スペシャルインタビュー
第20回 地方企業の採用を支援するプロが断言! 「だから今、主役は地方企業です」

第20回 地方企業の採用を支援するプロが断言! 「だから今、主役は地方企業です」

株式会社コヨーテ 代表取締役 菊池龍之氏
1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、人材総合企業にて大手企業を中心とした採用・教育のコンサルティングに従事。同社退社後、2009年に300社を超える企業の採用事例を紹介したブログ『世界のユニークな採用試験を紹介する面接の研究所』を立ち上げ、多数メディアに取り上げられた。2011年株式会社コヨーテを設立。企業側から採用を変えていくことに軸をおき、地域、規模を問わず国内さまざまな場所で人事向けイベントの企画、コンサルティングを行っているほか、講演、執筆などでも幅広く活動している。

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知名度の高い会社=いい会社とは限らない

知名度の高い会社=いい会社とは限らない

私は現在、企業の「採用力」を上げることをテーマに活動をしています。採用に関わる仕事をずっとしているなかで浮かび上がってくるのは、どうしたら知名度や規模の大きさに左右されない採用ができるのだろうという課題です。特に地方企業の場合、知名度という点では圧倒的に都市部と比べて不利ですよね。

 

私が日本各地の企業を見てきて感じるのは、知名度が低くてもいい会社はいっぱいある。そこにマッチするであろう若い人材もいっぱいいる。なのに、どうしてお互いが出会えないんだろうというジレンマです。

 

そこには学生側の、「知名度のある会社=いい会社」に見えてしまう現象と、もうひとつ大きな原因として、企業側の採用力の低さが挙げられます。

 

岩手、鹿児島、岐阜、沖縄、福岡など、さまざまな場所で、企業の採用力を上げることをテーマにしたセミナーやワークショップを開いていますが、とくに地方企業の多くは「うちには若い人が来てくれない」という悩みを抱えています。しかし話を聞いていくと、そもそも企業側がどんな人材を欲しがっているのか、具体的なビジョンが描けていないということが非常に多いんです。

 

ターゲットがあいまいだと、本来届けたい人に自社のイメージが届きません。認知すらされていないことが、採用において一番の壁になってしまうんです。どうやって人を口説くか、どうやって人を見抜くかという段階にたどり着く以前の問題です。そこで採用力の底上げが必要になってきます。

 

今はインターネットで検索すれば日本全国の求人情報が見られます。しかし、若い人の目に映るのは、自分のまわりに見える会社や知っている会社だけです。届いていないだけで、魅力がないわけではない。そんな理由で地方の魅力的な企業に選択肢が広がらないのは、本当にもったいないことだと思います。

 

私は世界中のさまざまな会社の採用成功事例を研究してきましたが、そこにはなるほどと膝を打つような採用方法がたくさんありました。欲しい人材と、採用されたい人がマッチするためのヒントは、規模や知名度に関係なく活かせます。そういった採用力を高めるための方法を、セミナーやワークショップで企業に伝え、新しい採用方法を作り出す支援をしています。

テーマ2
地方企業が採用のためにしている努力を知ってほしい

地方企業が採用のためにしている努力を知ってほしい

ワークショップではまず、夢を語ってもらいます。未来の話をしてもらうんです。その地域や業界、市場は今どうなっていて、これからどうなるのか。そんな未来のなかで、どこに向かいたいのか徹底的に考えてもらいます。これがみなさんなかなかできないんですが……。人事だけじゃなく経営者が参加していても、8割くらいの会社はそこで筆が止まってしまいます。

 

そこでお話するのが、これから社会に出ようとしている不安でいっぱいの若者を、未来のビジョンが見えない企業や地域に行かせたいと思いますか、ということです。ビジョンがないと絶対にいい人材は来てくれません。

 

経営計画ではないので、青臭くてもいいからぜひ夢を語ってくださいとお願いすると、みなさん苦しみながらも、だんだんと創業当時の思いや夢を思い出してきます。こういう業界にしたい、地域にこういう形で役立ちたいとか掲げていたなあと、とてもいい顔をして語ってくださいます。その話を、私はもっと語ってほしいと思うし、若い人にもっと聞いてほしいと思います。

 

