第19回 福岡はなぜクリエーター移住者が多いのか「福岡クリエイティブキャンプ」
最初の配属は区役所。地域振興、地元の方と地域の魅力を発信するイベントなどを担った。
2カ所目は保健福祉局・地域包括ケア推進課。高齢者の健康づくり、介護予防などに従事。
そして2015年から福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部 企業誘致課に勤務。
FCCを含めたプロジェクトに関わっている。
テーマ1福岡クリエイティブキャンプとは
主に首都圏で活躍しているIT、デジタルコンテンツなどのクリエイティブ企業での開発経験者を対象に、福岡市の企業へのU・I・Jターン転職を支援する、2014年から始まった事業が「福岡クリエイティブキャンプ」(以下FCC)です。
もともと、福岡市は1990年代から情報通信産業の集積・振興に注力してきました。なぜかというと、全国の政令指定都市としては唯一、大きな川(一級河川)がなく工場立地が少ないからです。
企業誘致は、街の活性に向けて大きな雇用を生むことを期待して行います。大きな雇用といえば、よく挙げられるのは製造業の工場誘致ですが、工場はたくさんの水を必要とします。市内に大きな川がない福岡市は水の安定供給という点で弱く、ほかで強みを作って行こうと、今後の成長が期待できる情報通信産業の振興に注力したのです。それが現在のITやデジタルコンテンツなどクリエイティブ産業の集積につながっています。
市長をはじめとするPR活動の甲斐あって、徐々に企業に来てもらえるようになりました。次に課題にあがったのは、優秀な人材の確保でした。そこで始めたのがFCCです。福岡市は教育機関も充実していて、若い人材は豊富だと思われがちですが、実際はまだまだ流出の方が多いのが現状です。若い人材や、すぐにでも活躍できる経験者人材を確保することがFCCの狙いです。
FCCでは、福岡での就業に興味がある全国の人に対して採用に積極的な市内優良企業を紹介しています。3週間福岡市内で暮らすことを支援する「お試し移住」や首都圏で福岡市の魅力を伝えるイベントなどを開催し、福岡市に興味を持ってもらうことと、気軽に一度足を運んでもらうきっかけを作っています。
成果も出てきています。まず参加企業数ですが、2014年度が36社だったのに対して、2017年度は85社。参加企業はすべて、福岡市内に拠点を持つクリエイティブ企業です。確実にFCCの取り組みは福岡市内の企業に浸透しており、それはつまり、優良企業を皆さんにご紹介するチャンスが広がっているといえると思います。
またFCCを利用した転職・移住者も年間2~30名ほどコンスタントに出ていますので、この成果のサイクルをより大きくしていくのが、今後の目標です。
テーマ2どんな人が移住しているの?
最近の特長として、Iターンの方が増えていることが挙げられます。2017年度はFCCを利用して24人が転職・移住されましたが、20人ほどがIターンでした。FCCを始めた当初はUターンや九州出身者のJターンが多かったのですが、それだけ福岡市が魅力あると認められたということだと思うので、嬉しい誤算です。
日本全体でも移住に関する関心が高まっていますし、特にクリエイティブ職の方はリモートワークで就業しやすい環境にある人も多いので、ハードルが比較的低いのだと思います。また、福岡市に「働きたい会社が集まっているから」という理由も確実にあると思います。
FCCの登録者属性を年齢で見ると30代前半の方が多いです。ターゲットが「経験者」人材なので、首都圏で経験を積んだ方が中心ですね。男女比で見ると男性が多いです。家族連れで移住される方もいらっしゃって、そういった方は2~3年越しで考えてから実行に移されています。中には夫婦二人ともFCCを通して転職したという方もいらっしゃいますよ。
一般的に移住と聞くとスローライフ的な未来をイメージされやすいが、FCCに登録している人は真逆で、仕事も暮らしもどちらもあきらめたくない、前向きなエネルギッシュな方が多いと感じています。
福岡市は東京への定期便が多く、また空港へのアクセスも地下鉄で中心街からすぐと抜群です。そういった、首都圏へのアクセスのしやすさも、福岡市のいいところだと思います。実際に、福岡市の企業の方は毎週のように東京に出張に行かれる方も多いです。でも、やはり住む、つくるのは福岡。営業は東京でして、つくるのは福岡でする。そんな選択をされている方も多いようです。
テーマ3クリエイティブキャンプが地域・移住者に与えているものとは?
一言でいうと、「あきらめなくていい生活」です。生活も、仕事もどちらもあきらめなくていいのが福岡市移住のいいところです。
福岡市はコンパクトな街なので通勤時間が減ります。通勤時間が減ったことで、自分の時間が増え、結果家族や子どもとの時間ができます。笑い話として「体重も増える」という人がいますが、それはすなはち食べ物がおいしく、食への満足度が高いということです。
また、企業にもよりますが、首都圏に比べると社員数が少ない分、任される仕事が多く、それにより大きな裁量権を持って仕事ができるので、やりがいにつながる人も多いようです。
首都圏で働いていると、例えば「満員電車は仕方がない」とか「マイホームを持つなら夜の飲み会は行きにくくなる」とか「同輩や先輩も多いので下積み期間が長くなる」とか「土日に気軽に海や山にいくことはできない」など、何かを優先すれば何かを諦めざるを得ない、という構造になることが多いように思うのですが、福岡市に限らず、移住先をきちんと見極めればすべてが手に入ります。これを移住してきた皆さんは「あきらめなくていい生活を手に入れた」と表現されているようです。
あきらめなくていい生活をより充実させるためには、移住してきた方へのアフターフォローも大切だと思っています。去年はFCCを通じて移住した方の同窓会を開催していました。実際に移住者の方のアンケートを見ていても、個人へのフォロー・サポートが手厚い事を喜んでくださっているようです。特にIターンの方は福岡市について何もご存じないことが多いので、相談できる相手がいることは心強いのだと思います。
2017年4月には、大名小学校という、都心部の廃校になった小学校をスタートアップ企業の支援拠点として、またイベントスペースとして活用し始めました。この場所を、福岡市で働くみなさんにとってのサードプレースとして使ってほしいなと思っています。
職場、家の往復だけの暮らしだとどうして閉塞感が出てしまいますし、まして移住者においては地域コミュニティが最初はありません。そのストレスを打破する第三の場所として、友達を作ったり、勉強をしたり、新しい出会いを演出する場所になればいいなと思っています。
今年度は、より多くの福岡市への移住者を受け入れるためのプラットホームづくりに力を入れ「福岡市公式求人検索アプリbyスタンバイ」というアプリをつくりました。アプリ上で福岡の企業を探して応募ができたり、逆に福岡の企業からスカウトが来ることもあります。要は福岡市内の企業に特化した求人サイトだと言えます。今後は「福岡市で働きたいなら”福岡市公式 求人検索アプリbyスタンバイ”」というブランディングもしっかりしていきたいと思います。
私がFCCの担当ですので、話が福岡市の話題ばかりになりましたが、ほかの市も移住促進に向けて様々な取り組みをされています。移住で暮らしが豊かになることは、私もいく例も目にしてきました。ひとりでも多くの方に、移住の可能性を検討してもらえたらと思います。