どんな会社
島根電工株式会社
・事業内容:電気・空調・給排水・上下水道・通信・エネルギーなどの設備工事、設備のエンジニアリングサービスなど
・創業:昭和31年(1956年)
・本社所在地:島根県松江市東本町5丁目63番地
・従業員:389名(2018年4月)
・平均年齢:35.5歳(2018年4月)
・企業ホームページ: http://www.sdgr.co.jp/
昭和31年創業。グループでは600人を擁する地域の大手企業。公共工事案件が激減する中で、家庭向けサービス業への転換を行った結果、利益はバブル期の6倍、設備業界でも完成工事利益率が全国5位となるなど大きな成長を遂げました。また、同時に注目されるのが働き方改革によって実現された手厚い労働環境。働く時間を減らし、給与を上げながらもビジネス転換や利益伸長を達成できた理由と、社員に対する考え方についてお話を伺いました。
TOPインタビュー
島根電工株式会社
代表取締役社長 荒木 恭司氏
1972年入社。1985年に出雲営業所長、1989年に取締役、1996年に常務取締役を経て、2010年より代表取締役社長に就任。島根電工グループ全4社のトップも務める。また業界活性化を目的に、2013年より全国50を越える設備工事会社の経営支援・フランチャイズ展開も手掛けている。
■市場の変革と、ビジネスモデルの転換
30年前、弊社のメインビジネスは公共事業でした。具体的な案件としては、県や市が所有する公共施設の電気や給排水、空調や通信設備工事などですね。地方の設備会社によくある事業構造です。しかしバブル崩壊とともに案件数は激減。国全体でも平成7年に35兆あった公共事業は、平成23年には17兆へと縮小していきました。
ジリ貧が進む中で転換を図ったビジネスモデルが、地域の個人家庭から低額工事を請け負う『住まいのおたすけ隊』でした。ご家庭の「照明が暗い」「お風呂をリフォームしたい」「トイレの水が流れない」といった小さなオーダー全てにお応えするサービスです。ただ、それまでのビジネスからすると、顧客像も違えば工事内容や案件規模も異なる事業であったため、開始当初は社内から反発もありましたね。
これまで手掛けてきた設備工事は、病院や庁舎といった大きな建物がほとんどでした。県や市の職員相手に営業活動や工事の進捗報告を行っていましたが、ビジネス転換後は高齢者やファミリーといった一般のご家庭の多様なお悩みに応えなければいけません。また、個人宅からのご依頼は、時には数千円程度と少額です。それまで「大きな仕事をしている」ことにプライドを持っていた社員には戸惑いもあったようですね。
でも、ほとんどの社員は柔軟でした。仕事内容ががらりと変わったのに「直接人の悩みに応えられて面白い」「地域の役に立っている実感がある」など、ポジティブに受け入れる社員の方が多かったですね。講演などでこの話をすると、なぜそんなにスムーズに社員を変えられたのかとよく質問をされます。その度に私が答えるのは「これまで地道に培ってきた文化こそが、成功要因ではないか」ということです。どんなに優れたビジネスモデルも、社員のやる気次第で成否が分かれます。創業以来、島根電工がこだわってきた文化に『自鳴』という考え方があります。社員ひとりひとりが自分なりの思いや目標を持ち、もっと成長したい、挑戦したいと考え動く「自ら鳴ける」人材であること。この文化や土壌があったからこそ、社会やビジネスの変革に食らいついて来られたのではないかと思いますね。
現在、個人のお客さまから寄せられる依頼は年間3.6万件。『自鳴』の社員たちが積極的に新サービスへ取り組んだ結果、バブル期の平成元年に57億円だったグループ売上は平成28年には165億円となり、利益も3億円台から11億円台へと大きく成長しています。
■懐深い文化が『自鳴』な社員を育てる
もともと、島根電工には創業社長の代から個人の思いを尊重する懐の深さがありました。実は20代の頃、私は3ヶ月も無断欠勤をしたことがあるんです。日々仕事をする中である時、生きるって、働くって何だろう?と思い立ち、石垣島に旅立ちました。ずっと青い海と島を見ながら、会社は首になるだろうと思いましたね。3カ月経つ頃、状況を知ったお客さまが「謝らないとダメだ」と怒ってくれました。その通りだと創業社長へ謝罪に行ったら、彼は「いつから出社するんだ?」と言うのです。びっくりしました。問答無用で首にされると思いきや「荒木にも何か思うところがあるのだろう」と、広い心で受け止めてくれたのです。
