「人を大切にする会社」って
どんな会社

但陽信用金庫

但陽信用金庫
企業情報

・事業内容:兵庫県加古川市、高砂市、姫路市を中心とした13市3郡にて、預金、融資、為替などの金融業務を行う

・創業:大正15年(1926年)

・本社所在地: 兵庫県加古川市加古川町溝之口772番地

・従業員:役職員698名+パート職員21名・平均年齢: 38歳(2018年6月末)

・企業ホームページ:https://www.tanyo-shinkin.co.jp/

企業情報
Point 1
地域経済の循環役/地域ボランティア活動
Point 2
「思いやり」溢れる福利厚生制度
Point 3
衰退市場での事業成長

「よろず相談」をモットーに掲げる、兵庫県の但陽信用金庫。バブル崩壊後の1990年代以降、信用金庫の多くは経営難に陥り、その半数が統廃合を行いました。しかし厳しい環境下で、但陽信金は92年もの間、他行との合併をせず、預金量の増加率が全国平均の2倍と圧倒的な成果を出し続けています。根底にある人や地域への「やさしさ・思いやり・誠実」という但陽の精神と、その温かさが地域・職員に愛され、利益を生む仕組みについてお話を伺いました。

 

TOPインタビュー

TOPインタビュー

但陽信用金庫
理事長 桑田純一郎氏

昭和47年に入庫。平成2年より理事長に就任。個人的な慈善活動として、日本赤十字社、兵庫県更生保護協会、警察官友の会など多数機関の支援を行っている。

 

■健康・介護・子育てなど全てに応える「よろず相談信用金庫」

会社のモットーとなる「よろず相談」とは、具体的にはどんな内容でしょうか?

預金・融資やローンのご相談のほか、「最近腰が痛くって」「妻が母親の介護に疲れて困っている」「子どもの進学先をどうすべきか」など、ご相談件数は年間約8千件ですが、うち300件ほどはお金に直接関係がない事ですね(笑)。

 

私たちから、金融サービスと無関係のご提案をすることも多いです。「私どもの融資を受けるより、まずは県の助成金に申し込んだら無料ですよ。お手伝いします」など、本当にお客さまが望んでおられることは何か、私たちにできることはないか真剣に考え、解決策をお話しています。

 

こうお話すると「それって理想論ですよね」と言われることもありますね。でも、本心から「世のため人のため」と思って動く職員が多いのが私どもの特徴だと思います。採用段階でそういう人材を採用しているのが最大の理由ですが、「人に喜んでいただけることが嬉しい」「そのために頑張りたい」という職員が殆どです。

■阪神淡路大震災以降、毎日続けているボランティア活動

20年以上続けている、毎日10名の職員を仕事の一環として派遣する地域ボランティア活動も、「お客さまの悩みにとことん応える」取り組みの一つでしょうか?

そうですね。但陽の地域貢献活動はかなり幅広く、寄付も含めた経費総額は年間数千万円に上るなど頑張っている方だと思います。地域の歴史や文化継承、高齢者・障がい者など社会的弱者の支援、地域イベントの支援などを行っています。

 

中でも力を入れているのが「移送サービス」でしょうか。きっかけは阪神淡路大震災でした。犠牲者6千人を越えた1995年の震災当時、私たちに何ができるだろうと考えた中で、土日を問わず交代で皆が物資の仕分け・配送作業や、トンカチを持って仮設住宅の修繕を行いました。数か月・数年経つと、最低限の衣食住が整ってきます。そして同時に記憶は風化し、多くの方は援助を打ち切るのです。でも、まだ困っている人がいるはずだと始めたのが個別のケア訪問や移送サービスでした。

 

移送サービスの主なお客さまは高齢者や障がい者です。車いすにも対応し、寝た状態で移動できるストレッチャーもついています。ちょっとした通院や買い物にも気軽に利用いただくこのサービスは好評で、2000年には専門のボランティアセンターも設立。職員を毎日10名派遣して、常時5台が地域の足として活動しています。「孫の運動会に行けて嬉しかった」「久しぶりにお友達に会いに行けたわ」などの声も伺いますね。

■「やさしさ・思いやり・誠実」が信頼になり、巡り巡って帰ってくる

お話を伺うと、地域に注ぐ愛情やお金のボリュームが非常に大きすぎるようにも感じるのですが、失礼な言い方をすると、厳しい経営環境の中で、なぜ利益を守りながらボランティア活動を続けてこられたのでしょう?

