
英語が好き、家族が好き、富山が好き。海外経験を経てたどり着いた、私らしい働き方と暮らし
サマリー
地元・富山での生活を選んだ理由
中学の頃、英語の文法がパズルのようにカチッとハマった瞬間を体験し、英語が大好きになったというアンソニーさん。高校卒業後、東京の外国語専門学校への進学を経て、アメリカ・シアトルの大学へ留学しました。
「海外生活に憧れがあったので、そのままアメリカで就職することも考え、インターンなども経験しました。でも、実際に住んでみると、主張がはっきりした方が多い環境は、自分ののんびりした性格には合わないと感じることが多かったんです。富山で暮らす家族や、ゆっくりと流れる時間、豊かな自然が恋しくなっていました」
アメリカで多様な生き方に触れる生活は、「自分にとっての心地よい暮らし」を考える機会になったそうです。
「一方で、学費を稼いで学び直しに来た30代の方や、私の祖父と同じくらいの年齢の方も入学してくる環境にいたことで、人生にはいろんな選択肢があって、年齢に関係なく挑戦はできるんだなと視野が広がりました」
大学卒業後、富山に戻ることに迷いはなかったものの、仕事探しには苦労があったと言います。「英語を生かせる仕事」を第一条件に掲げたアンソニーさんの前に、地方の厳しい現実が立ちはだかります。
「富山では、希望する求人が本当に少なくて、思わず都心だったらどんな求人があるんだろうと、検索してみたこともあります。そこには、挑戦してみたいと思うような仕事がたくさん並んでいて、正直、気持ちが揺らがなかったわけではありません。でも、仕事と住む場所を天秤にかけたときに、私は富山での暮らしの方が大事だなって思ったんです。それで、富山にある選択肢の中で最善を尽くそうと決めました」
帰国後、英語講師として働き始め、そこで現在のご主人であるアメリカ人男性と出会います。
「彼の仕事の関係で、もう一度アメリカに行くことに。でも、夫も私も富山が大好きだったので、できれば行きたくなかったんです(笑)。『なるべく早く戻ってきたいね』と話していて。富山に帰るためには、夫は会社を辞め、夫婦そろって仕事を探さなければならない状況でしたが、2年が経ったタイミングで戻ってきました」
「この先ずっと富山で暮らすんだろうなと思っています。大切な家族がすぐそばにいてくれる安心感。車を少し走らせれば、どこまでも青い空と雄大な自然が広がっている景色。そして何より、人の温かさが大好きなんです。スーパーで買う魚や野菜、農家さんから直接分けてもらうお米も、全部が本当に美味しくて。もう、ここから離れられません」
現在の仕事内容
夫婦でUターン後、大学の国際学部の職員としてキャリアを再開し、妊娠を機に退職。子どもが幼稚園に入園するタイミングで、仕事復帰を目指します。ハローワークに手続きに行った際、偶然声をかけてもらった派遣会社の方との出会いが、思いがけない縁につながります。
「今は求人がないけれど、良い会社を知っているから話を聞いてみないか」と紹介されたのが、現在働く株式会社PCOでした。
「日本全国で開催される国際会議をはじめとしたコンベンションを裏から支える企画運営会社と聞いて、地元にそんな会社があることにまず驚きました。面談で、自分の英語力を生かせるだけでなく、新しいジャンルの仕事に挑戦できることが想像できて、とてもワクワクしたのを覚えています」
入社当時はコロナ禍で、私はフルリモート勤務のパートという形で働き始めました。「まさか富山で、フルリモート勤務できるとは思っていませんでした。初めての経験だったので、最初は緊張の連続でしたね。いつ会社の人から電話がかかってくるかわからないので、自宅で誰も見ていないのに、背筋をピンと伸ばしてパソコンの前で待機するような、そんな日々がしばらく続きました(笑)。だんだんと仕事の進め方にも慣れ、休憩時間に家事を済ませるなど、効率的に時間を使う工夫も身につきました。幼稚園の送り迎えがある時期だったので、会社までの移動時間を気にしなくてよいのはすごく助かりました」
