地方で生きる

若い人たちに届けたい「地方の魅力」【群馬県編】

群馬県が移住希望地ランキングで1位に!

ふるさと回帰支援センター発表の「2024年・移住希望地ランキング」で、群馬県が初の1位を獲得しました。
東京から新幹線で約1時間というアクセスの良さと、山・川・温泉がそろう自然環境。都会でも田舎でもない、“ちょうどいい暮らし”を求める若年層に今、群馬が支持されています。
その理由を、3人の声から探ります。

 

▶ふるさと回帰支援センター 移住希望地ランキング(2022-2024)

※ ふるさと回帰支援センター窓口相談者・セミナー参加者アンケートより集計(複数回答) 

 

 

2024年 窓口相談者 年代別 移住希望地ランキング

出典:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター
https://www.furusatokaiki.net/wp/wp-content/uploads/2025/02/ranking2024_20250225.pdf

 

東京で生まれ育ち、山あいの集落へと移住した大井川さん

群馬県最西端・南牧(なんもく)村は、山と清流に囲まれた人口約1400人の小さな集落。
4年前、東京から移住した大井川聖心さんは、NPO法人職員として働く傍ら、移住コーディネーターとして村に関わる人々を支えています。

「移住」に興味を持ち始めたのは中学時代

「中学3年生のときに、石川県能登町で“民泊”を体験したんです。
泊まったのは地元の方ではなく、都会から移住してきた家族のお宅で、“都会から移って地方で暮らせるんだ”と知ったときは衝撃を受けました。それまで生まれ育った東京以外で暮らすなんて、考えたこともなかったので」

この体験をきっかけに、「移住」という言葉が心に残りました。
高校では「地域学」の授業を選択し、地方活性化について学びます。
そして卒業研究では「田舎暮らしがしたい!-都会の若者が移住する際に必要なこと-」をテーマに、各地の移住者を訪ね歩きました。

南牧との出会いと移住を決意するまで

大学では林業を学びながら、地方とのご縁を探していたそうです。そして大学3年の春休み、初めて南牧村を訪れました。

「最初は“どこにあるんだろう?”という感じでした。でも着いてみたら、人があたたかくて、静かで、空気が澄んでいて……その後もご縁があって、月に1回通う内に“ここで暮らしたい”と思うようになりました」

高校時代から地方に関心を持っていたことは家族も知っており、移住の際も背中を押してくれたaそうです。

暮らして見え方が変わった、南牧村の景色

南牧に移住して4年。暮らしにもすっかり慣れ、見える景色も変わってきたといいます。

「最初は正直、少しさびれているなと思っていたんです。
でも暮らすうちに、誰がどこに住み、どんな生活を営んでいるかを知り、風景にもどんどん親しみがわいてきました。
生活の面も、思っていたよりずっと便利なんです。Amazonも翌日に届きますし(笑)。
夏は風が通って気持ちいいし、毎朝、山の向こうから日が昇るのを眺めながらコーヒーを淹れるのが、いちばん好きな時間です。
村を一望できる丘道や、蝉の渓谷、大仁田ダムなど――お気に入りの場所は数えきれません」

今回取材を行った南牧村にある「ちょっとしたカフェ」も、大井川さんのお気に入りのひとつ。
古民家を改装した小さなカフェで、店主も同じ東京からの移住者だそうです。

「この場所のおかげで、多くの人とつながることができました。こういう素敵な場所があると、村の内外から自然と人が集まるんですよね。南牧村には図書館をはじめ、本のある空間がほとんどなくて。だからいつか私も、本を通じて人がつながるような場所をつくりたいです」

【プロフィール】
大井川 聖心(おおいがわ・さとみ)さん
東京都三鷹市出身。大学時代に南牧村と出会い、2022年に移住。
NPO法人「MINNAなんもく」で経理・事務を担う傍ら、移住コーディネーターとして活動。
「南牧山村ぐらし支援協議会」で古民家バンクの運営・移住支援も行う。

 

 

