第13回 地域をつなぐ交流の場として、日本全国に広がる「営業部女子課」
テーマ1悩める女性営業がポジティブになれる場を作ろう
皆さんは「営業」という仕事に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?
おそらく、お願いして契約をとる、激しい競争がある、メンタルが強くないとできない、根性が必要……そのようなことを思い浮かべる方がほとんどだと思います。
私もかつてはそうでした。学生時代に訪問販売のアルバイトをやったことがあったのですが、何十軒もの家のチャイムを鳴らして歩いても、誰も話を聞いてくれない。しかも、何もしていないのになぜか怒られる。心が折れて、営業の仕事だけはやるまいと思ったものです。
大学を卒業し、広告営業の仕事を始めてからも、なかなか契約がとれず「やっぱり私には向いていないな」と思いながら働いていました。そんな時に、先輩に言われたことが私を変えました。それは「売ろうとせずに、相手の立場に立ってその人の役に立つ仕事をしなさい」というアドバイスでした。
本当に「売るアプローチ」をしなくて大丈夫なのか、とっても不安だったのですが、先輩のアドバイス通りに目の前のお客様を喜ばせる仕事をしてみようと思いました。広告を売るために必死に説明するのではなく、競合店の調査をして、女性視点で若い女性が好む情報をまとめて届けることにしたんです。お客様は忙しいだろうから、かわりに私がしてあげればきっと喜んでくれるだろうという気持ちでした。
すると、それまでは全然相手にしてくれなかったお客様から突然電話がかかってきて、一度話を聞かせてほしいと言われたのです。結果、そこから契約につながり、さらにその広告によってお店の売り上げが上がり、新規のお客様が増えました。そこで初めて「ありがとう」と言われたのです。「君とのご縁がなかったら、うちの店はこんなふうにならなかった」と感謝された時に、先輩が言っていたのはこういうことなのかと思いました。「売る」を捨てて「役に立つ」に特化したことで、営業職の素晴らしさに気付くことができたのです。
私が「営業部女子課」を立ち上げたのは2009年のこと。独立し、いろいろな企業の人材育成や営業支援に関わらせてもらう中で、女性の営業職はなんて少ないんだろうと思うようになりました。当時多くの企業では、女性営業比率が10パーセントにも満たないほどでした。
同じ女性営業として彼女たちの話を聞くと、皆さんが決まって言うのは「営業の仕事は楽しいしやりがいがある。けれどいつか辞めようと思っています」ということでした。今の働き方は続けられないと、ほとんどの方が言うのです。驚いたのと同時に、大きな衝撃を受けました。
いろいろな会社にヒアリングしてわかったことは、長い間、営業の世界は男性の手によって築かれてきたということ。長時間労働、休みがとれない、お客様は神様だ・・・営業出身者として否定はしませんが、こうした根性論ばかりが渦巻く環境では、いくら仕事が好きでも、女性が営業職を続けられるわけがないんです。これを何とかしたいなと思いました。
会社を一社一社変えていくのには時間がかかりすぎます。それならば、会社を超えた営業女子たちのネットワーキングを作ろうと考えました。そうして「営業部女子課」が生まれたというわけです。
テーマ2地域をつなぐ交流の場として日本全国に広がる「営業部女子課」
最初は5名くらいの営業女子を集めて、「今どんな悩みがある?」「どうしたら解決できそう?」みたいな話をするところからスタートしました。
参加してくれた方のほとんどが会社で唯一の女性営業だったり、20代後半なのに社内で最年長の営業だったりという方ばかり。ですから、働きながら将来のキャリアが描けないことや、体力勝負・根性論ではない成果の出し方について、皆さん一人で悩んでいたんです。
仕事の成果や内容そのものは性別関係なく社内でシェアできます。しかし、特に女性特有の話、たとえばキャリアやライフイベント、体調面やメンタルのコントロールなどの悩みを、誰か同じ立場の人たちと分かち合える場がないことに、彼女たちはモヤモヤしていたんです。「ほかの人ってどうしているんだろう」と悩んでいる人たちが集まり始めると、「営業部女子課」は口コミで一気に広まりました。
現在の営業女子登録数は3,400人を超えています。業界も会社の規模も様々。同じ仕事であっても立場が違う人との意見交換を通じ、新たな視野を広げたいと多くの方が集まってくれています。中には、交流を通じて得たほかの会社のエッセンスを自社に持ち帰り、そこで新しい制度を作ってしまったというような事例も出始めています。