復帰後は「もっと良い仕事をしてやろう」「平社員の時は主任、主任の時は課長の視点を持って、より高い成果を出そう」とがむしゃらに挑戦を続けたら、気づけば社長になっていたという感じですね。人は、自分自身を認められるとより奮起できるものだと思います。あの時創業社長が見せた懐の深さが、私が成長できたひとつの理由でしょうね。社員ひとりひとりの思いや夢、挑戦を大事にする。そんな文化が創業以来積み上がってきたからこそ、『自鳴』な社員が育ってきたのだと思います。
■社員には限りなく大きく夢を見て欲しい
『自鳴』するからには、とことん大きな夢に向かって挑戦してほしいですね。ちなみに、あなたの夢は何ですか?そう聞くと、多くの方は「温かい家庭を持ちたい」「早く課長になりたい」などと答えます。でも、それって夢ではなく、目標です。夢とは、簡単には手が届かないものです。
私の夢は「テクマクマヤコンで、家じゅうの照明がパッとつくこと」。テクマクマヤコン、分かりますか?アニメ『ひみつのアッコちゃん』でヒロインの少女が持っている魔法のコンパクトです。今の住宅は配電設備が巡らされ、スイッチを押すと照明が灯るのが常識です。でもいつか、テクマクマヤコンをピッと押したら、電気ではない魔法のような仕組みで家じゅう明るくなる日がくるかもしれない。
決して荒唐無稽な話ではありませんよ。例えば数十年前、電話は一家に一台のみでした。私が学生の時は、居間や廊下にある固定電話から、親に隠れてコソコソ彼女に電話したものです。その後、電話の子機というものが生まれ、配電工事をした自室の子機から心おきなく電話ができる時代が到来しました。でも、今はスマホ時代ですので、固定電話を持たない家が増えましたよね。
同じく、少し前までは各部屋にネット通信のLANケーブルが配置されていましたが、今はWi-Fiに代替されました。このように日進月歩で新しい技術が生まれて、魔法のような世界が次々実現しています。それに伴い、設備工事のあり方もどんどん変わっているのです。
だから社員には、頭を柔軟に、もっともっと大きな夢を見て欲しいですね。そのためにはいい感性と創造力が必要です。ちなみに、あなたはお酒を飲まれますか?若い人はビール党が多いですけど、たまにはいい焼酎やウイスキーを飲まなきゃダメです。いいグラスにいいお酒をロックで注いで、カランカランという音に耳を澄ます。そんな上質な体験をすると、感性や右脳が刺激されますね。気分も高揚して、グラスを片手に普段なら見ないフランス映画を見るかもしれない。お酒をより楽しめる空間づくりや照明に興味を持つかもしれない。新しい世界が広がります。
そんな体験をしてもらうために、島根電工ではバカラの高級グラスを使った研修もしています。いい感性があれば、お客さまの前でも相手の気持ちを想像したり、自分と違う世界を受け入れるゆとりが生まれるものです。うちは「決定的瞬間は社員が創る」、つまりお客さまに評価されるか否かは、直接お客さまと接する社員次第だと考えていますが、人間的に一回り大きい、魅力を持った社員を育てていきたいですね。
■期待をこえる感動を
「期待をこえる感動を!」。これが、島根電工が創り出したい価値を一言にまとめたスローガンです。
世界一と言われるリッツカールトンホテルの、営繕係の話を知っていますか?営繕係とは、建物の設備や修繕、模様替えをする仕事です。あるホテルのオーナーがリッツに見学に行ったところ、ちょうど梯子を立てて電球の交換をしようとしている営繕係がいました。しかし、梯子を上ったと思ったらすぐ降りてきたのです。何をしているのだろうと見ていたら、彼は梯子を片づけ、両手にたくさんの荷物を抱えたロビーの女性の所へ向かい、笑顔でドアを開けました。見学中のホテルオーナーは「あなたの仕事は営繕係でしょう?」と尋ねます。すると、営繕係は「私の仕事はリッツに来たお客さまに感動して帰ってもらうことです」と答えたんですね。
