地方で生きる

「地方発世界」の企業で働く
~地方のグローバル企業に注目しよう!~

■グローバルな地方企業で働くという選択肢

かつて「グローバル企業」と言えば、首都圏に本社がある有名な大企業のイメージでした。しかしそれは過去の話、近年そのイメージは大きく変化しています。

地方の中小企業が世界へ飛び出し、先進国だけでなく、新興国で事業展開をするケースも増えているのです。この記事を読んで、「グローバルな地方企業で働く」という道を、ぜひ選択肢のひとつに入れてみてください。

海外進出する中小企業が増えている

まずは、海外進出している日本の中小企業の状況から確認してみましょう。

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」の数値が参考になります。この調査は、海外ビジネスに関心の高い日本企業へ定期的に実施している調査です。

「現在輸出をしている企業」の割合を、最新版(2023年度)と8年前(2015年度)のレポートで比較してみると、大企業は輸出をしている企業の割合が4ポイントも減少していますが、中小企業はわずかに増加しています。中小企業の輸出への関心が高まっていることが分かります。

<center>※出典:ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」より当事務局でグラフを作成</center><br />

※出典:ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」より当事務局でグラフを作成

では海外進出先としては、どの国が多いのでしょうか。

輸出企業全体における業種別の「事業拡大を図りたい国」TOP3を見てみましょう。下図のように多くの業種で中国・米国が上位となるものの、ベトナム・インドネシアなどのアジア圏も注目されていることが伺えます。

<center>※ジェトロ:日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2020年度)より引用</center><br />

※ジェトロ:日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2020年度)より引用

次に「地方企業」の海外進出意欲については、どうでしょうか。

国内企業の海外進出・海外ビジネスを支援するプラットフォーム「Digima~出島~」では、海外進出に関する支援の問い合わせ数の割合を、都道府県別に公表しています。

<center>※出典:海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」サイトより引用</center><br />

※出典:海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」サイトより引用

2021年度のデータでは、「東京・大阪以外の道府県(海外を含む)」からの問い合わせは43%。2011年時点では、90%以上が大都市圏からの問い合わせだったとされているため、ここ10年間で地方企業の海外進出が身近になっていることが分かります。

地方発世界のグローバル企業事例

それでは実際に、地方から世界に進出したグローバル企業は、どのようなビジネスを海外で展開しているのでしょうか。具体的に事例をご紹介します。

 

【日本の「ラーメン」を世界へ!~重光産業株式会社~】

まずご紹介するのは「味千(あじせん)ラーメン」を世界15カ国で展開している、熊本が本社の重光産業株式会社。国際部・國武作好(くにたけ ともよし)次長にお話を聞きました。

「味千ラーメン」のWEBサイト( https://www.aji1000.co.jp/

 

<b>プロフィール</b><br />
熊本大学在籍時に中国へ1年間留学、卒業後に新卒入社。1年目より上海工場へ赴任し、中国味千本社へ異動。2015年より国際部の日本勤務となり帰国。現在は、国際部次長を務める。</br><br />
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プロフィール
熊本大学在籍時に中国へ1年間留学、卒業後に新卒入社。1年目より上海工場へ赴任し、中国味千本社へ異動。2015年より国際部の日本勤務となり帰国。現在は、国際部次長を務める。


「味千ラーメン」を運営する重光産業株式会社は、世界15カ国で645店舗を展開する、文字通りのグローバル企業です。これだけ多くの海外店舗を展開していますが、国際部門の国内担当社員はわずか2名(海外駐在担当者は5名)だそうです。

 

<center>カンボジアTuek L'Ak Ti Muoy店</center></br><br />

カンボジアTuek L'Ak Ti Muoy店


少人数で対応できる背景にあるのが、味千ラーメン式のフランチャイズ展開です。一般的なフランチャイズは、本社が主導権を持ち、あらゆる対応を指導・指揮しますが、味千ラーメンはあくまでも現地オーナーが主導。ラーメンの命となる麺とスープの再現性にはこだわりますが、トッピングなどのメニューは現地の味にローカライズしたオーナーのアイデアを取り入れ、出店場所もオーナー自身が探すそうです。國武さんを含む本社担当者の方々は、あくまでサポート役のため、多くのやり取りはメールやオンライン会議で対応ができるとのこと。新店舗のオープン時期以外は、基本的に熊本本社にいて、現地オーナーからの相談や食材の手配などの対応を中心に業務をされているそうです。

