イベントレポート

イベントレポート(vol.6)
『Kagoshima 兼業 Drinks〜隙間時間からはじめるローカルベンチャーへの参画〜』

地方企業と兼業でつながる!

2019年のLO活イベントシリーズ第6回は、12月4日(水)に東京神田のthe Cで行いました。

今回のテーマは「兼業」。
「地方創生」に関心はあるけれど、いきなり移住はハードルが高い。今の仕事に充実感を持っているけれど、地方で生きる人の力強さにも魅力を感じる。そんなことを考えている方も、少なくないと思います。

そこで、『「兼業」によって、地方の仕事・魅力を感じてみませんか?』というのが今回のイベントでの提案です。

 

前回のイベントでは、イノベーションを起こす際のロジックを活用して「キャリアの作り方」を学びました。そのロジックを、実践で試せるチャンスが今回の「兼業」でもあるのです。

鹿児島で経営支援・採用支援などを行う株式会社マチトビラ代表の末吉剛士さん、東京で地方企業の採用を支援する株式会社コヨーテ代表の菊池龍之さん(LO活のスペシャルインタビューでもご紹介)に、「優秀かつ、想いに共感してくれる都心の人材と仕事したい!」という、鹿児島で今話題になっている注目企業3社を、会場に集めていただきました。

「兼業したい東京人材」と「東京人材と仕事をしたい鹿児島企業」のマッチング。一体、どうなったのでしょうか。

 

鹿児島で話題の3企業を紹介

今回のイベントでは、3企業の求人情報をお伝えするだけでなく、それぞれの経営者のビジョンや価値観を伝える機会や、参加者との相互理解を深めるための交流の場などを設けました。会場にお越しいただいた参加者のみなさんも、鹿児島出身者や鹿児島にゆかりのある方は半数程度。半数以上の方は、純粋に「兼業」に興味があってご参加いただいた方でした。どのような話ができたのでしょうか。

まずは、今回お招きした鹿児島の3企業のみなさんをご紹介しましょう。

 

■株式会社BAGN 代表取締役 坂口 修一郎さん(写真左)、ディレクター 永山 貴博さん(写真右)

鹿児島と東京に拠点を持つ株式会社BAGN

プロミュージシャン坂口修一郎さんが2014年に設立し、数々のクロスカルチャースタイルの体験型イベントをプロデュースするほか、都内で物産展「OK SHOP」の展開や、カフェ『BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK SENDAGAYA』の企画など、その事業は多岐にわたります。

代表の坂口さんは、数十シートにも及ぶパワーポイント資料を用い、熱のこもったプレゼンテーションを行いました。そこには現地の写真がたっぷりあったので、参加者の方も、イメージしやすかったのではないでしょうか。

ご紹介いただいたプロジェクトの中でも特に力を入れているのが、南九州市にある廃校「かわなべ森の学校」を活用するプロジェクト。元々は、坂口さんが主催する音楽フェス『グッドネイバーズ・ジャンボリー』(※1)の開催会場として利用していたところです。そこは山の中にぽつんとあり、衛星写真で見ても周りは森ばかり。決して交通面での立地に恵まれてはいない会場に毎年、日本全国からたくさんの音楽ファンが集結します。

今年10回目の開催を迎えた音楽フェス『グッドネイバーズ・ジャンボリー』は、無印良品やスターバックスコーヒーなどのブランドや、ユナイテッドアローズやアーバンリサーチなどのファッションブランド、ザ・ノース・フェイスなどのアウトドアブランドとともに、地元企業もスポンサードするビジネスの場でもあります

数年前にその廃校が、閉鎖されるという話が持ち上がります。自治体の持ちものなので、本来ならば行政の判断に従うしかありません。しかし、日本全国から人が集まり、地域経済に貢献できる場所ということもあって、若者だけではなく、以前、同校を卒業した地元の卒業生たち(地元のおじいちゃん・おばあちゃん)も、かつての母校を残して活用するために、協力してくれるようになったそうです。

