第4回「LOCAL×はたらく」を考える
2001年から2004年にかけて、山梨県のリゾナーレ、福島県のアルツ磐梯、北海道のトマムリゾートの再建に取り組む一方、星野温泉旅館を改築し、2005年「星のや軽井沢」を開業。
現在、運営拠点は、ラグジュアリーラインの「星のや」、小規模高級温泉旅館の「界」、西洋型リゾートの「リゾナーレ」の3ブランドを中心に国内外35カ所に及ぶ。2013年には、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託(リート)を立ち上げ、星野リゾート・リートとして東京証券取引所に上場させた。
2015年、星野リゾートは創業101周年を迎えた。2016年に「星のやバリ」「星のや東京」の開業を予定。
テーマ1活躍できる範囲が広い方が、早く成長できる
星野リゾートでは、現在35のリゾートや旅館を運営しているのですが、私たちの職場は基本的にすべて地方にあります。1991年に社長に就任して以来、地方で働きたい方をずっと探してきましたから、私自身がずっと「LO活人生」を送ってきたみたいなものですね(笑)
私がいつも就職にとって大事だと考えているのは、成長する会社に入ることではなく、「自分が成長できる会社に入る」ということ。重視すべき軸は「会社の競争力」よりも「自分の競争力」です。その点、地方の会社の最大のメリットは競争相手が少ないことでしょう。それは活躍できる範囲が広いということでもあります。20代の最初の5年、10年という時間を考えた時に、同じ力を持っていたとしたら、地方の方がその力を使える場面は多く、できることが圧倒的に増える機会が多くなると考えます。たとえば東京で10年、20年かかり、やっと任せてもらえる仕事が、地方だと3年とか5年で「やってみますか」となるわけですね。やれることの範囲が広い方が成長につながるわけで、そういう環境を与えてくれるのが地方なんじゃないかと思っています。
もちろん、うちの社員にも最初は地方に行くことに抵抗感を持つ人はいます。でも、いざ地方に行って1年くらい生活すると、「ここから離れたくない」とみんな言うのです。不思議なものですが、「住めば都」というわけですね。地方という場所は自分の活躍できる範囲を広く持てるだけでなく、周りの人とネットワークをつくりやすい。一度構築された関係性は強いものがあるため、圧倒的な満足につながるのでしょうね。
テーマ2地域の方々と触れ合える仕事を選んでほしい
地方で仕事を探そうと思った時には、できるだけ地域の方々と触れ合える仕事がいいと思います。旅館やリゾートはまさにそういう仕事ですから、社員たちは本当に楽しんで働いているようです。
旅館という仕事は、その土地の生産者とつながることが大切です。食材を提供してくれる農家や漁師の方、地元の工芸品を作る人など、地域の方々と連携することで新しく仕事を作っていく必要があります。彼らと関係性を築くために、たとえば仕事を手伝いに行ったりすることもありますし、必要な野菜をゼロから作るために一緒に休耕地を耕すことだってあります。その結果、たくさんのお客さまが私たちの施設に来て、地域でお金を使ってくれると地域の方々にも還元できる。観光が地域経済に貢献しているのを実感できることが、この仕事の面白いところなのです。
また、雇用を生み出すという意味で地域に貢献もしていますが、ボランティアでやっているわけではありません。雇用はただ単純に増やせばいいというものではありません。観光産業の仕事はたくさんありますが、そのうちの75%が非正規雇用社員です。その現状をこのまま放置すると、観光産業は本当の意味で競争力が持てなくなると危惧しています。ですから、私たちは正規雇用社員を増やしたい。その方が働く人は能力を高める機会を得ることができ、結果として会社の成長にもつながります。
テーマ320代こそ「自分を伸ばせる環境」に身を置いてほしい
これから就職活動を進める学生の皆さまにお伝えしたいのは、「10年後の会社の成長はわからないけれど、10年後の自分の成長は確実にものにしないといけない」ということ。将来を考えた時に、自分の能力の向上、成長できるかどうかが最終的に重要になってくると思います。20代という成長カーブが大きい時期にこそ、どういう環境に身を置くかは重要な選択だと思いますね。これからの時代、頼れるのは自分の能力だけなのですから。
できれば、学生時代にもっと地方を訪れたり、住んでみたりできたらいいですよね。例えば「地方留学」。大学間で単位を交換できるようになるといいと思いませんか? 東京の大学に通いながら、教わりたい先生がいる地方の大学に1年間留学するといったことができれば、地方で暮らすいい機会になります。一度でも住んでネットワークができた場所なら「卒業後はそこで就職しよう」となりやすいと思います。また、そういった仕組みは大学側のアピールにもつながるはずです。地方を盛り上げていくには、そうした大学制度の改革が今後不可欠になると思っています。
(掲載日:2016年1月14日)