地方で生きる

LO活×日本仕事百貨~地方のオモシロ企業・仕事図鑑 vol.2~

ものづくり・職人編

半年ほど前から、自宅でコーヒー豆の焙煎を始めました。

手でハンドルを回すアナログな道具を使って、自宅のコンロで焼くのですが、これがどうもうまくいきません。

インターネット上の「中火」と、僕のコンロの「中火」は、どうやら違うらしい。

最初のうちは、渋くて飲めたものではありませんでした。失敗ばかり。

繊細な調整を重ねて、自分の手と目と舌を信じて、探り続ける。正解を探すというより、正解に近い何かを追い求める作業に近い。

こうして試行錯誤を繰り返す時間は、どこか心地よくもあります。

今回のテーマは「ものづくり・職人編」。

都会では競争が激しく、もしかしたら埋もれてしまうようなことも、地域らしさを活かしたり、その土地の暮らしにぴったりと寄り添ったりすることで、唯一無二の光を放つことがある。

焙煎をはじめるきっかけをくれたのも、取材で出会ったたくさんの職人さんたちでした。

今回は、いろいろな生き方や働き方を紹介する「日本仕事百貨」から、「ものづくり・職人」 をテーマに3つの仕事を紹介します。

株式会社tet:香川県東かがわ市

香川県・東かがわ市。

瀬戸内海に面したこのまちを車で走ると、あることに気づく。看板、倉庫、工場の壁。いたるところに「手袋」の文字が見え隠れしている。

国内でつくられる手袋のおよそ9割を生産しているこの場所で、手袋を中心としたブランド「tet.(テト)」は生まれた。

運営するのは、地元・東かがわ出身の松下さんと、大阪出身の宮本さんのご夫婦を中心とした小さなチーム。

扱う手袋は、カシミヤのふんわりとしたものから、革製のスタイリッシュなもの、あるいは農作業に使える頑丈なものまで、色とりどり、多種多様。

tet.の大きな特徴は、自分たちの工場を持たないこと。

なぜなら、まち自体をひとつの工場のように見立てているから。

革の扱いが得意な工場、スポーツ用の機能に特化した工場、ニット製品に長けた工場など。tet.は、市内にいる職人さんの技術を知り尽くして、つくりたいものに合わせて最適な工場にお願いをする。

たとえば、自転車用の手袋をつくりたいときは、スポーツ手袋が得意なメーカーに依頼。リフレクターなどの機能を盛り込みつつ、スーツや普段着にも馴染むデザインを加える。

そうすることで、ある分野に特化して磨き上げられてきた高い技術に、別の角度から新たな光が当たる。

産地がもつ技術を整理して、組み合わせる「編集」のような役割とも言える。

ブランドマネージャーの松下さんは、こう話す。

「100年以上の歴史と、その発展を支えてきたメーカー。言葉にし尽くせない尊敬があるからこそ、責任感を持って続けられています」

宮本さんもまた、つづける。

「手袋産業がいきいきとすることで、まちの景色が変わっていくと思うんですよね」

一人ひとりがお気に入りの手袋を持ち、自分の手を大切にしている。そんな未来に少しでも寄与できたら。

人の手の数だけ、広がりのある仕事だと思う。

 

株式会社tet.
事業内容:手袋を中心とした「手」にまつわる商品の企画・販売
創業: 2018年
所在地:香川県東かがわ市湊815-18
従業員:3名(2026年1月)

 

 

ノースプレインファーム株式会社:北海道興部町

北海道の北東側、オホーツク海に面した興部町(おこっぺちょう)。

冬には流氷が押し寄せ、あたり一面が白く覆われるこの場所に、ノースプレインファームはある。

100ヘクタールほどの敷地のなかで、牛を飼い、牧草を育て、搾ったミルクを加工して、レストランでお客さんに提供するところまで。一連の営みすべて、自分たちの手で行う。

