「人を大切にする会社」って
どんな会社

小柳建設株式会社

小柳建設株式会社
企業情報

・事業内容:新潟県を中心に、全国で土木事業、建築事業、浚渫事業、舗道事業、埋蔵文化財支援事業、Holostruction事業を行う。
・創業:昭和20年(1945年)
・本社所在地:新潟県三条市東三条1丁目21番5号
・従業員:223名(2023年4月時点)
・企業ホームページ:https://n-oyanagi.com/

企業情報
Point 1
課題の「見える化」からスタートする業務の効率化
Point 2
属人性をなくすことによる、全体の底上げと休みの取りやすさ
Point 3
社歴・地位に関係なく、アイデアや意見を出し合える環境

体質が古いと言われがちな建設業界にあって、社内改革により、有休取得率や残業時間の削減、育休の取得率などで飛躍的な向上をしてきた小柳建設。「働きやすい会社」と「業績を上げる会社」を両立させてきた、その要因はどこにあるのでしょうか。「変化を楽しもう。」をモットーに掲げる会社の、その「変化」について話を伺いました。

TOPインタビュー

TOPインタビュー

小柳建設株式会社
代表取締役社長CEO 小柳 卓蔵氏

1981年、新潟県生まれ。金融会社勤務を経て、祖父の代から続く小柳建設に2008年に入社。管理部門、総務・人事部門などを担当。2014年6月、社長に就任。伝統を重んじる建設業界にあってDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、2016年には日本マイクロソフトと共同で、建設業における計画・工事・検査の効率化やアフターメンテナンスのトレーサビリティを可視化する「Holostruction(ホロストラクション)」のプロジェクトをスタートさせた。著書に『建設業界 DX革命』がある。

■「働く人たちを楽にしてあげたい」という思いから生産性を改善

「プラチナくるみん(*1)」「プラチナえるぼし(*2)」「ユースエール(*3)」など、働きやすい企業に与えられる認定マークを取得されています。認定マークの取得を目指してそうなったのか、それとも社内環境を改善していった結果、その認定基準に合致したのか、どちらでしょうか?

両方の要素があります。私が入社した当時は、労働環境も含めて不便な状況で、「なんとかして働く人たちを楽にしてあげたい」という気持ちがありました。例えば、精算処理や稟議書を回すのに時間がかかり、本来の業務に集中したいのに邪魔されてしまう――というようなことは、なんとかしないといけないと。要は生産性の改善です。それによって、働きやすい環境が生まれるのだと思います。

仕事の進め方においても、メールを廃止してグループチャットに移行しました。結果、メーリングリストをいちいち検索する手間が省けます。そういった小さな改善を一つ一つ積み重ねていくことで、残業も減り、休みが取りやすい環境になりました。そうした時に、「調べてみたら厚労省が認定する『くるみん』というものがあって、あと少しでその基準をクリアできそうだ」と知り、「じゃあその認定マークを取得しよう」と意識的に取り組み取得した――、そんなイメージです。

 

*1:男性の育児休業等取得率が30%以上」「女性の育児休業等取得率が75%以上」「月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいない」など、12項目の基準を満たした企業に付与される。厚生労働省が認定。
*2:採用・就業・管理職比率などの項目で一定の基準を満たした企業に対し、「女性の活躍に関する取り組み状況が優良な企業」として付与される。厚生労働省が認定。
*3:若者の採用・育成に積極的で、雇用管理の状況などが優良(新卒者の離職率が低い、正社員の月平均所定外労働時間が20時間以下、有給休暇の取得率が高いなど)な中小企業に付与される。厚生労働大臣が認定。

 

■「残業時間:1.7時間/月」を達成するまで

社内環境を改善したことで、残業も減ったとのことですが、もともと残業に対する問題意識をお持ちだったのでしょうか?

入社した頃から、「多い」と感じていました。ちなみに2022年の従業員1人当たりの月間残業時間は1.7時間です。今期は1.65時間を目指して頑張っていますが、こういう数字を披露すると、「もともと残業が少なかったのでは?」と言われたりもします。でも、決してそうではありませんでした。

以前は月平均で30、40時間の残業は当たり前。しかも、勤務時間の管理もきちんとできていなかったので、残業時間を減らす前に、まずは残業時間を正確に把握するところから始めました。それは正直、怖さもあったのですが、そこを可視化しないと先に進めないと思ったのです。

残業の可視化を進めていく中で、「これって残業なの?」という部分を確認し、「『残業で稼ぐ』という考えはやめませんか?」という意識を広めていきました。そのために人事制度を整えて、「残業代は減っても、年収は上がる」という構図を作っていきました。具体的に言うと、2016年のボーナスは年間で2カ月分。これは一般の中小企業とだいたい同じ水準ですが、今ではおおむね4カ月分支給できています。「残業を可視化して減らす」「みんなが納得できる人事制度を作る」、その両輪がかみ合って、今の状況があるのだと思います。

 

■「デジタル化」とは「見える化」のこと

「働きやすい会社」の実現に、DXが大きく貢献しているように感じます。DXが成功した要因は何でしょうか?

