地方で生きる

スペシャル対談~自分らしく働くとは~

「地方で自分らしく働く」とは、どういうこと?

LO活では「地方で自分らしく」というキーワードで、地方就職の特徴を伝えています。
しかし「自分らしく」って、意外と難しいですよね。「自分らしく」ってどういうことだろう、どうやったら自分らしさが見えてくるのだろうと思っている方もいると思います。

そこで今回の特集は、そんな「地方で自分らしく働く」とはどういうことなのかを、二人のオピニオンの対談から探っていきたいと思います。

【「自分らしく働く」二人のオピニオン】

戸田智弘氏:ライター&キャリアカウンセラー
1960年愛知県生まれ。北海道大学工学部、法政大学社会学部卒業。
著書に『働く理由』『続・働く理由』『学び続ける理由』、『海外リタイア生活術』、『就活の手帳』、『「自分を変える」読書』などがある。最新刊『ものの見方が変わる 座右の寓話』が話題に。

笹田大介氏:LO活プレミアム・ガイダンス講師
大学卒業後、新卒で毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)に入社。大阪支社・京都支社を経て1997年4月本社の人事部門に異動。約11年の間に1,000名を越える社員の採用および社員研修を行う。現在は、ラジオパーソナリティやミュージシャンとしての活動とともに、「いかに幸福な人生を歩むか」をテーマにした、キャリアコンサルティング活動を行っている。

【PART1】働くってどういうこと?

――今回お二人には、「地方で自分らしく働く」というテーマを掘り下げていただこうと思います。まずは、お互いのご経歴の中で「働く」という視点から、気になるポイントについて質問してください。

 

笹田戸田さんが「働く理由」を出版されたのは2007年。今から10年以上前になりますが、今でも書店で平積みされているベストセラーです。このテーマを選んだ理由は何だったんですか?

【書籍「働く理由」とは】
偉人だけでなくスポーツ選手や有名人など幅広い人の名言から「働く理由」を紐解いた書籍。発売から10年以上経過しても、書店で平積みされているベストセラー。現在、改訂版の準備が進んでいる。

戸田この本を出す前、仕事に関する本と言えば、著名な経営者による成功論いわゆるビジネス書ばかりでした。そして村上龍さんが「13才のハローワーク」を出されたときに、「好きを仕事に」というテーマが新鮮だったんですね。そこで、キャリアコンサルタントの仕事をしていた私としては、特に著名な経営者でもない普通の人の目線で「適職をみつける法則」をちょっと面白くまとめてみたいと思ったんです。ちょうど転職が一般的になり、キャリアコンサルティングの必要性がでてきた時期だったので、ニーズがでてきて皆さんに読んでいただけたのかなと思っています。

 

戸田笹田さんは、企業の人事担当者として多くの学生の面接を行い、実際に入社した後の社員の活躍を見てきましたが、会社で活躍する人材の特徴ってありましたか?

笹田うちの会社は、基本的に新卒採用は営業職がメインだったので、コミュニケーション能力を重要視していました。コミュニケーション能力と言っても幅広いのですが、「年上の人にかわいがられるタイプか」という視点ですね。営業職って、取引先にかわいがられてなんぼの世界ですから、相手の懐にすっと入っていけるタイプですかね。

戸田人事の方って、エントリーシートってどんなポイントを見てるんですか?

笹田私の場合は、人柄は文章力に出ると思っていましたから、応募書類の文章で「賢い」と思える人を選んでました。会社や人事担当者の性格によって違いはあると思いますが、私の場合は、応募書類をすべて最後まで読んでましたね。そして、フォーマット通りのマニュアル的な書き方だけの書類には興味を持てなかったです。どこかで個性を出そうと工夫している人は、ぜひ会ってみたいと思いましたね。

――かつて高度経済成長期の日本は、豊かになるために国民は必至で働きました。 やがてバブル期を迎え、日本人の物質的な豊かさはピークを迎えます。そのバブルが崩壊しリーマンショックを迎えてからの日本は、「働き方」や「仕事に対する価値観」がどのように変化したと感じられますか?

