地方で生きる

離島で働く 番外編

島の「働く」をつくる人々

離島で働く人々を紹介する特集「離島で働く」シリーズ。
番外編として、島で仕事をつくる人々の話を通じて、島で働く可能性について考えてみたいと思います。

離島×複業の可能性

11月末。東京都内で、「離島×旅×複業」がテーマのシンポジウムが開催されました。100人の定員はすぐに満席になり、離島や複業(マルチワーク)への関心の高さがうかがえました。
シンポジウムでは、島の行政や離島振興に関わる様々なパネリストが意見を交換し、島で働く可能性について語りました。

離島は、経済規模や高齢化の観点から、経済活動には不利であり、日本全体の課題を先取りしている課題先進地域といえます。

一方で、課題を先取りして危機感が強く、小回りがきく規模であるため、新しい生き方、働き方が試行錯誤の中で生まれてくる先進地であるともいえます。

元々、小さな経済圏で、複数の仕事を行うことが当たり前であったり、個人間で仕事を発注し合ったりする土壌がある社会は、これからの世界の流れにマッチしており、離島で培われたモデルが各地に展開していく可能性も十分にあります。

実際に、島でマルチワークを行う人や仕事を創り出す人はどのように考えているのでしょうか。

八丈島

離島のデメリットをメリットに変える

株式会社なんのこれしきダイビングショップ アラベスク
代表 小金沢 昌博 さん

神奈川県小田原市出身。
飲食店に勤務していた20代の頃、経験や得手不得手関係なく、心から楽しいと思ったことを仕事にしようと思い、ダイビングを仕事にすることを決意。26歳で単身八丈島へ移住した。
現在は、ダイビングショップを経営しつつ、農業や販売などにも事業を展開している。

この夏、62歳の方が私の経営するダイビングショップで働いてくれました。高校の体育教師だった方で、定年後、ダイビングの仕事をしたかったものの、30軒以上全国各地のダイビング会社を回っても雇用してくれるところがなく、Webで弊社に辿りついたそうです。

面接では、腹を割って話すことができたので、彼が期待するものと弊社が期待することが一致していることがわかり、雇用関係を結び、大変活躍していただきました。

現在、物販や農業など、新たな事業を創っているところです。
それにより、例えば、丸一日ダイビングの仕事をする体力はなくても、今まで積み重ねてきた経験を活かし、他の仕事と組み合わせることで、どのような地域・場所でも、受け皿があれば働く環境を提供することができると思ったからです。

昨今の縮小する経済、ましてや島という小さな経済圏で生きていくには、どれだけマルチワークができるかが重要になり、高いコミュニケーションスキルも求められることになると思います。

私は、自分の会社で複数の事業を持ち、働く人が複数の仕事ができるような場にしたいと思っています。

島で暮らし、働くとなると、都会の喧騒から離れてのびのびとした暮らしができるというイメージがあることでしょう。確かにその一面はありますが、同時に生計を立てる手段は都会ほど多くないという現実があります。そのため、自分で考えて仕事をする、自分で考えて暮らしをつくっていける人でないと、楽しめないのではないかと思います。

逆に、自分で何かに挑戦したい、暮らし方さえもつくってみたいという人には最適の環境であると言えます。

単純に人口で考えても、八丈島だったら7,500人のうちの1人です。
都会には、たくさん人がいて、仕事はあるけど舞台がないのだと思います。一方で、島には舞台はあるけどキャストが足りない状況と言えます。

人も土地も限られた中で何かを始めれば、稀有な存在となります。そのため、都会では限られた人しか出会えないような新しくて面白い事業を展開している方々、革新的な技術を持ち、それを広げる場所を探している方など、ビジョンを明確にもち、挑戦し続ける方々と出会う確率が圧倒的に高まります。

この、優れた情報に触れるチャンスの多さは、表立って知られていないように感じますが、離島で働く強いメリットだと私は思っています。

佐渡島

島の状況に合わせた事業を行う

株式会社早助屋
山内 三信 さん

神奈川県横浜市出身。
海外でホテルビジネスを学び、横浜のホテルで働いていたが、15年前に妻の実家である佐渡島に移住。
佐渡島の特産品である「いごねり」を製造する株式会社早助屋の4代目を務める。

いごねりは朝8時前から製造を始めます。お盆前の繁忙期は何回も蒸す作業を行いますが、通常時は午後3時には仕事が終わります。保育園に子どもを迎えにいくスタッフにも都合がいいようです。

いごねりは、昔は各家で祭りのときなどに作られていましたが、今は会社で製造し、スーパーでも買える日常食になりました。以前は8割が島内消費でしたが、現在は6割程度にとどまり、島外消費を増やし、島の人口減少による需要減をカバーしていこうとしています。

「チーム佐渡島」を結成し、佐渡の産品を全国に販売する活動もしています。

いごねりの会社を経営する傍ら、民泊事業も行うようになりました。

3年前にゲストハウスも建設しました。2階建ての2階部分がゲストハウスですが、共同スペースはイベントやオフィスとしても使え、海の見えるサテライトオフィスとして活用できます。1階はレストランとなっており、店の奥にはスタジオがあり、近隣の人が、寒い季節にもヨガなど運動を行えるスペースとなっています。島外の人向けのサービスと島内住民向けのサービスを並立させているスタイルと言えます。

島の環境を活かし、無理のない事業を行っています。

島全体の魅力を伝える

Ryokan 浦島
代表 須藤 誠 さん

佐渡島出身。
東京の大学を卒業後、実家である佐渡島のホテルを継ぎ、兄弟と一緒に運営している。
ホテル経営の傍ら、島の魅力を伝える活動や外部への情報発信を積極的に行う。

佐渡島は、小さな島の中に山、川、海と全てが濃縮してつまっていて、気候も様々。とれる産品も様々です。

島の若手と協力して、佐渡島の名産が一覧で見られるイラストマップをつくりました。島の子どもにも、外から来た人にも佐渡島の多様な魅力が伝わることを願っています。

ホテルの目の前には海が広がり、散歩には最適です。
自分が生まれ育った島ですが、外の人に伝えたい魅力はたくさんあり、SNS等を通じて発信することにも力を入れています。

ぜひ多くの方に来島いただきたいと思っています。

まとめ  

「島で仕事をつくる」をテーマに、挑戦する事業者の方々へお話を聞きました。

皆、それぞれの視点で、島の特徴を活かし、足りない点をカバーし、工夫しながら事業を成り立たせていました。

島で働くことは、決して楽ではありません。
一方で、島ならではの可能性にあふれていることも事実です。

離島で暮らすことを今後考えられる人は、過大に期待するわけでも、不安になって諦めてしまうのでもなく、挑戦している先輩から学びつつ、島で働くことを考えてみてください。

社会が変わっていく時代においては、島は最先端の地であり、チャンスにあふれた環境になっています。

以上