え、こうしてまたお話できてとても嬉しいです。

 

紋別に来たとき、「最高!」と思った

──ここからは杉本さんに今の仕事や暮らしぶりについて伺います。パインランドデーリィでは、どんなお仕事をされていますか?

杉本:今は主に乳製品の部署で働いています。牧場の敷地内に乳製品の店舗があり、そこで自社の生乳を使ってチーズやバターを作って、それを店頭で販売しています。日によって販売を担当したり、製造を担当したり、あと季節によって新しい商品を出しているので、その企画を考えたりもしています。毎週、大学生の方がインターンシップに来るので、その担当もしています。乳製品は、製造のある日は6時出勤、店舗の店番のときは8時出勤です。ジョブローテーションなので(酪農の)現場に出ることもあって、そのときは5時出勤になります。現場では動物に囲まれて、とても楽しく過ごしています。

 

──自分の志望する道に実際に入ってみて、どうでしたか?

杉本:就活のときから「やっとやりたいことができるんだ」と思ったらワクワクしてきて、つらさよりもワクワクが勝つ就活だったのですが、入社したら思っていた以上でした。「思っていたのとちょっと違った」というのは全然なくて、むしろ「めっちゃ良かった!」という感想です。

──生活スタイルはどうなっているのでしょうか。たとえばお昼ご飯はどうしていますか?

杉本:お昼ご飯は、いったん家に帰って食べています。お昼休憩が乳製品だったら2時間、現場だったら4時間あって、家は車で4分のところにあるんですよ。だからお昼は家に帰ってご飯を食べて、昼寝をして、それからもう1回出勤します。時間に余裕があるからお昼に洗濯機を回したりもできます。だから仕事終わりにまとめて家事をすることはあまりないですね。

──紋別の暮らしはどうですか? 大阪とは大きく環境が変わったかと思います。

杉本:私は大阪生まれ、大阪育ちなので、環境は全然違いますね。大阪は家と家の間に隙間がないくらい、びっしり建物が並んでいるし、高い建物で空が見切れてしまい……。だから紋別に来たとき、「最高!」って思いました。

──具体的にはどんなところでしょうか?

杉本:「空が広い土地に行きたい」という思いもずっとあったんです。だから大阪時代は、帰り道で空を見上げたときに、いろいろ視界に入ってきて、空が狭いなと感じていました。でもこっちは空が広いし、夜もプラネタリウムかと思うくらい星がきれいです。都会って人混みがすごいじゃないですか。大学も満員電車で1時間以上かけて通学していましたし。コロナ禍だから余計にそういうのに敏感になっていたのかもしれないですけれど、紋別に来たら、パーソナルゾーンに入ってくるような距離で人とすれ違うことは滅多になくて。そういう意味でもストレスが減って、むしろこっちで暮らし始めたことで、「ああ、今まではストレスを抱えながら生活していたんだな」と、初めて気づけました。人によってはこちらの暮らしを不便と思う人もいるでしょうけど、私にはここの生活のほうが合っていると思います。

 

──もともとは「動物に関わる仕事がしたい」という動機から、北海道に就職後、実際は仕事だけじゃなく大自然のほうも最高だったということですね。

杉本:はい。困ることは本当にないですね。もし困ったことがあっても、会社の人が近くに住んでいるので、助けてくれたり教えてくれたりします。だから「知らない土地に1人でぽつんとやって来た」という感覚は全然ないです。会社の人の出身地も本当にバラバラで、むしろ道内よりも道外の出身の人が多いくらいですね。私の同期は6人いますが、北海道出身は1人だけです。

──これはいろんな人から聞かれた質問だと思いますが、やっぱり気になる人は多いと思うので、あえて聞きます。寒さは大丈夫でしたか?

杉本:それは私も本当に心配していて、家族からも「北海道の人と本州の人は寒さに対する耐性が違うから、住むのは絶対無理」と言われていたんですよ。でも住んでみたらそうでもなくて。気温が下がるといっても、次の日いきなり真冬になるわけじゃなくて、だんだん寒くなっていくわけです。なので、いざその環境で暮らしてみると、自分の感覚が慣れていきました。今では「今日は氷点下じゃないのか。ぬくいな」みたいな感覚です(笑)。

吉川:杉本さんはもともと環境に順応する力が強いタイプの人です。(当初の志望ではなかった)大学生活を始めたときも、そんなに苦もなく、楽しく過ごし始めたという話を聞いていたので、「きっとどんな環境に行っても楽しめるだろうな」と思っていました。

──地方就職を考える上では、志望動機もさることながら、知らない環境への順応性も大事になってくるのでしょうか。

吉川:Uターンの場合は地元に戻っての就職なので、土地への順応はもともとあるわけです。「地元の近くに就職する」というJターンの場合でも、ある程度の土地勘はあるから、順応はしやすいと思います。でもIターンで就職する場合は、今までいた土地からまったく違う土地に行くので、順応性が必要になってきます。杉本さんもIターンですが、新しい仕事、新しい土地、それに加えて実家暮らしから一人暮らしを始めるので、ほぼすべての環境がガラッと変わってしまうわけです。だからIターンの場合はそのぶん、本人の順応性は必要になってくると思います。

就活は、動きまくるくらいでちょうどいい

──お話を聞いていると、今の職場も生活環境も、本当に杉本さんに合っているというのが伝わってきます。でも聞いていて、少し怖さも感じました。もし大学の就職説明会でOB・OGの話を聞いていなかったら? 吉川さんからオンラインの合同説明会の知らせを聞いていなかったら? そういうちょっとした行動の差で、まったく違う就活、違う人生になってしまうのだなと思いました。

杉本:本当にそう思います。管理栄養士の実習や国家試験の勉強もあって、任意参加のイベントに行く人が、周りには全然いませんでした。そんな中、私は1人でそういうイベントに参加して、その結果、今があるので、「自分から動く」というのは本当に大事なのだなと思います。

──最後に杉本さんから、これから地方就職を志す人へアドバイスなどあれば教えて下さい。

杉本:私、就職活動で後悔していることが本当に1個もないんです。このインタビューを受けるにあたって、いろいろ思い返してみましたが、「もっとこうすれば良かった」というのがまったくなくて。本当に自分のやりたいことのために十分に動けたなと感じています。やっぱり妥協して就職してしまうと、就職してから後悔すると思うんです。「あそこに行っておけば良かった」「もっとあのとき頑張っていれば良かった」みたいな思いを引きずりながら働き続けることになってしまう。そういう後悔を残さないために、就活は動きまくるくらいでちょうどいいと思います。

取材を終えて

「紋別は、すばらしい土地なんだ!」と、聞いているこちらが引き込まれてしまうほど、今の仕事と生活が楽しいと屈託なく話す杉本さん。自ら積極的に動くことで、10代からの夢をつかみ取ったという喜びに満ちていました。

とてもポジティブな杉本さんですが、周囲の学生のほとんどが管理栄養士の道を選び、さらには家族から酪農への就職を反対されているという状況は、とても孤独だったはず。就活への前向きさは突出していたとはいえ、そんな杉本さんにとって、吉川さんとのやり取りは大きな支えになったということも、話から伝わってきました。

酪農への就職に反対していたご家族には、内定が決まってから事後報告したとのこと。「内定をもらったのなら、そこで頑張れ!」と激励され、見守ってくれているそうです。

「後悔のない就活を」という言葉はよく聞きますが、本当にその言葉通りの就活をやってのけたのが、杉本さんの就活だと感じました。

 

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※この記事に掲載されている情報は、2022年2月にサイトに公開した時点での情報です。