笹田私は「終身雇用の終焉」の影響が大きいと思うんです。1980年代くらいまでの日本は終身雇用で、「会社は従業員を守ってくれるもの」というのが常識でした。でもバブル崩壊やリーマンショックを経験すると、会社も日本経済も信用できないって感覚になってしまった感じがするんですね。

戸田確かにそうですね。2000年代以降、人々は仕事に対して哲学的になった気がします。経済学者が唱える仕事論って、仕事の価値基準が必ず収入なんです。「高収入を得られることが幸せ」と定義するんです。でも、人生100年時代と言われるこの時代に、仕事の価値が収入だけではもたないと思うんです。

笹田東日本大震災の影響が強いとは思うんですが、震災後は「会社が儲かればいいという経済的な視点よりも、社会貢献に関わっている会社がかっこいい」と考える若者が増えましたよね。仕事で儲けることより、社会に貢献することのほうが価値があるって考える若者が出てきたんですよね。

戸田そうですね。私が若者の就労支援のNPOに関わった時も、優秀な若者ほど、経済的なものに社会的な目線をあわせたソーシャルビジネス的な価値観を持ってましたね。自然災害では、助けてくれるのはお金ではなくて、家族や地元住民とのつながりだったりします。そして仮に会社でうつ病になったようなケースでも、最終的に助けてくれるのは家族だったりします。気づいている人は、経済中心の発想から、自然や人そして社会とのつながりを重視する価値観に変わってきて、それが仕事にも影響してきている気はしますね。

【PART2】暮らしの中の仕事

――最近「地方で自分らしく生きたい」と移住を考える若者も増えています。このような変化を、どのように感じますか?

戸田私のイメージだと、都会の暮らしって、自分が宙に浮いている感じがするんですね。経済が中心だし、人間関係や土地などの関係性も希薄なので、地に足がついていないというか。それに対して地方の暮らしって、きちんと地に足がついていて、他者や自然や文化の中でのつながりが見えやすい感じがするんです。「自分の存在を実感できる安心感」という感じですが、「存在論的安心感」なんて表現しているイギリスの社会学者もいますね。

笹田私の中では「自分らしく」って、「自然体でいられること」だと感じているんですね。私が東京の大学を卒業して入社した時の配属が大阪だったんです。生まれが大阪だったからの配属だったのでしょう。そしたら、それが本当に楽だったんです。東京の大学出身で、バリバリの関西弁の新人というだけで、コミュニケーションが楽でしたから、入り口で得している感じでした。しばらくして東京へ転勤になったときは、「東京で頑張っている自分を演じている」感じでしたから、きつかったですね。まず、東京の満員電車が、もう無理でしたから(笑)。

戸田そうですね。通勤ラッシュは名古屋でも、東京とは全く違いますね。

笹田最近聞いた話で「北関東の勝ち組」っていうのが面白かったですよ。
北関東なので、栃木や群馬などのイメージですが、かつては都会に出ていくのがステータスだったと思うんです。でも今は、地元に残って地元の人脈と実家のメリットを最大限活用する人が勝ち組なんだそうです。

地元で働き、地元で結婚し、実家で暮らして親と一緒に子育てする。遊びは子供のころからの仲間と一緒なので、何でも気兼ねなく頼めます。例えば、お酒を飲んで車の運転ができなくなっても、気軽に迎えに来てってお願いできるとか、メリットばかりなんだそうです。大型のショッピングモールもあるので、都会と同じものが地元で手に入りますから、昔のような格差も感じないのだそうです。

戸田大型ショッピングモールは強いですね。そこに行けば何でもありますから。
私が住んでる名古屋でも、ショッピングモールは重要な存在です。私が若かった頃は、東京と地方の情報格差って大きくて、新しいものは東京に集中するイメージでしたが、今はショッピングモールに行けば、東京と同じものが買えますからね。

笹田そう、最近は地方の優位性が上がっている気がしますよね。昔は東京に出ていくことがステータスでしたが、今は地方にもステータスを感じます。私は大阪生まれで、瀬戸内海の弓削(ゆげ)島という小さな島で育ったんですね。昔は島出身って言わずに、大阪出身って言ってたんですけど、最近は島出身って言ったほうが、相手の反応がいいですからね(笑)。

戸田確かにそうですね。私も、どんな島なのか興味を持ちます(笑)。

 

――LO活で取材した地方移住者で、こんな考えの方もいました。岐阜県の飛騨古川へ移住した山田拓さんは、「お米を買う」ということからも、地方の魅力を感じたそうです。お米は地元の米屋さんよりインターネットのほうが安いんですが、あえて地元のお米屋さんで買うことが重要だと言います。なぜなら、自分が地元の商店で買い物をすることで、相手の暮らしを支えているからなのだそうです。いかに自分にメリットがあるかではなく、いかに地域で助け合うかが大切だと言うのです。

戸田他人にしわ寄せしない仕事や生き方ですよね。
最近「エシカル消費」というキーワードもありますからね。

【エシカル消費とは】
エシカル(ethical)は「倫理的・道徳的」という意味。環境や社会に配慮した製品・サービスを選択すること。オーガニック素材やリサイクル素材で、かつ紛争や児童労働が関与していないフェアトレードで取り引きされる原料で作られる製品などを選択する消費行動。最近では、被災地復興、過疎地再生、障害者自立などの支援や、賞味・消費期限の近い食品を購入する食品ロスの削減やマイバッグ持参行動なども対象とされる。