新しいものに作り変えるのではなく、当時の昭和の生活を再現します。古民家ならではの土間やかまどはそのままに、古くなった部分をしっかり修繕していきます。地元の方から提供していただいた、昔の農機具や昭和の時代に使われていた家具などを配置して、「昔の暮らしを感じ、そして学べる場」として生まれ変わります。

2017年に廃校の運営管理やイベント企画といった事業を行う一般社団法人リバーバンクを立ち上げて、閉鎖される予定だった廃校を生まれ変わらせました。現在は自然体験やキャンプのみならず、企業研修や結婚式などの会場としても利用される施設へと成長しているのです。今回は、新規事業の創出や既存事業のマーケティングなどに関わってくれる人を募集していると語っていただきました

※1 「みんなでつくるお祭り」を標榜し、音楽はもちろん地産地消のワークショップやフードを集めた人気のフェス。県内外から人が集まり、2019年で10回目の開催を迎えた。

 

■ヤマサハウス株式会社 常務取締役 佐々木 政典さん

佐々木さんは、創業家に生まれた3代目。東京の大学を卒業後、実家稼業となるヤマサハウスにUターン就職します。

ヤマサハウスは、鹿児島の新築住宅市場においてNo.1のシェアを誇ります。

特徴は、「木へのこだわり」と「伝統と美しさの調和」をコンセプトにした職人技。先人たちの知恵と工夫を活かした高い建築技術をベースに、独自に開発した長期優良住宅やLCCM住宅モデル事業などは、県内で初めて国土交通省の先導的モデル事業に採択され、業界において先進的な取り組みにも挑むことで高い評価を得ています。

 

またヤマサハウスは、地域とのつながりを重視します。先の熊本地震や1993年に戦後最大級と言われた台風が鹿児島を直撃して甚大な被害が出たときには、新規の受注事業をすべてストップさせて、社員総動員で復旧業務にあたったそうです。

そして今、ハウスメーカー業界は変革期を迎えています。ライフスタイルの変化、家を持つことに対する価値観の変化、空き家問題などハウスメーカーに求められる内容も刻々と変化しています。だからこそヤマサハウスも、第2創業期くらいの気持ちで変化すべく事業を模索しているといいます。

これまでの戸建て住宅の建築・販売・不動産だけではなく、新たな事業の必要性を感じているのだそうです。いままでの伝統を受け継ぎつつ、新しいことにチャレンジする。そのためにも、新たな発想ができる東京の人材の力をお借りしたい。そんな気持ちで今回のイベントにご参加いただいたそうです。

「都心で働く人のアイディアを地方で活かせることってたくさんあると思うんです。業界は問いません。関心を持っていただきさえすれば、キャリアを生かした分野とマッチングできる部分を一緒に探ることができると考えています。業界は過渡期と言われていますが、今こそみなさんの新たなアイディアと私たちのリソースが融和することで新しい価値を創出できるチャンスがあると考えています」と、今回の兼業プロジェクトへの期待を語っていただきました。

 

■株式会社無垢 代表取締役社長 ふるかわ りささん

保育事業を行うふるかわさんは、やわらかな笑顔が印象的な保育園の代表者。その笑顔から、おっとりした方なのかと思ったら大間違い。思いついたアイディアを次々と事業化していくバリバリの実業家です。

2007年に、出産祝いに特化したギフト商材を販売する「株式会社無垢」を創業。自身の子育てをヒントにデザインしたガーゼケットや、アメリカの大手育児ブランドSassy社とのコラボ商品などを展開し、楽天ランキングの出産祝い部門常連店舗となりました。

そんなふるかわさんが新たに挑戦したのが、保育事業。2017年に霧島市で「ひより保育園」を、翌年の2018年には姉妹園となる「そらのまち保育園」を鹿児島市の中心繁華街・天文館(てんもんかん)に開園します。2年連続での開園、忙しくない訳がありません。

 

