LO活×日本仕事百貨~地方のオモシロ企業・仕事図鑑 vol.1~
地域の魅力を仕事にする編
仕事の選択肢は、地方よりも都会のほうが多い。
一般的にはそう思われがちですが、日本各地にはまだまだ知られていない魅力的な仕事がたくさんあります。
とくに、地域と深く結びついた、その場所でしかできない仕事は、地方ならではのもの。
どの企業や団体も、地域に代々根づく歴史や文化、長く守られてきた自然、そこで生きる人たちとのつながりを大切にしながら事業をおこなっています。
今回は、いろいろな生き方や働き方を紹介する求人サイト「日本仕事百貨」から、「地域資源の活用」をテーマに3つの仕事をご紹介します。
実際にその土地を訪れるような気持ちで記事を読みながら、「こんな仕事があるんだ!」と感じていただけたらうれしいです。
NIPPONIA 小菅 源流の村(株式会社EDGE):山梨県小菅村
山梨県小菅(こすげ)村は、多摩川源流に位置する、約700人が暮らす村。
東京都心からは2時間ほど。中央本線の大月駅から山道を車で走り、30分ほどの場所にある。
山との距離は近いけれど、山頂に近いところに位置しているおかげか、空を広々と感じられて気持ちがいい。
この村にあるのが、「NIPPONIA 小菅 源流の村」。
2019年にオープンし、「村まるごと一つのホテル」というコンセプトを掲げて運営している、分散型ホテルだ。
分散型という言葉の通り、ホテルの機能が村の中に点在しているのが特徴。
中心となるのが、村で一番の歴史をもつ邸宅を改修した、フロントと宿泊棟。そのほか、村内にある道の駅をホテルのショップ、温泉施設はホテルのスパとみなすなど、地域全体を観光資源として楽しんでほしいという思いがある。
村で暮らす住民は、訪れる人たちに地域を案内するキャストの役割。
宿泊棟から温泉施設までの道のりを村民と一緒に歩く「小菅さんぽ」というアクティビティは、お客さんから人気を集めているそう。
案内役のみなさんは、道に生えている草を「これは食べられるんだよ」と教えてくれたり、獣の足跡を見つけたら害獣の話をしてくれたり。村の人なら当たり前のように知っていることも、外から訪れた人たちには新鮮に感じられるはず。
ホテルやレストランのスタッフには、小菅村に移住してきた人たちも多く働いている。
実際に村で暮らすなかでの発見や地域の人との関わりが、そのまま仕事にもつながっていく感覚が得られる環境だ。
地域と共存しながら、いい循環を生み出している、NIPPONIA 小菅 源流の村。ここでの営みは、地方での新たな宿泊業のかたちとして、注目を集めている。
株式会社EDGE ※英語表記は、EDGE CO., LTD
事業内容:古民家ホテルの開発・運営、それによる地域振興
創業:2018年
所在地:山梨県北都留郡小菅村3155-1
従業員:10名(2025年11月)
HP:http://www.edge-kosuge.jp/、https://satoyume-hotels.com
starnet(株式会社スターネット):栃木県益子町
東京から車で北へ約2時間。
黄金色に輝く小麦畑に白い花を咲かせた蕎麦畑、水面に光が反射している田んぼ。
その向こうには山と森。
そんな風景を抜けると、瓦屋根の建物が並ぶ益子のメインストリートが現れる。
栃木県益子町は陶器の産地。
いくつもの焼きもの屋さんを抜けた先にあるのが、starnetの店舗。
墨色の壁と白い窓枠のコントラスト美しい建物は、1階がストアとカフェ、2階がギャラリーとして運営されている。
「手の届く範囲で心地よく暮らす」ことを大切に、1998年に生まれたstarnet。
地域の人々とつながりながら、暮らしを豊かにする「もの・こと」を扱い、心と体をととのえる場づくりを実践してきた。
カフェでは、近くで採れる無農薬の野菜を使った料理を、伝統工芸品の益子焼に盛り付けて提供。
ギャラリーでは、地域内外の作家やクリエーターと連携し、企画展やイベントを展開している。
ストアで取り扱っているのは、オリジナルの器や天然素材の洋服、生活・服飾雑貨、食品など。
