「シングルマザーのための はじめての地方就職ガイド」
’19/11/2 LO活プロジェクト×日本シングルマザー支援協会共催
イベント連動予告記事
暮らしをより豊かに変える「地方転職・地方移住」という選択
新しい暮らしを求めるシングルマザーに向けたイベント「シングルマザーのための はじめての地方就職ガイド」が、11月2日、東京国際フォーラム(東京・有楽町)で行われる。
現在、日本におよそ120万人いると言われるシングルマザー。その多くが、各種手当の力を借りながら首都圏で生活している。待機児童の問題、家賃をはじめとする生活費の高さ、子育てと仕事の両立の難しさなど、暮らしにくさを日々感じている人も少なくない。この決して豊かとは言えない状況が、地方に移ることで大きく変わる場合もある。
服部ゆきさんは、今年の春、兵庫県神戸市から岩手県釜石市へ移住したシングルマザーだ。都市から地方へと生活を移すことで、子育て、仕事、毎日の暮らしはどのように変わったのか。子どもたちにはどんな影響があったのか。実体験を語ってもらった。
服部ゆきさんはこんな人
大阪生まれ、兵庫育ち。小学校1年生の娘と3歳の息子を育てるシングルマザー。神戸市にて小学校の教員をしていたが、2年前にシングルとなり、多忙な教員の仕事と子育てを両立することは難しいと考えるように。約12年間の教員生活に終止符を打ち、2019年春、新たな仕事を求めて岩手県釜石市へ移り住んだ。現在は、リモートワーク(自由な場所で仕事をする働き方)で働きながら、釜石市内の復興住宅に暮らしている。
やりたい仕事のある場所が、たまたま釜石だった
ー関西で生まれ育った服部さんが「移住」を考えるようになったきっかけとは?
私の場合は「移住」の前に、まず「公務員を辞めよう」と思ったんです。教員の仕事はとても好きでしたが、それだけに我ながら一生懸命で、子育てと両立するには忙しすぎました。朝は毎日4時起きで、持ち帰り仕事は当たり前。週に一度、私の母親が子どもの面倒を見てくれる日にまとめて残業をして。それでも追いつかず、土日に家で仕事をすることもしばしばでした。「この生活を続けるのは難しい」ということは何年も前から考えていましたが、離婚を経て、いよいよ「もういい!次に行こう!」となりました。
周囲には「公務員を辞めるなんて」と驚かれました。そりゃそうですよね。でも、私としては「私はこれがいいんだ!と思える仕事をしたい」という一心でした。当初は関西エリアで新しい仕事を探しましたが、なかなか納得できるものがありません。そこで「もう、場所なんてどこでもよくない!?」と全国に視野を広げたところ、岩手県釜石市で療育関係の社団法人の仕事を見つけたのです。
ーやりたい仕事がたまたま釜石にあった、ということだったのですね。
そうですね。仕事探しをしていた頃は移住カフェなどにも顔を出しましたし、教育関係の仕事がしたかったので「教育県」として知られる長野などもチェックしました。決め手は「子どものためにどうか」ではなく、「私自身が納得できるかどうか」でした。例えば、子どもにとってよさそうな学校があるからと移住しても、移住先で子どもが不登校になることだってあり得ます。そんなとき、母親が「あなたのために移住したのに」なんて思っていたら、子どもは窮屈ですよね。
—縁もゆかりもない釜石への移住について、ご両親やお子さんはどのような反応でしたか?
両親は猛反対でした。でも「自分で決めたから」と言うしかありませんでした。一方、娘と息子は「オッケー、わかった」と、あっさりしたものでした。というのも、決める前に一度、子どもたちを連れて下見に行ったのですが、娘はそのときにすっかり釜石を気に入り「ここに住みたい!」と言い出していたのです。会う人みんなが優しかったからでしょうね。娘の言葉が背中を押してくれたところもありました。
田舎暮らしは、予想外のできごとの連続
—ご家族にとって、はじめての田舎暮らし。どんなスタートでしたか?
船と車を乗り継いでの1100kmの引っ越しは大仕事で、お金もかかりました。でも、本当に大変だったのは移住してから。社宅として暮らすことになった家は、山奥の集落にある古い平屋だったのですが、いざ住んでみると……ネズミやカメムシとの終わりなき戦いに心が折れそうになりました。寒くて、辛くて、ちょくちょく泣いていました。そんな私の様子を見かねて手を差し伸べてくれたのが、お隣さんでした。何かと気にかけてくださり、うちの子たちを「うちの孫だ」と可愛がってくれました。
—大きな環境の変化は、時として大人でもこたえますよね。お子さんたちはいかがでしたか?
心が折れそうになっていたのは私だけで、子どもたちは引っ越してきてからずーっと元気です。メンタルがどうのこうのなんて大人の問題で、子どもたちは豊かな自然と優しいご近所さんに囲まれて、常に楽しくやっていました。逆に「お母さん、元気ないね」と心配されたくらいで。子どもって、強いですね。
—ご近所さんともつながり、そこからの移住生活はスムーズに進んだのでしょうか?
