スペシャルインタビュー
第24回 地方都市で就職し、活躍できるのはどんな人材か?

第24回 地方都市で就職し、活躍できるのはどんな人材か?

中京大学経済学部客員教授 内田俊宏氏
1991年一橋大学経済学部卒。2002年名古屋大学大学院経済学修士。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社シニアエコノミストなどを経て、2015年より中京大学経済学部客員教授、2019年より学校法人梅村学園常任理事。国土交通省中部地方整備局、愛知県、名古屋市、青森県などの委員を務め、地域経済全般に関するアドバイザーの立場から、まちづくりや地域ブランディングなどについて提言を行っている。名古屋を拠点にNHKや民放テレビ、ラジオなどにも多数出演。

テーマ1
withコロナでクローズアップされる地方都市

withコロナでクローズアップされる地方都市

 新型コロナウイルスの感染拡大で、withコロナの長期化が懸念される中、地方都市がクローズアップされています。

 4月に政府の緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出自粛要請によってテレワークが一気に普及しました。企業や働く人の価値観も変わり、高い賃料を払ってまで都心の一等地にオフィスを構える必然性が薄れています。リアルでのオフィス立地の意味を疑問視し始めた企業は少なくありません。

 もちろん業種や業態にもよりますが、リモートワークでオンライン上の仮想オフィスなどで業務を継続し、必要な時だけサテライトオフィスや出張に行けばいいという考え方も出てくるなど、withコロナは今までの働き方を大きく見直すきっかけにもなっています

 おそらく今後は、首都圏企業の一部が地方に拠点を移し、地方で人材採用を強化するほか、リゾート地で働くワーケーションも定着し、それをきっかけに大都市圏から地方に移住する若者も増えると思います。価値観の変化により、地方都市には躍進するチャンスが生まれると思います。どの地方でも、若者や女性が大都市圏に流出し、高齢化の加速によって担い手不足に陥っているため、若い人を歓迎してくれます

 ただし、全国の地方全てにチャンスがあるわけではありません。首都圏の若者がUターンやIターンをして地方で起業する場合も、地域内での好循環を生み出せる地域を選択します。withコロナの時代は、地域間格差が拡大すると思います

 

 持続可能な地方と消滅可能性都市とも表現される地方の違いは、withコロナで加速する非接触型社会への対応がカギとなります。どれだけ早くスマート社会へ移行できるかが重要となるでしょう。

地方でビジネスチャンスを得るためには、ICT化によって生産性を向上させるとともに、首都圏や海外市場へ直接アクセスできる環境を作ることが重要です。地方の企業や生産者は、消費者や潜在顧客と直接ネットワーク化する必要があります。そのためにはICTが不可欠です。

 仮に、ネットワークから完全に遮断されたある地域が、ゆったりした時間を過ごせる点をセールスポイントに人を呼び込もうとしても、そのエリアの情報発信やアクセスルートのサービスがオフラインでは話になりません。スマート社会では、キャッシュレス決済ができない地域はインバウンドの訪日客だけでなく、国内の消費者の選択肢からも除外されてしまいます。

 地方もスマートシティ化を進め、オンライン上で大都市圏や海外市場と直結することで、オフライン(リアル)の魅力を伝えることが初めて可能となり、観光客の増加や企業立地によって、地域資源を活用した高付加価値化が実現します。賃金水準も上がれば、若者や女性の流入がさらに期待できるようになるでしょう。

これまで地方都市と大都市圏には大きな賃金格差があり、地方の方が物価は安くても、大都市圏から移住するとなるとハードルは高かったと思います。しかし、withコロナの期間が長期化することによって人々の価値観や企業の立地基準が変わりつつあり、地方に興味を持つ若者が増え、地方での働き方やワークライフバランスに共感する人たちが、実際に地方へと移り住むようになるはずです。

テーマ2
地方で活躍できるのはどういう人か?

地方で活躍できるのはどういう人か?