これも、「DXをするぞ」と言って始めたわけではなく、課題解決から入っていったというのが実際のところです。言葉として「デジタル化」「DX化」とよく言われますが、デジタルという概念を、みなさん統一しないまま使っているように感じています。時計でいうと、アナログ時計はパッと見てだいたいの時間が分かるのに対し、デジタル時計は何時何分何秒という正確なものが分かります。言い換えると、抽象的に把握できるのがアナログ、正確に可視化されるのがデジタルです。

つまり「インターネットを使う」とか、「アプリを使う」とかがデジタルなのではなく、「正確に見える化する」ことがデジタルの本質だと私は考えました。「残業時間の見える化」もですし、「どうやったら給料が上がるのか?」が可視化されているのも、デジタル化に含まれます。

「課題のデジタル化」があってはじめて、「解決手段のデジタル化(労務管理のアプリを使ったり、社内のデータをクラウド化したりすること)」が有効になってくるのだと思います。DXというのは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、「デジタルなものに変革する」という意味ですが、私は「『見える化』する」、さらに言うと「『見える化する文化』に変革する」ことが本質だと思っています。

 

■仕事は属人的であってはならない

建設業界は、どこか職人的というか、「属人性の強い仕事」というイメージがあります。「替えが効かない人材」というとカッコよく聞こえますが、「休もうにも休めない」という状況も生み出しやすい。そこはどう対処したのでしょうか?

会社を変革する時に一番重要なのは、創業の理念だと思うんです。大事なことは、私の祖父が作った経営理念にすべて書いてありました。その最後は、「誇りをもって会社を後世に伝えるものとする」という文言で締めくくられています。後世に伝えるためには、仕事が属人的であってはダメ。社員はもちろん、それは社長にも言えることです。

私は会社をチームだと考えています。学生時代、バスケットボールをやっていたのですが、バスケはシックスマン(控えである6人目の選手)がいて当たり前です。シックスマンがいるから、誰かが怪我をしたり、ヘトヘトになったりしても、「はい、交代!ちょっと休んで」という対応ができます。

ところが、スーパースターに頼るような状況だと、その人がケガをしたり引退したりするとパフォーマンスが一気に下がってしまいます。スーパースターに頼らなくても回っていく仕組みを作っていくことが私の役目ですし、社員も共感してくれています。「替えが効く」というとイメージは良くないかもしれませんが、本質は「いつでも休める環境を作ろう!」ということです。

現在の有給休暇取得率は85.9%で、かなり改善されました。振替休日の残日数もかなり少なくなりました。土日・祝日に出勤すると、その分をどこかで休まないといけない。昔は休もうにも休めなかったから、どんどん溜まっていき、10年前は全従業員の合計で未消化の振替休日が3,000日くらいありました。そこから、ちゃんと休める環境を整えて、2020年にはゼロにまで持っていきました。今は「土日・祝日に出勤したら必ず翌月には休む」というルールを作り、徹底しています。

 

■仕事量をコントロールするために、売上げを下げた

小柳建設は「会社のキャパシティに対して仕事量が多すぎる」と考えて、ある時期から戦略的に売上げを減らしたそうですが、経営者としてその判断を下すことはかなり勇気が必要だったのではないですか?

私の社長就任後、役員も入れ替わったのですが、新しい役員たちと話をする中で可能だと思いましたし、「やらなきゃいけない」とも思いました。私が社長になった年の売上げは119億円。対して、2022年の売上げは65億円です。売上げだけで言えば半分になっていますが、利益の額はほぼ変わっていません。つまり利益率が上がりました。

売上げを減らしても利益が以前と変わらないということは、社員に還元できる額が増えるということです。仕事量を戦略的にコントロールしているから、残業もしなくていいし、休みやすい環境も作れます。

一般的に、中小企業の建設業で売上げが高いというのは、「工事現場がたくさんある」ということなんです。でも会社のキャパシティに対して、それを超えかねない工事を受注してしまうと、品質管理や安全管理にも影響が出かねません。

そこで、弊社は「売上げをたくさん上げる方向」ではなく、「利益をしっかり出せる方向」に舵を切りました。そのためには知恵を絞って、いろいろな工夫や効率化をしないといけません。それが業務改善につながり、社員の健康や幸福にもつながっていくのですから、いいことずくめですよね。

その連鎖は、新人教育にも良い効果を生みました。以前は、忙しいが故に「育てる」という価値観が希薄で、現場の先輩社員が新卒社員に対して「そんなことも知らないのか!」という態度で接してしまうこともありました。その結果、翌年には半分くらいが辞めていました。他の建設会社に聞いても似たようなもので、業界の常だとも言われましたが、教育がおざなりになるのは、現場が忙しかったからなんです。忙しいから育てる余裕がない。それも、仕事量をコントロールすることで改善されました。今では新卒の3年以内離職率は5%を切りました。