全然! 4月に引っ越してきて、なんと2ヶ月後には仕事と家の両方を失うことになってしまいました。働きはじめた社団法人と雇用条件が折り合わず、辞めることになったのです。家は「社宅」でしたから、すぐに引っ越さねばなりません。本当に困り果てました。
そんなとき、力になってくれたのは集落のみなさんでした。女性一人での家探しは一筋縄ではいきませんでした。その時点ではまだ無職。近隣に保証人になってくれる親族もいない。しかも、北東北の冬を経験したことのない移住者…。すぐに入れる家はなかなか見つかりませんでした。でも、近隣のみなさんが本当に一生懸命、私たちのために奔走してくださったおかげで、やっと公営住宅にたどり着きました。
仕事探しのほうは、日本シングルマザー支援協会さんにサポートいただきました。協会の方には、関西で暮らしているときから何かにつけ相談をしていました。通信制高校の事務の仕事を紹介いただき、リモートワークをはじめました。平日の9時から18時までは、リビングのテーブルでテスト問題のチェックや時間割の作成などをしています。教員時代の経験も生かせていますし、休憩時間を息子のお迎えに当てるなど、時間のやりくりをできるのもありがたいです。
地方の暮らし、地方の子育て
—お子さんをもつ方が地方移住を考えるとき、教育の質の低下や教育の機会の減少を心配する声も聞かれます。服部さんから見て、都市部と地方の教育の違いとは?
地域や学校によってさまざまでしょうが、私自身、小学校の雰囲気は都市部と地方でまったく違うなと実感しています。地方では、すべてがゆったりしています。1クラスの人数が少ないこともあり、先生にも子供にも余裕があるな〜という感じで。運動会も手づくり感がありますし、川遊びなど親と子のイベントも盛んです。伝統芸能である踊りの練習も熱心で、「親も頑張らなくちゃ!」と言われ、私も必死で練習しました。「あぁ、地域の伝統ってこうやってつながっていくんだな」と感動しました。
塾や予備校なども都会のように充実していません。習いごとをしようにも、車で片道1時間かかるとなればそう簡単ではありません。でも、教員時代、塾や習いごとを限界まで詰め込まれて苦しむ子どもたちをたくさん見てきました。私は「釜石の子どもたちのようにのびのび育つほうがいいやん」と思います。うちの子たちも、人見知りせず、大きな声で挨拶できるようになりました。それって大事なことですよね。
—移住を経験した方の中には地域の方々とのコミュニケーションに苦労されたケースもあるようですが、その点はいかがでしたか?
そもそも人口が少ないですから、「どのママ友と仲よくするか」などと付き合う人を選別することもありません。小さい子を連れていると周囲のお年寄りが自然と可愛がってくれますし、同世代の方には小学校のイベントなどで出会えます。子どもを介して人付き合いが広がっていくので、こちら側に「溶け込みたい」という気持ちさえあれば、シングルマザーはコミュニティに入っていきやすいと言えるかもしれません。
ただ、関西人の私から見ると、東北の方は我慢強いというか、ぐっとこらえて心に溜め込むところがあるなと思います。会話をするときには関西弁でまくしたてないよう注意しています。あと、気軽に口にしたことがあっという間に広まりますから、考えながら話すように。とはいえ、辛いときに「困っています、助けてください!」と声を上げられることは、自分の強みのような気もします。
—都市部に比べれば、地方は正社員の求人が見つけやすい、また生活コストがかからないというイメージがありますが、実際のところをお聞かせください。
正社員の募集は確かにありますが、釜石で仕事を探したときに痛感したのは、やはり都市部とは給与水準が違うということです。残念ながら、これは事実です。また、冬場の暖房費やプロパンガス代、車のガソリン代、冬のタイヤ代など、都市部の方には見えないコストもかかります。ですから、貯金はあるに越したことはありません。あとは、住む場所に関係なく、全国的な水準で収入の得られるリモートワークもおすすめです。
大切なのは「子どものため」より「自分自身がどうしたいか」
—お子さんはやがて成長し、巣立つときがやってきます。服部さんが思い描く、その後の人生とは?
移住してみて、やりたいことができました。子どもたちが巣立つまでなんて、待てないです。すぐやりたい。とはいえ、まだぼんやりとした夢のようなものですけど……。古きよき日本に当たり前にあった「地縁社会」を現代のライフスタイルに合ったカタチで再構築することができたら、と考えています。
例えば、山奥の家でお世話になったお隣さんとは今も交流が続いています。私たちの住まいにはママ友や移住組の友人などがやってきて、人生や恋愛について語り合います。みんな血のつながりはないけれど、家族みたい。そんな、一般的な「家」や「血縁」といった枠組みを取り払った場所、いつの間にか人が集まり仕事が生まれていく「村」みたいなものができないかな、と。一言で言えば「みんなで暮らしたい」ということです。
—移住を機に、服部さんご自身の価値観を再認識されたのですね。
私のやりたいことは場所にとらわれませんから、言ってしまえば釜石でなくてもできます。私自身の人生も、まだまだ流動的です。でも、それこそが私の欲しかったものなのです。いろんな意味で「自分は自由なんだ!」と感じています。
どこかに移住したからといって、何もかもがラクになるわけではありません。だからこそ、大切なことは「自分自身がどうしたいか」を見つめ直すことだと思います。
イベント紹介
11月2日(土)13時半〜16時半、シングルマザーの方が地方転職・移住する際のポイントを伝授するセミナー+シングルマザーの受け入れに積極的な自治体とのマッチングイベントが行われます。
このイベントはLO活と日本シングルマザー支援協会が共催しますが、同協会は記事でご紹介した服部さんも活用された団体で、支援実績も豊富です。また、シングルマザーの方が参加しやすいように、子ども向けのワークショップも専任講師を招き同時開催します。
「シングルマザーのための はじめての地方就職ガイド」@東京国際フォーラムにて開催(最寄り駅:JR有楽町駅)。
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