創業は1988年。きっかけは、地元の牛乳がなぜ地元で飲めないのかという創業者のシンプルな疑問。

会社のモットーは、「大地も草も牛も人も、みんな健康」。

たとえば牧場では、牛の糞尿はすべて堆肥にして、牧草地に活用。牛が食べる草には、化学的な肥料や農薬を使用せず、牛たちが食べやすい健やかな牧草を育てている。

牛たちは広い牧草地を自由に歩き回り、お腹いっぱい草を食べる。

そんな牛たちから分けてもらうミルクを、本来の甘みや香りを残すため、低い温度で時間をかけて殺菌する。

そうして生まれた「おこっぺ有機牛乳」は、瓶詰めされた牛乳の蓋を開けると、上のほうにうっすらとクリームの層ができる。これは生乳に近い証拠。

牛乳だけでなく、そこから生まれるチーズやバター、バターケーキなどの加工品も人気だ。

牧場、加工場、販売やレストランのスタッフ。それぞれの仕事内容は違うけれど、目指しているところは同じ。

それは、オホーツクの自然の恵みを、一番正直なかたちで食卓へ届けること。

牛と自然と、人にとって、自然なあり方を追求し続ける。自分たちが扱うものが、どこから来て、どんな工夫を施して、誰に届くのか。はっきりと見える。

その確かな手応えがあるはずだ。

 

株式会社ノースプレインファーム
事業内容:酪農、牛乳・乳製品・菓子製品の製造および販売、レストラン・直売店(ミルクホール)の運営
創業:1988年
所在地:北海道紋別郡興部町北興116−2
従業員:約40名(2026年1月)
HP:https://northplainfarm.co.jp/wp/

 

 

株式会社八清:京都市下京区

京都の古い路地裏。石畳が続く通りに、一見ただの廃屋のような建物があるとする。

昼間でも薄暗いその通りは、かつての暮らしや商いの名残が漂う。人が通ることも少ないその場所で、目を輝かせているのが、株式会社八清(はちせ)。

彼らは「京町家」や「中古住宅・ビル」の再生と販売を行う、不動産会社。

八清では、一人の担当者が物件の仕入れから、リノベーションの企画から販売し、新しい住まい手への引き渡しまでを一貫して担当する「プロデューサー制」を採用している。

それぞれの建物には、建てられた時代や経緯、周囲の環境などによって、異なる個性がある。担当者はその建物をじっくりと観察し、どうすればその良さを引き出せるかを考える。

ここで大切にされているのが、プロデューサー自身の遊び心。

路地の小さな家を、隠れ家のような読書を楽しむための家に仕立てたり、土間を大胆に広げて、自転車やバイクを愛でながら暮らせるガレージハウスに変身させたり。

どうすれば住む人が楽しく、豊かに過ごせるかを想像しながら、リノベーションの内容を決めていく。その過程は、料理人が食材を見て、どんな一皿に仕上げようかと考えることと重なるように思う。

もちろん、そこにはプロデューサーとしての厳しい目も必要。

耐震性や断熱性といった、見えない部分の性能を向上させ、現代の暮らしに耐えうる機能を持たせる。

古いからこその味わいを残しつつ、不便さを解消するバランス感覚。

一朝一夕に身につくものではなく、数多くの現場を経験し、建築家や大工たちと膝を突き合わせて、議論を重ねる中で磨かれていく。

自分が企画し、手をかけた家が完成し、そこに新しい住まい手が暮らす。

京都の古いまち並みが今も魅力的に映るのは、こうした企業の地道な活動があるからかもしれない。

 

株式会社八清
事業内容:京町家や中古住宅・ビルの再生・販売、不動産仲介、プロパティマネジメント
創業:1956年
所在地:京都府京都市下京区高橋町619
従業員:38名(2026年1月)
HP:https://www.hachise.jp/

 

 

自分の手で、つくる

紹介した3つの仕事は、どれも長い時間をかけて磨かれてきたものです。

その根っこにあるのは、「これが好き」「もっと良くしたい」という、とても個人的でシンプルな想いではないでしょうか。

まずは自分の手で、何かをつくってみる。

もちろん、それはモノだけではありません。

誰とどこで、どう生きるか。その暮らしや働き方そのものも、自分の手で選び、つくっていけるはずです。

もし、今の環境でそれが難しいと感じるなら。思い切って場所を変えてみることも、自分らしい人生をつくるための、ひとつの大切な試行錯誤だと思います。

 

 

 

執筆者:田辺宏太
神奈川県生まれ。アパレルの販売員を経て、日本仕事百貨の編集者に。
ときどきZINEをつくったり、コーヒー豆の焙煎をしたり。最近では、古着のリペア工場でお手伝いをはじめました。
月に一度は、地方に出張をして取材をしています。手間隙をかけてものづくりに向き合う職人さんの話が、大好きです。

日本仕事百貨について:
さまざまな生き方や働き方を紹介する求人サイト。実際に働く人のもとを訪ね、一つひとつ取材し、会社・働く人の思いに加え、大変なところも含め、ありのままを伝えている。
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