前橋にUターンして、本屋をはじめた小澤さん

前橋市の中心市街地にある前橋中央通り商店街。
長いアーケードの下に老舗と新店が肩を並べ、少しずつ新しい人の流れが生まれています。
その一角に、コーヒーも楽しめる小さな書店「本屋 水紋」はあります。

店主の小澤亮太さんは前橋市出身。大学進学を機に上京し、卒業後は出版取次で書店営業を7年間担当。
30歳を迎え、転勤などの環境変化をきっかけに働き方を見直し、2024年にUターン。地域おこし協力隊として、街歩き案内やイベント運営に携わる中で、地元の魅力を再発見。
2025年7月、「地元で本屋を」という夢を形にしました。

「本屋 水紋」を開店するまで

「ここはもともと洋品店だったんですが、すでにお店は閉まっていて、リノベーションする計画があったんです。そこで縁があって“本屋をやるなら入らない?”と声をかけてもらい、 “今しかない”と思いました」
決断から約1年足らずでお店を開店。今では、通りを歩く人たちの“ほっとひと息つける場所”になっています。

「80年代には、この500メートル圏内に4〜5軒の本屋があったそうです。昔の商店街を知る方から“本屋が戻ってきてうれしい”と声をかけてもらえたのは、嬉しかったですね。本屋って、“買わなくても出ていける小売店ランキング”の上位だと思うんです(笑)。だからこそ、誰でも気軽に立ち寄れる場所をつくれたことで、少しは商店街に貢献できたのかなと思っています」

選書した本を手に取ってもらえる喜び

客層は多種多様。平日は中高年、休日は学生や観光客、家族連れも多く訪れるそうです。店内には、小澤さんのこだわりが詰まっています。

「入口には小説や詩、エッセイなど柔らかい本を。奥に進むにつれて歴史や哲学書など“考えさせる本”を置いています。こうした棚が生み出すグラデーションが好きなんです」

初めての書店運営は決して楽ではありませんが、それ以上にやりがいも多いといいます。

「面白いだろうと思って仕入れた本がしっかり売れたときは、よし!と思いますね。
近隣の前橋文学館と連携して販売している本が売れたときも、“まちの一部になれている”と感じられ、やりがいを感じます。
個人事業主として自分が倒れたら売上ゼロという心配もありますが、今はその苦労も含めて楽しめています」

「地元に戻ってきてよかったのは、心の平穏が得られたことです。地元にいい思い出がない人もいると思うんですけど、僕は前橋が嫌で東京に出たわけではなかったので。朝、赤城山を眺めるだけで落ち着くというか、やはり心の故郷みたいなものがあるんです。その上で、好きなことを続けられている今は、とても幸せです」

最後に、“群馬で暮らす魅力”は?
「群馬の魅力って、“ほどよさ”だと思うんです。前橋や高崎といった都市の便利さがありながら、少し車を走らせれば自然や温泉も楽しめる。東京まで新幹線で約1時間と、都会との行き来もしやすい。それでいて、人との距離感もちょうどいいんです。詮索しすぎず、でも困っているときには手を差し伸べてくれる。そういう温かさがこの街にはあると思います。肩の力を抜いて、自分らしくいられる。それが群馬のいちばんの魅力ですね」

【プロフィール】 
小澤 亮太(おざわ・りょうた)さん 
1993年、群馬県前橋市生まれ。大学進学を機に上京し、出版取次会社にて書店営業を7年間担当。
2024年にUターンし、地域おこし協力隊として活動後、2025年7月に「本屋 水紋」を開店。 

 

 

桐生市で数々の移住相談を受ける岩崎さん

最後にお話を伺ったのは、群馬県桐生市の移住支援拠点「むすびすむ桐生」でチーフコーディネーターを務める岩崎大輔さん。
2019年、東京都から桐生へ移住し、自身も移住者としての経験を活かしながら、年間300〜400件にのぼる移住相談を受けています。