 地方にはキラリと光る企業があります。そうした企業を探し出すには、就職ポータルサイトに掲載されている地方企業に片っ端からエントリーするのではなく、各地域の地元紙や経済紙で取り上げられている企業をチェックするなど、情報収集と分析に時間をかけた方が良いと思います。

 ただし、新卒者であれば、いきなり地方の企業に就職するのではなく、自分が将来住みたいと思う地方に足りないものは何か、地域資源の活用に必要な要素は何かを考え、そこから逆算して、首都圏の企業で一定期間スキルを磨き、その後、UターンやIターンでの転職を考えても良いと思います。

 これからのスマート社会化で、最も地方に足りない要素はICT技術です。単純に、地方企業のICT化もありますし、観光や定住につながるビッグデータを分析する人材なども不足しています。地域資源を活用した高付加価値化にICTは不可欠であり、そうした企業の多くは東京など首都圏に集積しています。例えば、地方の農業や漁業でも、生産者が収穫や漁獲の様子をネットで動画配信し、それを首都圏の消費者が直接見て購入するようなライブコマースを取り入れたPtoC(生産者と消費者の直接取引)に移行するだけでも、付加価値は高まります。こうした、若い人たちには技術的に簡単な取り組みも、地方の高齢の生産者には難しい面があります。

 

 50代である我々の世代では新卒で入社し定年まで同じ会社で働く終身雇用の考え方が残っていましたが、もはやそういう時代ではありません。

 長期的なキャリア形成においては、最終的な目標に到達するために、どのような職種や業界、企業を選ぶべきなのかを逆算して考える必要があります。また逆に、確固たる目標が最初からなくても、実際に就職して、様々な業務をこなしていく中で、徐々に自分のやりたいことが固まっていくタイプの人もいると思います。

 これまで地方は大都市圏に若年労働力を供給し続けてきました。とりわけ東京はブラックホールのように若い人をどんどん吸引してきましたが、東京では晩婚化が進み、結果的に合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数)も低下します。このため、東京一極集中で若者が吸い寄せられる悪循環が続くと、少子化に歯止めがかからず、日本経済の競争力は低下します。

 政府も、東京一極集中の是正や地方の活性化を掲げてきましたが、beforeコロナでは効果的な施策を打ち出せませんでした。それがwithコロナで風向きが変わり、若者の価値観が多様化を通り越してパラダイムシフトへと向かっています。地方が首都圏や海外のマーケットとネットワーク化し、高付加価値のビジネスモデルを構築できれば、若い人材が自然に集まってくる地域内の好循環(エコシステム)を生み出すことが可能となるでしょう。

 

テーマ3
活性化に成功する地域はどういうところか?

活性化に成功する地域はどういうところか?

 実は、私自身は青森県の八戸という地方都市で生まれ育ち、東京の国立大学に進学した後、仕事で東京から名古屋に移り住んで現在に至ります。地方都市と首都・東京、三大都市圏の名古屋という規模が異なる都市で生活してきたため、おのずとそれぞれの地域を客観的に評価し、良い点も悪い点も見られる立場になったと思います。

 地方出身者なので余計そう感じるのかもしれませんが、東京よりも地方都市で生活する方が日々立ち止まっていろいろなことを考える時間があります。東京は刺激的な街で日々変わっていきます。そこに身を置き働いていた時は充実しているのですが、毎日満員電車に揺られ、ときには始発近くの電車で出社し、終電近くに帰宅する生活をしていました。そうした生活と比べると、名古屋は随分とワークライフバランスが取れている地域だと思います

 

withコロナ、afterコロナの時代は、全国どこの地方にも地域活性化のチャンスがあると思います。最近、注目を集めているワーケーションでは、和歌山県の南紀白浜や沖縄県などが先行していますし、リニア中央新幹線が開通すると東京の品川から名古屋までが40分、岐阜県・中津川にも約50分で行けるようになります。東京から一時間以上かかる軽井沢ではなく、中津川に別荘を持つ東京の富裕層も増えるかもしれません。また、サテライトオフィスを設置する首都圏企業も出てくるかもしれません。ただし、どの地域にも強みと弱みがあり、完璧な場所はありません

 前述したスマート社会への対応に加え、各地域の県民性や気候、観光コンテンツや食材、住環境など地域の魅力を発信しつつ、他地域とのコラボレーションなども駆使して弱みを補完していけば、どの地方でも地域活性化と域内好循環のチャンスは生まれてくると思います。

そして、地域の強みや弱みは、必ずしも地元に長く住んでいる人たちが的確に把握できているわけでもありません。観光客や外の地域から移り住んだ人の方が、その地域の強み弱みを客観的に評価できることもあります。移住・定住者を増やしていくためには、外からの視点を生かして価値を見出すことが重要ですし、地方にとっては「外から見た視点」を常に意識した地域資源の活用が重要であると言えるでしょう。