ふるかわさんの保育園の特徴のひとつは「食べることを真ん中に置いた保育園」

園児たちのための専用調理室があり、園児たちが自分で調理します。お米と野菜は安全で新鮮なものをと、地元の契約農家から仕入れ、お味噌は毎月子どもたちが自分たちで仕込みます。料理のレベルも大人顔負け、揚げ物だって園児が調理するという本格的な取り組みをしています。

ただ、こだわりは料理だけではありません。「子供たちの自主性をいかに育むか」に重きが置かれているのも特徴のひとつ。園のどの行事でも、どんなふうにしたいかの企画から準備し、片付けまで園児たちが主体となって行っているそうです。

例えば遠足。「グリとグラみたいな遠足に行きたいね」という言葉から取り組みがスタート。手作りのクッキーや、自分たちで染めて縫製したランチョンマットやコースターを販売して、その予算をバス代に充てます。そして当日は、「からっぽのお弁当箱」を持っての登園。遠足は、まずはみんなでお弁当を作るところからスタートしたのだそうです。

そんな取り組みが話題となって、上場企業から内々定を受ける園児まで出現したのだとか。

内々定式では、上場企業の担当者から内々定の書類を授与され、将来社会人になる際には、その内々定書類があれば無条件で採用が約束されるのだそうです。

現在は、小・中学校をつくる計画やレストランやホテルをオープンする計画にも着手しているといいますから、スタッフはいくらいても手が足りない状況。スピード感を持ってタスクを処理することに慣れた東京の人材に興味を持つのも分かる気がしました。

 

東京人材がどのように「兼業」するかを議論

鹿児島の3企業に、自社のプレゼンをしていただいた後、参加者を3分割して各企業とどのような「兼業」ができるか、グループワークでディスカッションしていただきます。

「兼業したい」という参加者の方たちは、東京でご活躍のビジネスパーソン。それぞれ職種も異なりますし、ご自身の経験をどのように活かせるのか、明確なビジョンはまだお持ちで無い方もいるようでした。

まずは各テーブルともに、各社のビジネスのイメージをつかむために、以下のような質問から始まりました。

・現地マーケットの様子
・顧客のターゲットイメージ
・会社のビジョン
・現状の課題

しかし、話が進むにつれて、質問は具体的になっていきます。「兼業の仕事」を探しているだけあって、質問の内容はビジネスに関係するものです。

・事業資金の集め方
・情報発信の手法
・今後の事業拡大のイメージ

このような内容を質問しつつ、自分の経験・能力が活かせる場があるかを探っていきます。

 

続いて出てきたのは、「東京から遠隔でどのようにリモートワークをするのか」、そのイメージをつかもうという質問です。

・地元社員の業務範囲
・手が足りていない具体的な仕事内容
・リモートワークしている人の仕事内容
・営業はリモートワークで成立するのか
・東京のやり方が鹿児島で通用するのか

また、廃校を活用したプロジェクトを行っている株式会社BAGNのテーブルでは「行政との関わり方/行政の動かし方」、ヤマサハウス株式会社のテーブルでは「鹿児島での民泊の盛り上がりの状況」、株式会社無垢のテーブルでは「現地での保育士採用の難しさ」などの、具体的な質問も飛び出していました。

 

興味がある企業へはエントリーして面談へ

じっくりと話を聞いて「兼業」のイメージができた方には、実際に「兼業」のエントリーをして、面談へ進んでいただきます。

会場で配布された資料には、エントリーサイトのURL(QRコード)が記されています。そこからエントリーをしていただきオンラインでの面談を受けて、業務委託が決まったら実際に契約していただくことになっています。

参加者の中にはすでに、各社にエントリーしていただいた方もいらっしゃるようです。年内には面談を行い、年明けの2020年にはこのイベントから地方企業の「兼業者」が生まれる予定です。

 

東京からの「リモートワークでの兼業」であっても、地方企業との仕事を通じて、地方の魅力に気づいていただければと思います。

地方企業との「兼業」をサポートするサービスはいくつかあります。ぜひ、そのようなサービスを利用して、地方との接点を持ってみるのはいかがでしょうか。