現地オーナーが味千ラーメンの味にほれ込み、その味を広めたいと主導するスタイルだからこそ、店舗がその国・エリアで愛される。また、そのようなやり方だからこそ、地方の中小企業でも各国の対応ができるのだそうです。「とてもやりがいを感じる仕事」だと國武さんは語ってくれました。現在は、南米・パナマでの出店の対応を進めているそうです。

 

 

【バイオトイレを武器に海外へ~正和電工株式会社~】

続いて、北海道旭川市で、おがくずだけで排泄物を分解し堆肥にするバイオトイレの海外輸出を行っている、正和電工株式会社・橘井敏弘(きつい としひろ) 社長にお話を聞きました。

<b>プロフィール</b><br />
北海道北見市生まれ。北見北斗高校定時制卒。1976年に正和照明商事に取締役として入社、1988年に社名を正和電工に変更し代表取締役社長に就任。2015年にバイオトイレの業績を評価され黄綬褒章を受章した。</br><br />
プロフィール
北海道北見市生まれ。北見北斗高校定時制卒。1976年に正和照明商事に取締役として入社、1988年に社名を正和電工に変更し代表取締役社長に就任。2015年にバイオトイレの業績を評価され黄綬褒章を受章した。

正和電工株式会社は、おがくずだけで排泄物を分解して堆肥にするバイオトイレ「Bio-Lux(バイオラックス)」を、ベトナムや中国、インドなどへ輸出しています。

日本では水洗トイレが当たり前ですが、水洗トイレで使用する水量は、排泄物の100倍以上と言われています。そのため、それだけの水量を確保できない国では、水洗トイレの導入が進まず、不衛生な状態が続きがちです。近年、マイクロソフト社を起業したビル・ゲイツ氏も、世界で40億もの人がトイレのない生活をしていることへの危惧から、「水洗トイレ以外の新型トイレの開発」のため、世界中の学者や研究者たちに試作機製作の為の費用約2億ドルを拠出したと報道されています。正和電工のバイオトイレが注目されるのも、必然と言えるでしょう。

正和電工では、日本の政府開発援助(ODA)を実行するJICA(独立行政法人国際協力機構)と、その取り組みを支援するコンサルティング会社からの問い合わせに応える形で、以下のような場所でバイオトイレの設置を進めてきました。

 

社員数わずか8名という地方の小企業が、海外事業展開を成功させた背景には、現地での事務手続きをすべてJICAとコンサルティング会社が担う協力体制の構築があったからだそうです。「自分たちは現地の環境に適した商品の選定と、設置の立ち合いくらいしかしていない」と橘井社長は語ってくれました。ここ数年は、新型コロナウイルスの影響で海外展開が止まっていたものの、今後は年間1億円を売上目標に海外展開を再開していくそうです。

地方企業の成功事例を見ていると、少人数でも海外展開ができるノウハウを持っていたり、そのノウハウを提供してくれるパートナーがいたりすることが分かります。また、今回お話を聞いた2社は、いずれも、その商品の魅力に惹かれた方からの問い合わせが、海外進出のきっかけでした。もちろん、国内消費が人口減少とともに縮小していく傾向がある日本においては、自ら海外に打って出る経営判断をする地方企業も今後ますます増えていくでしょう。つまり、地方企業であっても、海外展開のチャンスは首都圏の大企業と同様に、あるいはそれ以上に、十分あるということです。

地方で必要とされるグローバル人材

このように、地方企業が海外進出するケースは増えており、地方企業におけるグローバル人材のニーズも高まっています。

東北大学の調査レポート(2021年)には、東北エリアにおいて海外留学経験者に対する「国際業務への期待が高くなっている」と記載されています。海外留学経験のある日本人に対して「国際業務での中心的な役割を果たして欲しい」と回答したのは、全国企業が13.4%だったのに対し、東北企業では21.1%と7.7ポイント高い結果となっています。また「海外市場の開拓」業務への期待についても、全国企業が4.8%だったのに対し、東北企業では11.1%と6.3ポイント上回っています。

<center>※東北大学高度教養教育・学生支援機構「グローバル人材の育成・採用に関する調査2020」より引用</center></br><br />

※東北大学高度教養教育・学生支援機構「グローバル人材の育成・採用に関する調査2020」より引用


このように、海外展開を考える地方企業では、海外留学の経験があるようなグローバル人材に対する期待は高く、また、首都圏の大企業などと比べて人材が手薄なため、入社後すぐに海外事業に携われる可能性も高いといえるでしょう。

世界を相手に仕事をしたいと考えているみなさん、ぜひ「地方企業のグローバル人材として活躍する」という視点を持ってみることをお勧めします。

 

※この記事に掲載されている情報は、2024年11月にサイトに公開した時点での情報です。