スペシャルインタビュー
第28回 “生きるように働く”を求める人が、地方企業にも目を向ける理由

第28回 “生きるように働く”を求める人が、地方企業にも目を向ける理由

株式会社シゴトヒト代表取締役 ナカムラケンタ氏
1979年東京生まれ。「日本仕事百貨」を運営する株式会社シゴトヒト代表取締役。一級建築士事務所Yatra共同創設者。心地のいい場所には「人」が欠かせないと思い、生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を立ち上げる。グッドデザイン賞など、様々な審査委員を歴任。東京・虎ノ門に「リトルトーキョー」を2013年7月オープン。現在は東京・清澄白河に移転し、いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」を企画・運営。プロジェクト型採用「BIZIONARY」、生き方・ 働き方を伝える本のレーベル「シゴトヒト文庫」などを手がける。著書『生きるように働く』(ミシマ社)。

テーマ1
仕事の探し方を変えることで、「まさか自分が」の場所にたどり着くことができる

「日本仕事百貨」は、”生きるように働く人の仕事探し”のお手伝いをしています。仕事の時も、そうでない時も、”自分の時間”であると思えること。何を大切にして、どういう人と一緒に働きたいか。オンとオフのように切り分けるのではなく、仕事の時も“自分の時間”と思えるように暮らしたい、そんな思いを持つ人に向けて、仕事を紹介しています。

 

日本仕事百貨って、求人サイトなのに検索機能がないんです。人は、仕事を探す時、住んでいる地域や大学の専攻、給与や休みなど、条件を決めて探しがちだと思うのですが、私自身が利用者だったときに、その結果になかなかしっくり来なくて、「もっと他に何かあるんじゃないかな」という思いがありました。なんとなくイメージはあるのだけど、思うような仕事に出会えない。もっと、雑誌をペラペラめくるように読んでいて、「あ、このお店いいね、行ってみよう」って感覚で仕事に出会えないかなと。

仕事の探し方を変えることで、「まさか自分が」の場所にたどり着くことができる

日本仕事百貨の利用者には、もちろん学生さんもいるのですが、「一度仕事に就いたのだけど、やってみたらちょっと違う気がした」、「もっとこういう風に生きてみたいと思った」、「なんとなく流れに身を任せてきちゃったけれどこれじゃダメな気がする」とか、何らかの理由で立ち止まった方が多い印象です。

 

とはいえ、最初から地方企業を意識していたわけではなくて、最初はサイトの名前も「東京仕事百貨」だったんです。ところがやっていくうちに、どんどん地方企業の求人が増えていって、今は半分弱が地方企業です。一方で、読者は、8割が都市部在住者、2割が地方在住者なので、大きな流れとして、都市から地方に人を送り込んでいると思います。

 

そもそも、検索機能を使って仕事を探したら、なかなか離島の企業にはたどり着けないですよ。でも、地方にも先進的で面白い企業はたくさんあります。それを、出会わぬうちから除外してしまうのは、もったいない。まずは「どんな仕事なのか」から入り、縁のなかった場所に出会い、気になったら移住する。そんな、ある意味「ハプニング」を起こしてもらえればと思っています。

テーマ2
個人も会社も地域も、「三方良し」を実現できる地方企業の魅力

個人も会社も地域も、「三方良し」を実現できる地方企業の魅力

地方企業の魅力は、やはり地域をよくしていけるところだと思います。いくら思いが強くても、個人の力で地域を変えるのはなかなか難しい。ところが、最近の地方企業の振る舞いを見ていると、いわゆる「公社」的な動きをする会社が増えているなあと感じます。ここで話している「公社」は、地方公共団体が公共用地の買収や開発などのため財政援助をして設立する法人ではなくて、地域を共有するとか、公共的な会社という意味です。

 

例えば、北軽井沢に「きたもっく」という会社があります。北軽井沢の人口は1600人くらいですが、その約1割が「きたもっく」に関連する仕事をしているそうです。彼らはキャンプ場を運営しているのですが、それをより持続的なものにしようと、林業を始め、製材所を作り、製材した木でコテージや家具、さらに薪工場を作り薪を配るなどして、インフラ整備に貢献しています。

 

昔だったら、工場を誘致して大きな雇用を生むのが地域活性の定番でしたが、今やそれにとどまらず、その地域で公的な役割を担う動きが増えています。そうすることで、事業も、そこで働く個人のライフスタイルも、充実するのを理解しているのだと思います。

 

学校を変える動きも活発です。徳島県神山市にサテライトオフィスを構える「Sansan」の寺田社長が発起人となって、2023年4月に開校を目指す「神山まるごと高等専門学校(仮称)」だったり、徳島県美波町に本社がある「あわえ」は、都市との二拠点で生活する家族のために、子どもが都市と地方の学校を行き来できる「デュアルスクール」という取り組みに力を入れたりしています。

 

会社の持つ機能を地域に開放するケースも増えています。多いのは社員食堂を地域住民に向けてひらくことですが、発電会社が非常時に地域に無償で電力を供給する協定を結ぶようなケースもあります。島根の石見銀山にある「群言堂」などは地域に関わる会社としてとても知られた存在ですが、地域を思う会社がそれなりの規模になれば町は必ずよくなっていくんですよね。

 

行政は、公平が原則ですから「選択と集中」が苦手な面があります。一方で地方企業は、客観的に見て最も効果的なものに集中投資ができる。そういう点で、地方企業の魅力というのは、ちゃんと稼いで、その上で、地域のQOL(Quality of Life)まで上げることができて、それが、自分にも返ってくることにあると思います。

テーマ3
自分にとっての「心地よさ」は、トライ&エラーを繰り返した先にある

自分にとっての「心地よさ」は、トライ&エラーを繰り返した先にある

自分にとって今が心地いいのかどうかは、私自身、常に考えていると思います。いろいろと試してみて、確認するタイプです。やってみないと分からないことって、やっぱり多いですし、憧れで入ってみてそのまま上手くいく人もいれば、違うなって思う人もいるし。

 

移住もそうだと思います。合う人も、合わない人もいる。答えを知りたい人も増えていますが、自分がどういう状態にいたいか、というのは体感しないと分からないですよね。人間って変化に保守的になる面はあると思うのです。でも、いろいろな方にインタビューをしたり自分の人生を振り返ったりしてみると、チャレンジした人の方が結果的に幸せになっているような気はします。いろいろとやってみた上で、自分が収まる場所を見つけている人の方が、いきいきとしている。自分がどういうものが好きで、どういうものが苦手なのかっていうのは、本当のところ、やってみないと分からないですから。

 

今は、放っておいても多くの情報が入ってくるので、それによって無意識に影響されてしまう面があると思います。例えば「好きなタイプ」ひとつをとっても、人気芸能人や素敵だと噂される人に引っ張られて、自分もそれが好きだと思い込んでしまう。そうじゃなくて、自分自身のモノサシを見つけられるのが理想ですよね。

 

青い鳥じゃないですけど、いつまでも辿り着かなくて、結果、今いる場所が最高だっていうこともあると思います。ただ、動かなかった結果の今の場所と、散々動いてみた結果の今の場所は、納得感が違ってくるんじゃないかと思います。もしも、今の状況になんとなくモヤッとしていることがあるのであれば、何か環境を変えてみるのはいいことだと思います。

 

この記事に掲載されている情報は、2022年7月にサイトに公開した時点での情報です。

 

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