正直、最初は群馬県を舐めていました

「群馬って、思ったよりずっと洗練されているんです。こと桐生市には繊維産業の文化が根づいていて、歴史ある洋品店が並び、商店街を歩く年配の方も皆さんオシャレで品がある。都道府県魅力度ランキングではいつも下位で、移住前は“群馬=ダサい”みたいなイメージを持っていました。でも実際に桐生市に暮らしてみて、“こんなに魅力にあふれているんだ”と今は反省しています(笑)」

イベントを通した群馬に集う“仲間”の増加

「2024年・窓口相談者が選んだ移住希望地」で、群馬県が初の1位を獲得。その背景を、岩崎さんはこう分析します。

「イベントをはじめ、露出が増えたのが大きいと思います。僕も年間30本以上のイベントに関わっていますが、それは群馬が“プレイヤーの多い県”だからと感じています。イベントは、登壇者やゲストがいなければ成り立ちません。その発信をできる人が群馬に本当に多いんです。地域おこし協力隊だけでも、いま県内だけで約130名が活動しています。僕自身も元協力隊ですが、卒業後も各地で活躍している人まで含めたら、相当数になります。発信する人が増え、移住者を受け入れる空気も柔らかくなった。昔は“よそ者”という感覚があったかもしれませんが、今はどこも“仲間が増える”という雰囲気が強い」

県全体の連携やスピード感も今の群馬の強みだと語ります。

「各市町村の横のつながりが強固なのも強みです。たとえば田舎暮らしを求める人には、南牧村などの担当を紹介しますし、“やっぱり都市寄りが良い”という場合もすぐに別の地域の担当へ案内ができる。県全体で一つのチームとして動けていることが大きいかと思います。それに、行政と僕ら民間の関係性も今ちょうど良くて、行政が現場のスピード感を尊重してくれるし、“丸投げ”ではなく“任せてくれている”と感じられる関係が築けています。そんな部分も、今の群馬の面白さを支えていると思います」

“誰かのまち”じゃなく“自分のまち”になる体験

群馬や桐生市が気になった人は、まずどんなアクションを起こせばいいのでしょうか?

「足を運ぶのは大事なんですが、ここ『むすびすむ桐生』では、もう一歩先の関わり方を用意しています。たとえば、お祭りなどの地域イベントで“運営側”に回ってもらう体験ですね。僕らはよく“カウンターのこちら側に来てもらう”って言うんですけど、客として関わるのと主催側に立つのとでは、見える景色がまったく違う。“誰かのまち”じゃなく“自分のまち”になる――その感覚を一度味わってほしいです」

最後に、読者に向けてこんなメッセージを残してくれました。

「地方で働くと、自分の仕事が地域にどう響くかが目に見えてわかるんです。自分の手で動かしたことが、会社や街、ご年配の方の笑顔につながる。その実感が都市部よりも圧倒的に大きい。すべてが誰かのためになっていて、それが自分のモチベーションにも生きがいにもなるんです。実際、私が空き家に入居したとき、 “明かりが灯ってうれしい”と隣人のおばあちゃんが喜んでくれたことがあって。住むだけで感謝されるなんて、驚きでした。もし興味がわいたら、ぜひ『むすびすむ桐生』にお問い合わせください。いつでも“カウンターのこちら側”にご案内します」

【プロフィール】
岩崎大輔(いわさき だいすけ)さん…1989年熊本県生まれ。2019年に渋谷区から桐生市へ移住。
一般社団法人KiKi代表理事のほか、「むすびすむ桐生」チーフコーディネーター、県域ネットワーク支援など幅広く地域に携わる。

 

選択肢が多く、受け入れ態勢が整う群馬県

アクセスの良さに加え、自然も都市もそろい、暮らし方のバリエーションが豊かな群馬県。
そんな“ちょうどいい環境”のなかで、思い思いの働き方や生き方を選ぶ人が増えています。

また、各市町村が連携し、相談をすれば意向に合った地域を、スピード感をもって紹介してくれる――そんな受け入れ態勢が整っているのも大きな魅力です。
人との縁もまた大切な地方就活。群馬県なら、思わぬ人や場所と出会い、ぴったりの“はじめの一歩”が見つかるはずです。