お客さまが求めていることをやるだけじゃ、全然足りないと思います。お客さまでさえ気付いていないこと、期待していないことを先回りして挑戦できる企業でありたい。だから「期待をこえる感動を!」というスローガンを作りました。
お客さまから「水漏れトラブルで電話したのに、気づけば両親の介護の相談をしていました」「こんなに趣味に打ち込める部屋ができるなんて驚きです」といった感動レベルの言葉をいただける存在であってほしいですね。感性を豊かに、お客さまの思いを真摯に捉えていい仕事をすれば、きっと地域や社会の多くの方を驚かせるサービスが実現できると思っています。
■週3日のノー残業デー、給与改善など『社員に優しい労働環境』
さまざまな施策を行っていますが、特に驚かれるのは月水金と週に3日もあるノー残業デーでしょうか。もともとは平成21年に、水曜日のみノー残業デーを取り入れたのですが、気づけば週3日に増えていました(笑)。最初こそ現場から「仕事が終わらない」と言われましたが、みんな「じゃあどうすれば効率が上がるのか」と考え行動を変えたら上手くいったので、2年後にはじゃあ金曜も、7年後には更に月曜も残業無しにしようとなりました。
本気で取り組めば変われるんですよね。例えば見積のシステム化を行いました。ご家庭の設備工事というものは細かいご要望が多く、ご提案や見積は複雑になりがちです。そのため何度もお客さまへヒアリングを行い、何パターンも見積を作成するという流れが一般的でした。ここにメスを入れ、サービスごとの単価を一元化し、営業が持ち歩く端末ですぐ見積を出せるシステムを作ったところ、1回目のご訪問ですぐ見積をお見せできるように。お客さまからも、すぐ費用感が分かると好評ですね。
他にも社員たちからは毎月100件もの改善提案が届きます。無駄な資料を廃止したり、各部ごとにそれぞれ業務フローを改善したところ、業務効率は大幅に上がりました。ここまで仕組みを鍛えると、残業可のはずの火曜・木曜も早く帰れてしまうので、結局ほぼ毎日ノー残業デーになっています(笑)。さらに、月末の金曜日は15時に退社する『プレミアムフライデー』も始めました。せっかくなら地域にお金を落としてもらおうと、この日は全員に4千円を配っています。ビールを飲みに行くなり、ちょっといいケーキを買って帰るなり各々楽しんでいますね。
他にも給与改善、育児や介護に関する休暇、各種福利厚生など、社員が働きやすい取り組みを行いました。ご紹介しきれない位です。結果、離職率は1%台へと大幅に下がり、皆が働きやすい会社が実現できてきたのかなと思います。
■会社は、手厚い環境さえあれば良くなるものではない
外の方には「こんなに楽な環境を用意され、なぜ社員は甘えないのでしょうか?」とよく聞かれます(笑)。確かに、うちの制度を上辺だけ取り入れても「ノー残業デーを取り入れたが、他の日にしわ寄せが来てみんな疲れている」「給与を上げたが、売上も利益も上がらない」といった問題が起きるでしょうね。仕組みさえあれば一朝一夕に会社が良くなるものではないと思います。
私は、働きやすい環境というものは、意欲の高い社員がいて初めて相乗効果をもたらすものだと思っています。外部の方にはよく「島根電工さんは社員の元気が違う」と言っていただくのですが、もっと成長したい、もっとお客さまへより良いものを提供したいというポジティブなエネルギーを備えた社員たちが居るからこそ「休みが増えてラッキー」ではなく、「じゃあもっと仕事の質を上げよう」と考えるのだと思います。
うちには新卒2年目でいい車を買ったり、20代で家を建てた社員がいます。「大丈夫?燃え尽きない?」と聞いたら「いえ、むしろもっと成長して稼ぎます(笑)」と言われました。創業以来、こんな『自鳴』の自立型社員が地道に育っているから、手厚い労働環境は足を引っ張る道具ではなく、更なる『自鳴』を作るためのリフレッシュ装置として働くのだと思います。
今後、設備業界の未来はどう変わるか分かりません。私にも全く想像はつきません(笑)。でも、『自鳴』の社員さえいれば、どんな未来になろうが、みんな勝手に考えて走ってくれる。そんな社員や文化こそが会社の幹であり、経営陣として一番にこだわり続けるべきものだと考えています。