スペシャルインタビュー
第23回 地方就職は、“前のめりな姿勢”が幸せを呼ぶ

第23回 地方就職は、“前のめりな姿勢”が幸せを呼ぶ

有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役 金谷勉氏
1999年にデザイン会社「セメントプロデュースデザイン」を設立。企業の広告デザインや商業施設のビジュアル、ユニクロ「企業コラボレーションTシャツ」、コクヨの博覧会「コクヨハク」、星野リゾートアメニティ開発のディレクションなどに携わる。2011年からは、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域産業協業活動」を始め、500を超える工場や職人たちとの情報連携も進めている。経営不振にあえぐ町工場や工房の立て直しに取り組む活動は、テレビ番組『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)で取り上げられ注目を集めた。各地の自治体からの勉強会や講演の依頼も多く、地方との関わりが濃い。近著に『小さな企業が生き残る』(日経BP)。

テーマ1
5年で売上12倍。アイデア一つでガラリと変えられるのが中小企業

5年で売上12倍。アイデア一つでガラリと変えられるのが中小企業

私たちは、ものづくり企業と協業して、新しい商品や新たな市場を生み出し、企業成長につなげていくのが仕事の一つです。自社技術を横展開することで、V字回復する企業をたくさん見てきました。いくつか例を挙げてみます。

ひのきの木を真っ直ぐに切る――、静岡県にある障子や欄間などの建具を製造する中小企業が持つ設備は、ただそれのみでした。一見、そこから新しい商品を生み出すことは難しく思えるかもしれません。しかし、アイデアとデザイン次第では可能です。我々との協業で開発したのは、ウッドプレート。片面は食材を切るまな板、もう片面は食事を盛りつけるプレートとして、2つの機能を持つ商品に仕上げたところ、売上は1.5倍に回復しました。

国内有数のメガネの産地、福井県鯖江市。メガネの材料商社との協業で開発した「鯖江ミミカキ」は、2013年にグッドデザイン賞を受賞。このプロダクトをきっかけに売上は5年で12倍に今では、爪切りや靴べらなど新プロダクトが次々と生み出されています。

日本には中小企業が約380万社あり、そのうち約340万社が20人以下です。300人以上の会社は1万社ほどしかありません。つまり、ほとんどが無名企業なんですね。しかし、その無名企業のなかに、アイデア一つで可能性が大きく広がる企業がたくさんあります。

石川県加賀市にある企業は、3種類の陶器を成形する設備があるのですが、その3種類を完備する企業って実はほとんどありません。しかも、この企業は3Dスキャナーやレーザープリンターなどの高機能設備があるのに、そのスペックを活かしたプロダクトを生み出せずに悩んでいます。

自社の技術やサービスを活用して「新商品を開発したい」「自社ブランドを立ち上げたい」という意欲的な地方企業は本当に増えています。私たちは、外部パートナーとして地方企業のプロダクト開発を通じた企業成長に貢献していく立場ですが、課題を抱えるすべての企業と協業できるわけではありません。自分たちにないアイデアでチャレンジをしてくれる若者を待っているポテンシャルのある中小企業は非常に多いです。ダイナミックな仕事をしたいという人にとって、地方は非常にチャンスが多いと言えるのではないでしょうか。

テーマ2
ポテンシャルの高い地方企業と出会う秘訣は、とにかく情報収集

ポテンシャルの高い地方企業と出会う秘訣は、とにかく情報収集

ではどのようにして、そういったポテンシャルのある中小企業に出会えば良いのか?一般消費者向けの商品やサービスを作っている企業であれば、実際の店舗や展示会に見に行けば探しやすいと思います。大学や専門学校に通っている学生さんは、学校にある求人票をよく見てみるとよいかもしれません。例えば長野の楽器塗装の企業は、ある有名ギターの塗装を引き受ける優良企業で、東京の音楽の専門学校に求人を出しているそうです。少子化ということもあり、地方の企業が東京や大阪などに求人を出すことがありますので、都市部に住んでいる方は一度、住んでいる町のハローワークを訪ねてみるのもありかもしれません。

また、いわゆる「良い会社」って、消費者向けの魅力的な商品を作っている会社だけではないですよね。対企業向けの製品・サービスを提供している優良企業もありますし、また魅力的な製品を作っているとしても、経営が不安定だと就職する側としてはちょっと不安です。地方の中小企業は、コーポレートサイトを見ても売上を公開していないなんて普通にあります。

だからもし移住したい地方があり、その土地での就職を考えるのであれば、まず役所を訪ねてみると良いかもしれません。なぜなら、地元企業の情報をたくさん持っているためです。またその土地にある信用金庫も見逃せません。経営状況からどんな事業をしているのかなど、就職に欠かせない情報が集積されるからです。Uターン就職を考える人などは、昔の学友をつたって信用金庫の方とつながることができれば、ポテンシャルの高い中小企業と出会える確率は大きく上がると思います。

SNSの地域コミュニティーに参加するのも良いですよね。移住後に現地の人たちとつながり、そこから得られる情報も非常に参考になるはずです。いきなり知らない土地へ移住し、焦って働く企業を決めるのではなく、まずは信用できる情報を積極的に集め、自分のやりたいことと照らし合わせて就職するのが良いと思います。

テーマ3
地元の雇用を増やすくらい、前のめりな姿勢を

地元の雇用を増やすくらい、前のめりな姿勢を

住みたい町が見つかり移住する。東京から自分の地元に帰り就職する。地方移住、地方就職の理由は人それぞれだと思いますし、人口が増えることで地域が活気づくこと自体は非常に素晴らしいです。ただ一つ、意識してほしいことがあります。

それは、地方就職を考える人と地元の人が幸せな関係を結ぶためには、“前のめりな姿勢”が大切だということです。「何か仕事ないですかね?」というような受け身では、現地の方の雇用を奪ってしまう可能性があります。受け身ではなく、むしろ仕事を増やすくらいの意欲を持つ方が地方移住に向いているように思います。

新型コロナウィルスの影響もあって、テレワークを推奨する企業が増えてきました。会社に出社する必要がなくなり、地方移住を考える人も増えるでしょう。例えば複業や副業を推奨する企業も増えているため、今後は地方に移り本業の傍ら、地元企業のお手伝いをする――、そんな働き方をする人も増えていくと良いですね。いろんな経験、スキル、知恵を持つ方がプロジェクトを立ち上げることで、行政の補助金に頼ることなく、自走できる地元企業を増やしていく。それが我々のミッションの一つであり、地方移住者と地域の幸せな関係の一つだと思っています。