レポート

山形県へ1泊2日のオーダーメイド型お試し移住体験記
(25年度お試し移住最新情報付き)

「ちょっと、住んでみる」から始まる、地方就活
〜現役大学生が“無料”で体験!「お試し移住」のリアル〜

地方にひかれつつも、仕事探しや生活インフラ、地域コミュニティへの溶け込みといった不安から一歩を踏み出せない人は多いものです。『2024年度版 首都圏白書』によれば、東京圏在住の20代の44.8%が地方移住に関心を示していますが、具体的な仕事や収入、暮らしのイメージが描けず行動に移せないケースが目立ちます。

そこで頼れるのが自治体の「お試し移住」制度。交通費・宿泊費のサポートを受けながら、短期間で「仕事・住まい・地域」といった日常を丸ごと体験できる仕組みです。

今回は、東京都内の大学に通う伊藤未桜さんが山形市の「オーダーメイド型移住体験ツアー」に参加し、地方で“暮らすように働く”リアルをレポートします。

(体験者)伊藤未桜さん<br />
神奈川県出身。東京都内の大学に在学中の現役大学生。首都圏にとどまらず地方に目を向け、過疎化や食料自給率の低下といった社会課題に関心を抱いている。これまでは交通費や宿泊費の負担が課題だったが、「オーダーメイド型お試し移住」ツアーを知り、費用面のハードルを抑えながら現地での暮らしを体験できる点に魅力を感じて参加。 (体験者)伊藤未桜さん
神奈川県出身。東京都内の大学に在学中の現役大学生。首都圏にとどまらず地方に目を向け、過疎化や食料自給率の低下といった社会課題に関心を抱いている。これまでは交通費や宿泊費の負担が課題だったが、「オーダーメイド型お試し移住」ツアーを知り、費用面のハードルを抑えながら現地での暮らしを体験できる点に魅力を感じて参加。

(案内人)山形市役所・企画調整課移住促進係 下里文宏さん<br />
2022年に神奈川県から山形市へ移住した自身の経験を生かした解説が持ち味。事前にオンラインでヒアリングを行い、利用者の興味や不安をくみ取ったうえで、行程を練り上げている。(2024年10月取材当時)<br />
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(案内人)山形市役所・企画調整課移住促進係 下里文宏さん
2022年に神奈川県から山形市へ移住した自身の経験を生かした解説が持ち味。事前にオンラインでヒアリングを行い、利用者の興味や不安をくみ取ったうえで、行程を練り上げている。(2024年10月取材当時)

お試し移住には複数の種類がある

お試し移住には、日帰りツアーから1カ月ほど家族と一軒家に滞在できるプランまで複数の選択肢があります。ただし、補助の範囲や対象条件は自治体によって異なるため、事前の確認が欠かせません。

※1 移住体験ツアー「みや暮らし体験」(宇都宮市)
※2 山形市オーダーメイド型移住体験ツアー(山形市)
※3 福岡くらしごと体験(福岡県)
※4 山形村お試し住宅(長野県)

 

伊藤さんは今回、オーダーメイド型プランを選択しました。出発前には「現地で何を確かめたいか」をしっかりヒアリングしてもらい、滞在時のテーマを絞り込みます。こうすることで、数日間の滞在でも得られる情報量が格段にアップする仕組みになっています。

就活中の伊藤さんは、特に「働く環境」を深く知りたいとの希望があり、2日目には実際に農作業を体験する就農体験や、先輩移住者へのインタビューを組み込んでもらいました。

 

 

山形市はお試し移住の成功事例

伊藤さんが参加する「山形市オーダーメイド型移住体験ツアー」は、交通費と宿泊費を自治体が全額負担するため経済的負担が軽く参加できます。2022年8月の開始以降、87組173名が利用し、そのうち約3割が実際の移住につながっており、成功事例と呼べる実績です。

では、このツアーでどのような体験ができるのか、見ていきましょう。

 