2012年には、「東京と大阪だけでなく地方にも場を作ってほしい」という声から、まず徳島に支局を立ち上げました。以来、現在までに全国28都道府県で、地方独自の活動の一つとして「花咲かプロジェクト47」を展開しています。
営業女子がスキルアップ・キャリアアップできるような勉強の場としてだけでなく、地方の魅力発信のために意見交換のできる交流の場として、いくつもの事例が生まれています。もちろん、転勤により地方で働くことになった人や、Iターン移住者たちのコミュニティにもなっているんです。
私自身も地方に足を運ぶ機会は増えています。地方で働く営業女子たちとの触れ合いの中で感じる地方の魅力は、「人間味のあるところ」ではないでしょうか。東京にいるとどうしてもシステマチックになりがちな部分でも、人と人の繋がりを重視する地方では、否応なしにいろいろな人と関わりながら仕事を進めていくことが多くなります。やりとりの一つ一つにも「人間くささ」があるように感じますね。
ワークライフバランスについては、地方のほうが理解があるように感じます。実際に聞いた話では、仕事の合間に保育園に子供を迎えに行き、子供を連れて会社に戻って仕事をするという事例もあるそうです。会社や地域のみんなで子供を育てるような、家族っぽさがあるんですよね。地方には「祭りの文化」があるので、みんなでやろう・助け合おうという意識がより強いのかもしれません。
地方の魅力は、ずっとそこに住んでいる人には意外とわかりにくいものです。だからこそ、「花咲かプロジェクト47」で生まれるような交流をきっかけに、地域の魅力を再確認したり、お互いの文化をうまく融合させたりすることができたら、とてもいいなと思っています。
テーマ3目指すのは営業女子100万人!チャレンジできる人を増やしたい
日本政府が主催する国際女性会議「WAW!」をご存じでしょうか。これは女性の活躍を国内外に発信するための国際シンポジウムで、先日の11月初旬で4回目の開催となりました。私はそこにアドバイザーならびに当日の登壇者として参画し、国内外の皆さんと議論させてもらっています。
企業においてもダイバーシティの意識が高まり、特に女性の活躍に期待するシーンは日々増えています。多くの女性が少しでも長く、より能力が発揮できる環境で働けるよう、企業も取り組みを進め始めました。
とはいえ、女性自身の意識改革が進んでも、周囲の理解や支援、特に男性自身の働き方に対する意識改革も同時に進めていかなくては、ただ女性の負荷だけが増えることになってしまいます。
女性活躍推進法の施行により、企業は女性の活躍に関する行動計画を書面で提出することが義務付けられるようになりました。しかし進捗が企業ごとにバラバラだったり、罰則規定もありませんから、企業としては達成しやすい目標を置くことに意識が向きがちになっている部分は否めません。
こうした様々な課題の解決に向け、企業の経営者に対して啓蒙活動などを行っていくことも、我々の仕事だと考えて取り組んでいます。
「営業部女子課」が掲げるスローガンは、「営業女子100万人で輝く社会を!」です。この夢の実現のために、これからも営業職にチャレンジする女子を増やしたいと思っています。
対人コミュニケーションスキルだったり、交渉力だったり、巻き込み力だったり、営業の仕事を通じて得られるスキルのほとんどは、純粋に営業じゃない人にも役立つものばかりです。仕事に限らず、あらゆる場面のコミュニケーションで使えるスキルだからこそ、特に人間くさい付き合いがともなう地方においては、生活するうえで大きな武器になるはずです。
もし、何かちょっとでも心に引っかかることがあったら、どんなことでも臆せずにチャレンジしてほしいと思います。ほんの些細なことがきっかけで、人は新しい道に進んでいくことができます。これは私自身のモットーでもあるのですが、「とりあえずやってみてダメなら次を考えればいい」と思いますね。しかも皆さんには「若さの特権」があるではないですか。
もし失敗したとしても、その経験は間違いなく財産になります。私も未だに間違えてしまうことは多いんです。だけど、間違うことで「ああ、正しいのはこっちじゃなくてあっちだったんだな」と気付くことができるんですよ。
~お知らせ~
2017年11月23日(木・祝)には、全国の営業女子が集結する「秋フェス2017」を開催。ゲスト講師をお招きし、「商談で実践しているコミュニケーション術」や「営業女子のための働き方改革」などについてのセミナーや情報交換を行います。