レポート

現役大学生のローカルインターンシップに密着vol.6【ふたば】

福島県沿岸部の町づくりに挑戦する、インターンシップに密着

首都圏の大学に通う現役大学生が、地方企業のインターンシップに参加したら、その意識はどう変わるのだろう?
今回取材したのは、東日本大震災と原発事故による多重災害を乗り越え、新たな町づくりを進める福島県富岡町の「株式会社ふたば」(以下、ふたば)で開催された14日間のインターンシップに参加する小林優那(こばやし ゆうな)さん。
「災害を乗り越えた場所で、どのように町づくりが行われているのか知りたい。自分にできることを探りたい」と意気込む小林さんのインターンシップの様子を密着取材してきました!

取材対象

・実施場所:福島県双葉郡富岡町
・受け入れ企業:株式会社ふたば
・事業内容:社会インフラ整備の測量・設計、地域デザイン、海外コンサルティングなど
・実施期間:2025年8月26日~9月8日(取材は8月28日、9月4日)
・参加者:小林優那さん 女子美術大学/芸術学部 アート・デザイン表現学科クリエイティブ・プロデュース表現領域 学部2年生

(プロフィール)

長野県上田市出身。
3歳から習っているヒップホップダンスや、高校から始めたバンド活動などを通してチームで活動することの面白さを知り、現在は、女子美術大学でアーティストと地域をつなぐ「プロデュース」の勉強に取り組んでいる。
その学びをより深めるために本インターンシップに参加。将来的には「感動体験」を届ける空間やイベント等の設計・企画を行う仕事に従事したいと考える。

取材1日目(8月28日)

 

ふるさとである富岡町に、できることを。
そんな思いを起点として、社会インフラ整備の測量・設計を基盤に、地域デザインや海外コンサルティングまで手がける株式会社ふたば。
2016年に富岡町でワイン用ブドウの試験栽培をスタートし、現在は「とみおかワイナリー」という関連会社を立ち上げ、富岡町でのワインづくりやレストラン・ショップの運営を行っています。
駅を降りると、広がるのは、とみおかワイナリーが管理するブドウ畑。
新しい景色が作り出されつつある町の中で、小林さんのインターンは始まりました。

 

▲公園の奥には、福島第二原子力発電所が見える。
 
 
 

◆9時

取材に伺ったのは、町全体でのオリエンテーションを終え、本格的にふたばでのインターンプログラムが始まった初日。小林さんを含めたインターン生はまず代表取締役社長・遠藤秀文さんの講話に耳を傾けます。

▲遠藤社長は「ちょうど皆さんと同じ20歳頃、私はどんな人生を歩もうかと悩んでいました。
熟考の末、35歳で地元に戻ってくると決めて都内の企業に勤めたんです」と自身のキャリアを振り返る。

 

「今、私たちがいる場所は東日本大震災によって、地震・津波・原発事故の多重災害を経験した場所です」。
遠藤社長はそう切り出すと、震災当時の町の様子やその後の町の歩みについて話します。

一度は全住民が避難し、誰もいなくなった町。ふたばは避難指示が解除された2017年に本社を避難先の郡山市から富岡町に戻し、復興活動を本格化しました。
これまで事業を展開してきた測量やまちづくり計画の策定だけではなく、自らまちづくりの実践の場として「とみおかワイナリー」の運営を始め、その取り組みを通じて移住者も生まれるようになりました。

▲レストランとショップが併設された「とみおかワイナリー」(右)。
津波被害を乗り越えた蔵(左)は「希望の蔵」と名付け、建物内でワイナリーが出来上がるまでのドキュメントムービーを上映。

 

遠藤社長はこう語ります。「こんな災害は世界中の誰もが経験したことがありません。
復旧・復興は本当に難しくて大変ですが、その分、私たちの一歩一歩が未来の教科書の一行になっていくかもしれないのです。
この地域だけではなく、日本、さらには世界のどこかで未曽有の災害が起きたときに何かしらの道標にしていただくためにも、富岡町に山積した課題を一つ一つ紐解いていく。そこに使命とやりがいを感じています」。

話を聞いた小林さんは、「ご自宅が津波で流されてしまったり、ブドウ畑を始めてもすぐには実がならなかったり。
たくさんの困難な壁に直面しながらも勇気を持って一歩踏み出し、大変ささえ楽しむように課題を解決していく姿がすごく印象的でした」と言いました。

 

◆13時

昼食を終えて向かったのは、とみおかワイナリーが管理する圃場。
収穫が近づき糖度が上がったブドウは特に鳥獣被害に遭いやすく、圃場では毎年対策のためのネット掛けを手作業で行っています。

▲移住者であり、圃場スタッフの土田 竜さんからレクチャーを受け、作業を行う小林さん

 