【伊藤さんのツアースケジュール】

(1日目)東京駅→山形駅集合→西蔵王公園にて山形市内住宅分布説明→市内見学(歳王温泉、学校、病院、児童施設など)→ホテルメトロポリタン山形宿泊

(2日目)就農体験(地元野菜「山形セルリー」収穫)→温泉施設入浴体験→先輩移住者訪問→直売所視察→山形駅→東京駅

取材1日目(10月30日)11時45分

新幹線で東京駅を出発し、2時間45分ほどで山形駅に到着です。出迎えてくれたのは案内人の下里さん。約1カ月前からメール等でやり取りをしていたため、「はじめまして」というより、どこか打ち解けた雰囲気があります。荷物をさっとトランクに収め、身軽なまま最初の目的地へ。駅前でピックアップしてもらえるおかげで、初日の移動によるストレスをほとんど感じることなくツアーをスタートできました。

 

12時30分 展望台 西蔵王公園

最初に訪れたのは、山形駅から車で約20分の高台に位置する「西蔵王公園展望広場」。市街地を一望できるこの広場で下里さんは地図を広げ「中央に広がる緑が、霞城公園」「東側に連なる校舎群が山形大学」など指差しながら住宅地と主要生活圏との距離感を解説してくれました。紙の地図と目前の景色を照合するうちに、街のスケール感や通勤ルートが立体的に浮かび上がります。初日に全体像を掴めたことで、その後の行程が格段に分かりやすくなりました。

 

13時 蔵王温泉視察

展望広場で市街地を俯瞰した後、車で約15分(約10km)移動して開湯1900年の蔵王温泉を視察。

強酸性の硫黄泉は美肌効果や血行促進効果が期待されています。別名“美人の湯”と聞いた伊藤さん。どれどれ…と手を伸ばします。しかし、この時の最高湯温は44.7度。「アッツ!!」とのけぞってしまいました。

実は、伊藤さんをここに連れてきた狙いがありました。山形市は「温泉が日常にある生活」を掲げており、旅館・共同浴場・日帰り温泉等およそ25施設が点在します。市民は仕事帰りや週末に銭湯感覚で温泉を利用するんだとか。生活圏と温泉が地続きの文化を肌で感じることができたのは収穫でした。入浴体験は、明日のお楽しみ、とのことで次なるスポットへ。

 

13時30 車内でヒアリング

山形市内をぐるりと巡りながら、山形市の気候の話題になりました。
下里さんは「山形は豪雪のイメージがありますが、市内は意外と雪が積もりにくいんですよ」と説明します。

(※写真は資料です「山形市の冬景色」) (※写真は資料です「山形市の冬景色」)

周囲の2,000メートル級の山々が雪雲を受け止めるため、市街地では大雪になりにくいそうです。真冬でも生活にほとんど支障がありません。「山形市内は想像以上にひらけていて、自然と都市機能がうまく共存していることが分かりました」と伊藤さん。

 

14 児童遊戯施設を視察

(画像提供:コパル) (画像提供:コパル)

「子育て環境についても知りたい」とのことで訪れたのは、2022年に開館した児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」。自然とアートが共存する“屋内の公園”です。

(画像提供:コパル) (画像提供:コパル)

館内には緩やかな丘のような傾斜やネット遊具が設置され、雨や雪の日でも子どもたちが思い切り駆け回れます。

館長の色部さんにお話を聞きます。「働き世代が安心して子育てできる環境を整えたい」という色部館長の思いに興味深く耳を傾ける伊藤さん。山形市の子育て環境も気になります「山形市では0歳から18歳までの医療費(外来・入院)が全面無償で、所得制限もありません。さらに県全体で待機児童ゼロを5年連続で達成しています」とのこと。子育てという観点でも、暮らしやすい街であることが分かりました。

 

17 ホテル到着

その後、市内の教育機関や、病院施設、歴史的建造物等ぐるりと巡り、宿泊先の「ホテルメトロポリタン山形」に到着。明日はお待ちかねの就農体験。早めに就寝します。

 

2日目(10月31日)9時 就農体験スタート

2日目の朝は、山形市自慢のブランド野菜「山形セルリー」の収穫体験からスタート。指導役の會田さんは「うちの子と同世代だね」と伊藤さんを温かく迎え、鎌の入れ方から袋詰め、発送準備までを丁寧に手ほどき。

 

【山形セルリー】

セロリは英語で「celery」と表記し、これをフランス語のなまりで発音した「セルリー」が名前の由来となっている。甘みとシャキシャキとした食感が特徴。種子をメーカーから購入するのが主流となった現代でも、山形では生産者が手間を惜しまず、自家採種にこだわっている。