次に、求める人材像も、しっかりと作り上げてもらいます。実際にとてもおもしろいアプローチをした会社もありました。岩手の造園業者さんなのですが、例にもれず、その会社も若手不足に悩んでいました。セミナーに参加されるなかで、求める人材像をより具体的に、東京の農業大学の学生をペルソナ(人物モデル)として描いたんです。

 

その上で、今そのペルソナが大事にしていることや、困っていることはなんだろうと考えました。大学3年生だから、もちろん就職のことも考えているだろうけど、今はどこでも若手は引く手あまた、言ってしまえば売り手市場です。だから就活よりも、目の前の卒業論文をどうしようか悩んでいるんじゃないかと想像したんです。

 

そこでその造園業者さんは、卒論研究のテーマとして、東日本大震災後の復興現場を視察し、今後の造園の未来を考えてみませんかと、東京の農業大学のゼミに話をしに行ったんです。一泊二日のツアーを組んで、交通費と宿泊費は出します、ぜひ卒論に役立ててくださいと。

 

就職説明会でもインターンシップの募集でもなく、突然ゼミにやってきた岩手の造園業者を、そこで初めて彼らは認知します。アイデアが認知の壁を超えた瞬間です。なにかおもしろいことをしている会社があるぞと話題を呼んで、結局そのツアーは定員を超える応募があり、そのなかから新卒採用者も出ました。地方企業は、若手の皆さんと出会うために、日々知恵を絞っているんですね。

テーマ3
魅力的な地方企業へアクセスするためのアドバイス

魅力的な地方企業へアクセスするためのアドバイス

地方企業には首都圏企業では感じられない魅力が詰まっています。ただ、地方で働くことを考えたときに、情報収集のやり方やアプローチ方法など、さまざまな悩みがあると思います。私からのアドバイスとしては、大きく3つのポイントをおさえるといいんじゃないかなと思います。

 

●ポイント1

はっきりしたビジョンを持っている会社を選ぶ

 

企業に安定や安心を求める人は多いですが、規模や知名度はいつ破綻するかわからない。そうなったときによりどころとなるのは、幹となるビジョンがあって、時代の変化にも適応していける企業です。腰を据えて自分の会社や地域のことを考えている会社というのは強いと思います。そういった意味でも地方には頼りになる会社がたくさんあるなあと感じますね。

 

●ポイント2

LO活仲間をつくろう

 

学生を見ていて思うのは、就職に対して意欲的に活動していても、見たい情報しか見えていないんじゃないかなということです。情報はあふれているけど、結局友達や先輩から口コミで教えてもらった企業に限定していく構図があります。だから地方企業に興味があるなら、同じような興味を持っている友達と情報交換したほうがいいんじゃないでしょうか。LO活でもさまざまなイベントをやっていますよね。そういうものに参加したり、方法はたくさんあるので、アンテナを広く張っておくことで、地方との距離感も縮まってくると思います。

 

●ポイント3

自分軸をみつける 

 

とても基本的なことなんですが、企業を探すというアプローチの前に、自分の中に軸をちゃんと持っておくことです。どんな業界が、どんな業種がいいだろう、どんな地域がいいだろうという前に、自分はどんな人生を歩むのが幸せなのか、だれを幸せにしたいのか、世の中をどうしたいのかという、自分に向いた質問に対する答えをきちんと準備するというのは、なにより大事です。自分軸がないまま膨大な量の情報に振り回されて就活を終えてしまう人も少なくないんです。まだわからないという人も、過去を振り返ってみて、はまったことや、得意なことや、今の自分を形作った経験を棚卸してみると、これからの人生で大事にしていきたいこと、キャリアに活かしていきたいことが見えてくれんじゃないかと思います。

 

実際に地方で働く人の話を聞くと、都会で働くよりも、生きるとか暮らすことに関して、とてもカラフルなイメージがあります。オフの時間を生き生きと過ごしている人がすごく多いからかもしれません。オフィス群の中で働くのとはまた違う魅力です。

 

都会で就活をする場合、いちばんに「働く」イメージを想起して選ぶようになるけれど、地方就職の場合はそこに「暮らす」と「遊ぶ」イメージがプラスされていきます。地方企業もそこは強みとしてアピールしています。「働く」「暮らす」「遊ぶ」もすべて人とのつながりです。興味を持った地域や企業があったら、ぜひいろんな話を聞きに、出かけてみてください。