10年以上前から販売しているのが、地域の伝統工芸士・大塚一弘さんとともに作った器。陶土も釉薬(ゆうやく)も、益子の自然から生み出された。
starnet共同代表の及川さんはこのように話す。
「あらゆることに効率や成果を求められる社会で、暮らしがないがしろにされている気がするんですね。ここでは、衣食住を通して、ていねいに自分の感覚と向き合って、健やかであること。そうしたことにふと立ち返れる。来ていただく方も、一緒に働く仲間も、感覚を取り戻せる。そんな場所でありたいと思っています」
starnetのあり方に惹かれた人たちが、ストアやカフェのスタッフとして集まっている。
益子の自然と文化のなかに身を置き、そのつながりを丁寧に紡いでいくことで、自分自身のあり方とも向き合っていくことができる環境だと思う。
株式会社スターネット
事業内容:器、服、雑貨、靴販売。カフェ、ギャラリー運営。
創業:1998年
所在地:栃木県芳賀郡益子町益子3278-1
従業員:6名(2025年11月)
HP: https://www.starnet-bkds.com/
宗教法人 和布刈神社:福岡県北九州市
本州と九州をつなぐ関門橋。そのたもとに和布刈(めかり)神社はある。
最寄りの門司港駅からは、バスで10分、歩くと40分ほど。
もともとは海路でしか辿り着けなかったため、参道は海へと続く。
その向こうを大型の船が行き交い、対岸には山口・下関のまちなみが広がっている。
福岡県北九州市で、1800年超の歴史をもつ和布刈(めかり)神社。
毎朝の仕事は、神様へのお供えと挨拶から。守り継いできた伝統を大切に、これからの未来を見据え、新たな取り組みを重ねてきた。
たとえば、人生の終末に関わる「終活」。「亡くなったあとは自然に還りたい」という思いを持つ人たちに対して、古来の弔いのあり方にならった海洋散骨を受け付けている。遺言や葬儀などの相談も、高齢化に伴い増えているそう。
そのほかにも、思い入れのあるものを供養する「思物供養(しぶつくよう)」や、神道式のお葬式である「神前葬」など。
存続の危機にある神社が増えているなかで、年間通して安定的に収益を得られる体制をつくり、永く続けていくために。
さまざまな挑戦の背景にはそんな思いがある。
結果として和布刈神社の参拝者数は年々増え、収益も向上。
近年は、培ってきたノウハウを活かして、全国の神社のコンサルティングも手がけている。
神職の経験がない人たちもたくさん働いていて、まずは神主見習いからスタートし、徐々にステップアップしているそう。
自分たちはもちろん、全国各地にある神社がこれからも続いていくように。変わらない伝統を守り継ぐため、和布刈神社は変わり続けている。
宗教法人 和布刈神社
事業内容:神社運営・終活提案
創業: 西暦200年
所在地:福岡県北九州市門司区門司3492番地
従業員:12名(2025年11月)
HP: https://www.mekarijinja.com/
地域資源の、支え手になる!
今回紹介した3つの仕事は、どれもその地域だからこそ生まれ、続いてきたものです。
地域の営みを自らの手で守っていけるのは、地域にいる人たち。
その価値を残していくために、新たな取り組みを掛け合わせることで、いい変化が生まれはじめています。
そんな仕事に共感したなら、地域で働くことを選択肢に入れてみませんか?
自分がそこで働く意味をしっかりと感じながら、日々を過ごせる環境があると思います。
執筆者: 増田早紀
群馬県出身。学生時代は国際ボランティアを行うNPOに参加し、徳島・山口などで地域の人たちと活動。
新卒ではメーカーに営業職として入社し、退職後デンマークへの短期留学を経て、日本仕事百貨を運営する(株)シゴトヒトへ入社。
地方での取材を60件ほど経験。「自分が心からいいと思えるもの/ことを仕事にする」ということを大切にしている。
日本仕事百貨について:
さまざまな生き方や働き方を紹介する求人サイト。
実際に働く人のもとを訪ね、一つひとつ取材し、会社・働く人の思いに加え、大変なところも含め、ありのままを伝えている。