朝露をまとったセルリーはえぐみが少なく甘みが際立ち、伊藤さんもポリポリとかじりながら「食感が良いですね」と食レポ。

陸上部で体力には自信がある伊藤さん。およそ2時間の作業で汗ばむほどでしたが、人の温かさや採れたて野菜に触れ「農業を身近に感じたし、夢中であっという間でした」と新たな可能性を感じた様子でした。

 

11時 近隣の温泉施設へ

就農体験を終え労働の汗を流すべく立ち寄ったのは、山形市総合福祉センター1階にある市営浴場「かすみが温泉」。

入浴料は大人200円と東京の半額以下!山形駅西口から徒歩10分という好立地に「地方ならではの贅沢ですよね」と羨ましがる伊藤さん。

 

12 山形名物に舌鼓

さっぱりと整ったあと、下里さんが「おすすめのランチがある」と案内してくれたのは、そば処「山形一寸亭(やまがた ちょっとてい)」。

山形名物の「冷たい肉そば」をすすりつつ、下里さん絶賛の「天かすご飯」こと「ミニ卵丼」を一口。「この組み合わせは罪」と言いつつ、あっという間に平らげました。

 

14 先輩移住者にインタビュー

インタビューに答えてくれたのは、増川くだもの園の5代目増川愛理さん。採れたてのラフランスをお土産に持ってきてくれました。

増川さんはかつて霞ヶ関で国家公務員として働いていましたが、Uターンして家業を継承。一度外に出たからこそ「山形では地域の人々と密に関わる機会が多く、愛おしく感じられる」「誰でも差別なく身内のように受け入れてくれる土壌がある」と語ります。

将来の選択肢に悩む伊藤さんに「思い悩まず、行きたい時に行きたい場所へ行けばいい」「都市と地方の両視点を持つ人が増えれば、東京一極集中の歪みも解消できるはずだから」とアドバイス。ほかにも聞きたいことがたくさんあってインタビューは1時間にも及び、山形の温かなコミュニティと、増川さんの率直な思いが深く胸に残る対話となりました。

 

1530 直売店で売り子に

いよいよ、この旅も終盤。伊藤さんが収穫したセルリーがどう店頭に並び、消費者に届くのかを確かめようと、地元の直売所へ足を運びました。

はじめはセルリー売り場から少し離れた場所で様子をうかがっていたものの、目の前で来店客が1束手に取った瞬間、スッと近寄り“即席の売り子”に早変わり。
「どうやって食べるんですか?」という問いには、「生でも炒めてもおいしいんですよ」と生産者の會田さん直伝の食べ方を紹介し、その場で2束の購入につなげました。わずか2時間の収穫体験でセルリーに強い愛着が芽生え、普段は控えめな性格にもかかわらず、自然と行動できた自分に本人が一番驚いていたようです。

 

 

16時30分 お試し移住を体験していかがでしたか?

(伊藤さん)1泊2日でもその土地で「暮らすように働く」感覚をリアルに味わえました。費用面の不安がほとんどなかったので、思い切って体験ツアーに参加することができました。見渡す限りの田園風景のなかに最新の児童遊戯施設が溶け込んでいる対比がおもしろく、地方=田舎というイメージが覆されました。また、農業体験や先輩移住者との対話を通じて、仕事環境や人との距離感が自分に合うかどうかを自分ごととして確かめられたことが、最大の収穫です。

※この記事に掲載されている情報は、2025月3月にYouTubeに公開した時点での情報です。

【リンク】
▶︎ 伊藤さんの体験レポ動画はこちら
▶︎ お試し移住制度の解説動画はこちらお試し移住制度の解説動画はこちら

 

25年度お試し移住最新情報を掲載 (オーダーメイド型に限定してピックアップ)

※1 宇和島市オーダーメイド型 移住体験ツアー(愛媛県)
※2 完全オーダーメイドツバメビト移住ツアー(新潟県)
※3 能代市フルオーダーメイド移住体験ツアー(秋田県)
※4 霧島市オーダーメイド型移住体験ツアー(鹿児島県)
※5 寒河江市オーダーメイド型移住体験ツアー(山形県)