第17回 テレビ朝日系列『イチから住(いちからじゅう)』に見る 地方移住の魅力
テーマ1テレビ朝日系列にて放送、『イチから住』ってなんだ?
『イチから住』は、タレントさんが地方に移住する様子をつぶさに観察する、ドキュメンタリーバラエティです。出演者の方自ら住まいを探し、仕事を探し、実際に地方で暮らします。
この番組はそもそも、局内で地方創生にまつわる番組ができないか――そんな話が持ち上がったのがきっかけで誕生しました。タレントさんを「本気で」地方に移住させる番組はどうか、と。一時的にではなく、長期間地方で暮らすというのは、他に類を見ませんでした。
ポイントは「移住の楽しさ」をリアルに伝えること。テレビ番組では、こうした「移住モノ」は過酷なロケになることがほとんどです。無人島とか、どこかの一室に閉じ込めるとか、皆さんも観たことがあるでしょう。そうではなく、本当に地方の暮らしも楽しいんだよ、笑顔になれるよということを見せたかったんです。
番組でずっと守っているコンセプトは、とにかく「ガチ」であること。
ネットの書き込みを見ていると「どうせ住んでないんだろ」とか「ロケ終わったら東京に戻ってるんだろ」と書かれていますが……とんでもない(笑)。本気のガチです。
私たちは、出演者の方を人選するとき、事前にきちんと話を聞きます。「本当に移住に興味があるか」をきっちりチェックするためです。「本当に移住に興味があるか」、「仕事がほしいから、興味のあるふりか」なんて、詳しく話を聞けばすぐわかります。例えば、シャ乱Qまこと&富永美樹夫妻の場合、元々地方移住に興味があって、すでに山梨県に第2の住まいを建てていました。その上で「山もいいけど、海はどうなんだろう」と本気で思っていることが話をしているうちにわかり、そういうことならばと、静岡への移住企画を提案したという経緯があります。
タレントさんには番組期間中、最低でも月20日~25日は現地に居てもらうようにお願いしています。東京で仕事があるなら、移住先から通ってもらう。マネージャーさんは、東京に帰ってもらいます。出演者の方だけで本当に住むんです。スタッフも最小限。マネージャーさんもいない、専門のカメラマンもいない。タレントさんご本人と、ディレクターとAD。3人だけで撮影していることがほとんどです。
テーマ2タレントが、地方で暮らすとどうなる?
日が経つと、タレントさんの顔がどんどん変わっていくのがわかります。
素になっていくんですよ。自然な表情、というべきかな。
見ればすぐわかります。だって、頬が緩むんですから。最初は緊張しているというか、タレントさんらしい顔をしているんですが、良い意味で緩んでくる。俳優・川野太郎さんなんて、表情が変わった上に、真っ黒に日焼けまでしちゃって、ただの地元の男性のようになっていました。「おいおい、役者の仕事に影響ないのか?」と思ったほどです(笑)。
とはいえ、すべてがうまくいくわけではありません。
都会と地方の壁で、最初はなかなか移住生活を楽しめないこともありました。
では何が壁になるかというと……「虫」です。
特に女性は大変そうです。都会にいると、虫なんてそんなに飛んでこないじゃないですか。でも地方は虫だらけ。移住当初など、元々空き家で「虫の家」だったところに人間が入っていくものですから、虫のほうで人を避けてくれないんです(笑)。とはいえ、それもしばらくすると慣れるものです。
地元の人たちとの接し方もどんどん変わってきます。最初は「芸能人が来た!」と盛り上がるんです、どこでも。それが1カ月くらいすると落ち着いてくる。タレント熱が抜けて「ちょっと仲の良いお隣さん」と思ってくれるようになると、近所の方が自然と野菜などをおすそ分けしてくれるんです。地元の人が「芸能人」ではなく「一人の人」として受け入れてくれた証拠です。
時には、カメラが回っていないうちに、タレントさんが現地の方といつのまにか仲良くなっちゃって、スタッフが逆に慌てるということも(笑)。「ああ、この人近所の○○さんでー」とか、いきなり出てくるんですからね。ただ、こうなったらしめたもの。楽しい移住ライフ、大成功間違いなしです。
「現地での仕事」も大事です。移住した際には、お店の店員さんなど、地元の仕事をしてもらいます。仕事をすれば、現地のコミュニティに自然と入っていける。同僚、その家族や友人へと、勝手に輪が広がっていきます。そもそも「住む」とは、家があって、生活基盤つまり仕事があって、そして現地での「楽しみ」があること。実際の移住もそうですが、番組でもこの3つを大切にしています。
テーマ3地方に移住して、自分らしく暮らせるタイプとは?
番組でもそうですが、移住してうまくいく人は「人とふれあうことが好きな人」ですね。
会話が好き、他人に興味がある……そういう感じです。タレントさんと現地の方が本当に仲良くなって、終了後も友達関係がずっと続くケースも多々あります。
逆に、インドア好き、閉じこもりがち、あまり他人との会話が好きじゃないというタイプでは、せっかくの「地方ならではのふれあい」が広がらず、うまくいかないと思います。人と絡まない移住なんて辛いだけです。
ぶっちゃけて言うと、地方ってヒマなんです(笑)。都会のように、何もしなくても刺激だらけ、家にこもっていても不便を感じないというところではありません。
地方での楽しさは、人とのふれあいだったり、外に出て感じる自然だったり、そういった「自分から外に出歩いて、自ら求めないと得られないもの」ばかりなんですよね。そうしたもののなかから「自分なりの楽しみを見つけられるかどうか」が成功のヒケツでしょう。「あ、タンポポが咲いてる」みたいな、ちょっとした発見で幸せを感じられるタイプの人は、移住に向いていると思います。
さて、番組を作るにあたって「事前の情報集め」はとても重要です。長い期間その場所に居続けるわけですから、慎重にもなります。これは、実際の移住でも同じでしょう。
私たちがロケハン(ロケーション・ハンティング)で注目するのは「その土地の人柄」です。ある程度オープンな土地柄で、オープンな人が多いところ、なじみやすさを重視します。もちろん、テレビ的なコンテンツも大切。うちの番組だと、現地の美味しいレストランとかは全然ウケないのですが、地元のおばあちゃんが作ってくれる郷土料理が人気です。その土地を知る上で食は欠かせないポイント。郷土料理は、それが良く伝わるのだと思います。
若い方に対しては、もし地方でやりたいことがあるとか、気になっているなら「行ってみればいいじゃん」と思います。興味を持っているというだけで、地方移住の素質は十分です。いきなり移住ではなくても、あちこちに行って人とふれあってください。そこから見えてくるものはあるんじゃないかなと。
一方、一貫していないように受け取られるかもしれませんが、都会での生活や仕事を一通りキッチリ経験してから、あらためて移住を考えるのもいいと思います。都会を経験することで、田舎の良さを確認できるという側面もありますからね。田舎出身の私自身が一番そう感じてますからね。