入社から半年後、「社員にならないか」と声をかけられ、時短社員に。現在は、リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方ですが、その日の状況に応じて柔軟な対応が可能だと言います。株式会社PCOは「とやま女性活躍企業」に認定されており、女性が働きやすい環境づくりにも力を入れています。
「例えば、子どもの体調が悪い時や大雪で外出が危険な日などは、リモート勤務に切り替えることもできます。子育て中のスタッフも多く、『お互い様』という雰囲気で自然にフォローし合えるんです。日頃から仕事の進ちょくもこまめにチームで共有しているので、誰かが急に休んでも対応できるようになっています。『時間が足りなくて、ここまでしかできなかった』といった罪悪感や焦りを抱えることなく、安心して仕事に取り組めています」
入社して3年。学会の参加者対応や専用サイトの作成、各種マニュアルの翻訳など、英語対応業務の中心となってチームを支えるアンソニーさん。これから我が子の成長に合わせて働き方を変え、ステップアップしていきたいと考えています。
「今はまだ時短勤務ですが、子どもが学校生活に慣れたらフルタイムで働いて、出張にも行ってみたいですね。仕事の幅をさらに広げて、もっと責任のある仕事にも挑戦してみたいと思っています。段取りが抜群にうまくて、どんな案件でも的確に対応できる素敵な先輩がいるんです。そんな先輩のようになれたらと、日々の業務の中で一つでも多くの『気づき』を得られるように意識しています」
地方都市での暮らし
富山での暮らしについて、アンソニーさんは「ここで暮らせることが本当に幸せです」と笑顔で語ります。
「休日は家族と自然の中で過ごします。仕事や家事であれもこれもしなきゃと、無意識に肩に力が入ってしまうことがあったら、近くの山や公園に行って深呼吸をするんです。それだけで『ああ、最高だな〜』って、心と身体の力がふっと抜けていく。また頑張ろうって思えるんですよね。車で少し走ればすごくきれいな海岸があるのですが、そうした場所に週末でも渋滞を気にせず気軽に行けるのも、富山の大きな魅力だと思います」
富山での生活は、子育ての面でもメリットがたくさんあると言います。
「習い事などの選択肢は、確かに都心に比べると少ないかもしれません。でも、広い公園が多く、児童館も充実している。この環境は、のびのびと子育てをしたいと考えている私にとっては理想的です。近所の方もよく声をかけてくださるので、地域全体で子どもを見守ってもらえているんだと安心する機会も少なくありません」
「ただ、北陸と聞くと涼しいイメージがあるかもしれませんが、富山の夏もかなり暑いんですよ(笑)。私が子どもの頃とは、暑さの質もだいぶ変わりましたね。冬は雪も多く、朝起きたら駐車場から車が出せない、なんてこともあります」
地方都市での暮らしを考えている人へアドバイス
地方での転職活動については、理想通りの仕事や働き方を見つけるのは容易ではないものの、諦める必要もないのではと、アンソニーさんは言います。
「新しい職種に挑戦すること、理想の働き方がかなう企業と出会うことは、まだまだ難しいかもしれません。ですが、理想にぴったりの仕事がすぐに見つからなくても、目の前にきた縁やチャンスを大切にして、精いっぱい取り組むことで、次の縁につながると思います。地方都市では、人と人との繋がりがもたらしてくれるものは、本当に大きいと感じています。私も『英語を生かした仕事をする』という長期的な目標を持ち続けながら、その時々で目の前にある仕事に一生懸命取り組んできたからこそ、今の仕事に巡り会えたように思います。何よりもまず、『地方での暮らしに何を求めているのか』『この土地で何を大切にしたいのか』を明確にすることが、自分らしい働き方や暮らし方を見つけていくためのヒントになるのではないでしょうか」