この日の最高気温は35度。
厳しい環境での作業でしたが、小林さんは「とても幸せな汗をかいたなと思います。こうしてブドウの成長を支える農作業に関わることで、先ほどの遠藤社長の話もさらに深く理解できる気がしました」と笑顔で話します。

▲ブドウは一度植えると、100年は実を付け続ける。その特性を知った遠藤社長は、富岡町に永く恵みをもたらしてほしいという思いからワインづくりを始めた。
小林さんがお世話をしたブドウは、2026年の春以降にワインとして楽しめるようになる。

 

ブドウ畑で作業していると、約一時間に一度電車が通る。
その一瞬に感じられる富岡町の姿も印象に残ったと小林さんは言います。
「ブドウ畑で作業する人たちは皆電車が通るたびに手を止め、電車に向かって手を振るんです。すると運転手は警笛を鳴らしてくれたり、乗客の人たちも手を振り返したりしてくれるんですね。このやりとりがなんだかあったかくて。こうして町の景色を作ってきたんだと感じる瞬間でもありました」。


◆17時

それぞれの体験を終えたインターン仲間と合流。
講演と体験から得た気づきを日報にしたため、一日は終了です。

取材2日目(9月4日)

◆9時

この日は、ふたばの取り組みをじっくり学び、最終発表への準備を行います。
まちづくり事業のレクチャーを受けた小林さんとインターン仲間は、富岡町の各所にフィールド視察へ出かけました。

 

視察を行ったのは、富岡駅やとみおかワイナリーの圃場、富岡漁港跡、JR夜ノ森駅。
震災後14年が経っていながら復旧・復興が遅れる町の様子を肌で感じます。

 

▲JR夜ノ森駅前・町の成り立ちを書いた記念碑前にて。
 

「この町に来て一週間以上が経つのですが、今日が最も強く地域の課題を感じました。
これから約5日間をかけて、インターン中に学んだことや課題解決策をまとめ発表していくのでそこに活かしていきたいです」と、真剣な眼差しで小林さんは振り返ります。

▲道中では、海が見える「絶景ブランコ」も楽しみました。
 

◆10時30分

フィールドワークを終え、ふたば本社に戻って行ったのは発表に向けた思考の整理です。
付箋を使い感じたことや課題を言葉にして貼っていき、インターン生同士で意見交換をします。

 

一時間ほどのグループワークを終える頃にふたばの職員が合流。
フィールドワークやこれまでの滞在の中で感じた町の課題を発表する時間になりました。

 

小林さんは発表の中で、JR夜ノ森駅を訪ねた際に感じた「空き家の多さ」について言及。
「国が実施する家屋の解体期限が終了し、その後も帰ることができなかったり家主が亡くなってしまったりしたことで空き家になってしまったものもあると聞きました。
それらの空き家をうまく活用することで、移住希望者や若者がふらっと立ち寄れる場所を作れないかという提案を考えています」。

すると、ふたばのスタッフからは、「確かに、富岡町で若者が滞在できる場所はないので、ぜひより深く課題と向き合いながら提案を考えてみてほしい」というフィードバックがありました。

 

◆13時

午後は、ふたばで行われている事業を理解するためのセッション。

 

VRによる空間設計と合意形成のプロセス、精密な測量がかなえる森林管理や遺跡発見、そして海外案件──マチュピチュプロジェクトの話題まで。
ふたばがさまざまな角度から町を支える産業を生み出している現状を知りました。

 

▲図面や数値では伝わりにくい完成後の空間を、
VRを通して疑似体験しながら住民や関係者の意見を集める。その空間づくりを体験する小林さん
 

◆17時

一日の終わりは、ふたばスタッフを交えた座談会。
インターン生それぞれが感じる町に対する課題感について、実際に富岡町に住むスタッフと意見を交わしていきます。

「若者にとって休日に楽しめる場所がないというのは、やはり一つの大きな課題かもしれないと再認識しました。
そういう場を作れないか?という方向で提案を考えてみたいです」と小林さん。
これから最終発表に向けて準備を進めていきます。

インターンシップを振り返って

最後に、インターンシップを振り返った感想を小林さんに伺いました。

「もともと私は都内での就職を考えていたのですが、今回のインターンを通して、地方都市に住みその土地の過去や現在を知りながら、新たなアイデアを出してより良いものを作っていくという営みも、大きなやりがいのあることなんだと強く思いました。

それから、ボランティアで来られている方のお話を聞く機会があったのですが、その方が、富岡町を“可能性が溢れた町”と表現されたのも印象的でした。
確かに都会と比べると足りないものがあるはずなのに、富岡町の皆さんはのびのびと居心地が良さそうなんです。
短い滞在の中ではありましたが、とても愛着が湧きましたし、いつかまたこの地を訪ねて力になれることがあればと思っています」。

多くの人に出会い話を聞く中で、「町をつくること」を考えることになった小林さんのインターンシップ。
皆さんも興味のある分野・地域を選んで、ぜひ飛び込んでみてください。

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