スペシャルインタビュー
第26回 人生は、知らなかった地域とつながることで、豊かに広がる

第26回 人生は、知らなかった地域とつながることで、豊かに広がる

株式会社おてつたび 代表取締役CEO 永岡里菜氏
1990年三重県尾鷲市生まれ。千葉大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社勤務、農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経て、独立。一見、何もなさそうに見えてしまう地域に人が来る仕組みを創りたいと思い、2018年7月株式会社おてつたびを創業。地域の短期的・季節的な人手不足で困る事業者(宿泊施設や農家等)と、「知らない地域へ行きたい!」と思う地域外の若者をマッチングするwebプラットフォーム『おてつたび』を運営。誰でも簡単に知らない地域で仕事をしながら旅ができ、自分にとっての特別な地域が創出できる世界を目指している。

テーマ1
地域にある「余白」

地域にある「余白」

私たちは、地方・地域(以下地域で統一)の困り事と地域外の若者とをつなげる「おてつたび」という事業を運営しています。おてつたびに参加される方の中に、最初から地域に移住したいと思っているわけではなかったり、地域のことを詳しく知らない方もいらっしゃいます。ところが、おてつたびから帰ってきた後で、地域への移住を決断する方や、おてつたび先に就職する方がいます。数日間の地域での経験が、人生の大きなきっかけになることがあるのです。

 

ある大学生の参加者は、生まれも育ちも都会で、卒業後も都会で働く以外の選択肢は考えていませんでした。ところが、岩手県のある地域におてつたびに行ったところ、今まで知り合ったことのなかった面白い方とたくさん出会って帰ってきました。「地域の方が面白い人が多いと感じたので、卒業後の進路として都会以外の選択肢も持ちたいと思いました」と心境の変化を語ってくれました。他にも、宿泊施設におてつたびに行った方で、女将さんにものすごく気に入られ、その場でオファーをいただき、その施設で働くことを決めた方もいました。

 

地域の方々や、そこでお手伝いする方たちを見ていて感じるのは、地域には余白がたくさんあるということです。そもそも若い人が少ないですし、こんなことが役に立つんだ、喜んでもらえるんだ、という発見や、活躍の場が数多くあります。

 

都会に住んでいると、自分でなければいけない、ということになかなか出会えない環境であることに気が付きます。効率よく回ることが重要とされる資本主義の考え方では、仕事は誰がやっても何とかなる仕組みにする必要があります。都会になるほどその傾向は強く、そうなると必然的に「自分でなければ」が少なくなります。一方、地域に行くと「あなただから」という話が多くなってきます。自分ができることに自然と目が向き、自己肯定感や自己効力感が高まっていきます。

 

これは私自身の話ですが、東京で仕事をしながらさまざまな地域を巡る中で、都会で働いていると肩書でいろいろなことをジャッジされる場面が多いと感じます。一方で、地域に行くと肩書ではなく個人を見て、人となりを大切にしている方が多いように思います。また地域には、自然体で、何かをコントロールしようと思っていない方が多いです。農作物や自然環境など自分でコントロールできないことに囲まれる中で、来週来る台風に「来るな」と言うのではなく、それに対して自分がどうやれるかという考え方です。とても達観されていて、人としての大切なものを持っていると感じます。

テーマ2
地域で発見する、新しい自分

地域で発見する、新しい自分

地域でお手伝いをして帰ってきた方が、その後もさまざまな形で地域と関わりを持ち続けるのは、その場所が「自分ごと化」したからというのが大きいです。一緒に仕事をしたり、ご飯を食べながら地域のありのままの課題感を聞いたりすることで、自分に何かできることはないか、このお手伝い先を何とかできないか、といった思いが強くなっていきます。

 

岡山県のある宿泊施設では、動画を使ったプロモーションをやりたいと思っていましたが、なかなか取り組めずにいました。その施設の方が、おてつたびに来た方(Aさん)との雑談で動画配信をしたいという話をしたところ、Aさんは動画制作に興味があることが分かり、動画を作ってもらえることになったケースもありました。その後、Aさんは岡山にプチ移住して、大学の授業をオンラインで受けながら、動画を次々に制作しています。

 

また、地域に行くことで自分の新たな一面を発見して帰ってくる方も、少なからずいます。例えばコミュニケーションが苦手だと思っていたけれど、意外と知らない人たちの中でも話せるんだ、と自信を持てるようになったり、自分は案外単純作業が好きだったんだ、と気付いたりするのです。地域の人にお願いされてSNSのアカウントを開設したり運用したりしているうちに、仕事で広報をやってみたいと思うようになった方もいました。地域と関わることによって、本人が気付いていなかった自分自身が引き出されていくのです。

テーマ3
自分にとっての特別な地域を持つこと

自分にとっての特別な地域を持つこと

今、都会でモヤモヤしている若者の皆さんには、「一歩踏み出してみて」というメッセージを送りたいと思います。よくある言葉ですが、重要なことだと思っています。現状に対していろいろ思うことがあるのであれば、まずは一歩踏み出すことです。

 

私たちは、「誰かにとって“特別な地域“を創る」をミッションに掲げています。これは、活躍の場としてだけではありません。居住地や地元とは別に、相談ができる場所。就職したら報告しに行きたくなったり、結婚したら相手を連れて行きたくなったりするような場所。私たちはかかりつけ薬局のように、「かかりつけ地域」と呼んでいるのですが、みんながかかりつけ地域を持てたら良いなと思っています。

 

例えば、宮城県の栗原市には1年ほど前から継続的におてつたびを受け入れていただいていて、すでに50名ほどが栗原に行っています。栗原に行った人の中には、その後いろいろと悩むことがあると、「充電してきます」と言って再訪したり、栗原に行かなくてもおてつたび先の方に相談に乗ってもらっていたりするのです。

 

また、一時的な逃げ場を持っておくことも重要だと思っています。逃げ場があると思うだけで気の持ちようが変わり、次の一歩を踏み出せるような前向きな気持ちになります。しんどいときに行ったら充電できるような、第2第3の故郷と言えるような地域を一人一人が持つようになったら、人生がもっと豊かになって、世の中ももっと豊かになるのではないかと思います。

 

※この記事に掲載されている情報は、2021年7月にサイトに公開した時点での情報です。