 

さまざまな人や物事に愛を持って向き合うことは私たちの信念で、他の無駄は削っても「やさしさ・思いやり・誠実」だけは絶対に捨てられないから。これが本質的な回答だと思います。例えば夏場は半そでを着たり、ネクタイも好きな色を締めたり、私どもは服装が自由です。本当に金融機関ですかと驚かれることもあります(笑)。でも、わざわざ夏場にスーツを着て、クーラーの設定温度を下げるのは環境にも良くないし不自然ですよね。そういう無駄は徹底的に省きます。無駄な資料作りや会議もやりません。もっと「人を幸せにするために何ができるか」に向き合う時間を増やすことの方が大切だと思いますね。

 

加えて、ビジネスとしては、地域に信頼して相談されることが仕事の第一歩だから、信頼されることが重要だということですね。金融機関のどこに預金してもほぼ金利は変わりませんし、サービスの差は存在しません。また信用金庫の利益は、法人や個人にお金を借りていただく融資業務が大きな割合を占めます。その中で、大事なお金を他行でも株式運用でもなく但陽に預けたい、但陽から借りたいと思ってもらうには、「あそこなら安心だ」と思える日頃からの信頼関係が大切だと思います。

 

多くの方に便利にお使い頂けるように、他行より多く設置している店外ATM出張所など設備も整えています。兵庫県は金融機関が多く、過去30年間に多くの信用金庫が統廃合を行う中で、私どもは一度も合併することなく6倍も預金量を増やすことができました。こつこつ信頼を積み上げてきた結果だと思っています。

■地域企業を元気にし、「働ける場」を作ることが社会貢献

地域への投資・融資というお話がありますが、具体的にどのような事を行っていますか?

地域活性で最も重要なのは、地元の方にとっても、UIターン希望者にとっても「地域が経済的に元気になる」ことではないかと思います。帰ってきても、働く場所がないと生活していけません。だから地域の企業ひとつひとつが元気になることが重要です。特に、私たちの営業エリアの3分の1は、消滅都市地域と呼ばれています。しっかりと顧客に関わり、さまざまな支援を行うかどうかで、数十年後の地域の未来が決まるかもしれない。そんな覚悟でお客さまに向き合っています。

 

例えば、2千万以上の融資がある法人顧客には、経営アドバイスを直接行っています。経営計画から業務の効率性、人材教育まで状況を伺い、一緒に悩みます。例えば兵庫県神河町では、存続が危ぶまれている伝統の茶栽培(仙霊茶)があります。何とか赤字を解消し、自力で経営を維持できる体制を整えました。また、後継者問題に悩む姫路市のある建設会社では、会社の魅力を幹部と徹底討論し、事業承継の支援を行ったことなどがあります。

 

また、観光ルートの地域連携といった取り組みも行っています。日本全体でインバウンド需要が増える中、世界遺産「姫路城」がある姫路市の外国人観光客も増加しています。しかし、姫路市で宿泊することなくすぐ大阪や京都に戻ってしまう。地元には「銀の馬車道・鉱石の道(生野銀山)」という日本遺産もあります。この生野と姫路をセットで回ってもらうことで、滞在時間を増やし、兵庫県にお金を落としてもらう取り組みを行っています。更に地域全体で、歴史や文化に思い入れを持つことも大事だと思っています。小学校や中学校で地域の歴史文化を学ぶ授業も支援しています。大人になった時に皆が地元を好きでいられる、地域に誇りを持てる状況を作りたいですね。

■職員に求めるのは、価値観が同じであること

お客さまや地域を大事にするために、「やさしさ・思いやり・誠実」の心が必要とのことですが、人材採用ではどんな所を見られていますか?

常々話しているのは、「想いが一緒か」ということですね。約半世紀も一緒に働く仲間だから、お互いの考え方に納得できないと辛いですよ(笑)。私どもの新卒採用は、他社さんと比べ選考過程が長いです。私が学生に直接語るトップセミナーをはじめ、複数の説明会と5回の選考を設け、さまざまな職員が正面から向き合うことで、お互いの価値観を確認しています。企業によっては成果報酬だったり「頑張った分、しっかり稼ぐ」という価値観の会社もあるかと思いますが、私どもは「人を幸せにすることが自分の喜び」という人を探しています。

 

更に一番大事なのは、職員自身やその家族の幸せです。まず自分が満たされないと人のことを考える余裕もできません。「仕事も遊びも全力でやる」つまり、「一生懸命、生きよう」と職員には言っています。私ももちろんしっかり遊んでいます。夏はキャンプ、冬はスキー。新しいことにも色々チャレンジします。今は1年目の職員に教えてもらったロボットダンスを練習中ですし、レゲエも聞いています。若いでしょ(笑)。

 

オフを充実してもらうために、制度も色々整えています。私どもの残業時間は他行と比べて1日1~2時間も短く、ほぼ定時退社。給与水準も比較的高いのに、更に配偶者や子ども手当も充実させています。例えば子ども手当は1人につき月額1万円、第3子以降は1人3万円ずつ。大学卒業まで1人あたり264~792万円を支給しています。3人お子さんがいる場合は計1,320万円もらえる計算ですね。更に配偶者手当を含めると2,088万円支給されます。他社さんに驚かれることもありますが、ちゃんと利益を出しているからできることです。

 

ただ、全てのスタートは「人のためになりたい」という心。人のために頑張った結果、信頼されて、お金もいただき、自分自身もお客さまも地域も皆で幸せになれるという循環が回るのです。

 

但陽のロゴマーク(社章)は木です。田んぼは苗を植えて半年で米が実りますが、木は植えてから30年後に始めて商品となり、成果が出ます。「人間愛」は創業当初からのポリシーですが、「人のために頑張る」という思いで、コツコツ地道に積み上げて、数十年後ようやく地域からの信頼という形で花開いているのだと思います。