戸田都会だと、他者の暮らしをイメージしながら生活することって少ないですからね。やはり効率や価格優先というところが強くて、安くて便利なものを選んでしまう。インターネットで買っても、運んでくれる宅配業者がいないと商品を受け取れないですが、そこまで配慮しているかってことですよね。会社では、社内だけでなく取引先のことも配慮した仕事ができているかということですよね。地方にいると、それを感じやすいということでしょうか。

笹田地域コミュニティ内で、お互いの生活を支えあう「共生」なんでしょうね。
自分だけが幸福ならいい、という価値観ではなく、他者とのつながりを大切にしながら、助け合いながら暮らすことの素晴らしさに気付くって、本当に豊かな人な感じしますよね。

 

――お二人とも、地方での暮らしを経験されていますが、「地方のメリット」ってどんなところでしょうか?

笹田都会って、何をするにも移動に時間がかかりますよね。私はバイクが趣味なんですが、東京だとどこに出かけるにも目的地までだいたい2時間はかかるんです。地方にいたら、海に行くにも山に行くにも30分とか1時間とかで行けますよね。東京だと、目的地に行くまでに疲れちゃったりします(笑)。

戸田自然や文化との触れ合いという点でも、地方は良さがありますね。
例えば「お祭り」とかって東京にもありますが、地方に行くと重みが違ってきて、その地域の歴史や文化がしっかりと根付いていて、それを守ろうとする人々がしっかりと次の世代に継承しようとしています。そんなコミュニティの存在意義って、地方の良さだと感じますね。

【PART3】自分らしい「仕事の価値観」とは

――「働き方改革」で私たちは、「自分らしい生き方」を選択できるようになりました。 その価値に気づいている人は動き出しています。しかし一方で、どうしていいのか分からずに踏み出せない人もいると思います。「自分らしく生きる」ためには、まず何をしたらよいのでしょうか?

笹田私は「働き方改革」最大のメリットは、副業解禁だと思ってるんです。
社外の人との関りって、相当大きいですよね。私もサラリーマン時代に、地元に開局したコミュニティFMで番組を持たせてもらって、もう20年くらいしゃべってるんですが、そこで出会う人との刺激が人生を変えましたから。

戸田どんな風に変わりましたか?

笹田開局当初は単なる市民スタッフとしてその放送局に出入りさせてもらっていたのですが、同じように出入りする人の中には、プロの音楽プロデューサーやラジオマンやアナウンサーを目指す若者などがいたりして、その放送局を通じて普通に友達になれるんです。朝まで酒飲みながら話したり、一緒に楽器を演奏したり曲を作ったり。そんなつながりから、プロのミュージシャンと仲良くさせていただいて、今ではプロと一緒にライブやったりしています。

戸田なるほど。笹田さんのようにポジティブな例もあると思いますが、ネガティブなパターンもある気がするんですね。今の仕事が合わない、仕事がつらいと思っているようなケース。その時に、「どうして合わないか」が言語化できると、対処法が見つけやすいんですが、意外とそれが分からないですよね。私の周辺にも、うつ病になった人がたくさんいます。

笹田地方出身で有名企業に入ると、親の期待とか地元での評判もあったりするので、辞めてしまうと親を悲しませるかなと考えちゃう人もいそうですよね。

戸田「石の上にも三年」という言葉がありますが、昔とは三年の感覚も違って加速度的に早くなってる気がします。本当にダメだと思ったら、無理しないで逃げることも必要じゃないかと思います。うつ病になってからでは遅いですから。

笹田都会暮らししか知らないと、逃げ場をイメージできないかもしれませんが、地方暮らしを知っていると、自然とか周囲の人とか、逃げられる場所ってありますからね。最近の仕事ってパソコンに向かうイメージですが、昔は同僚と侃々諤々熱く語り合うイメージでしたからね。雑談って大事だと思います。そこでストレスを発散することもできますから、若い人にも雑談できる。

 

ーーそれでは、「自分らしく生きる」って、どうすれば「自分らしい生き方」を見つけられるのでしょうか?

戸田昔って仕事で人生決まる時代でしたよね。どんな会社に入るかで、大きく人生を左右して、それはなかなか変えられない。でも今って、「生き方に仕事を合わせる時代」になってきていると思うんです。時代の変化に応じて、変化する自分の価値観に応じて仕事や環境を変えるのも、当たり前な時代になったと思うんです。

笹田人のキャリアというものをとことん考えていた時に、とてもいい言葉に出合いました。それは

1.自分はどのような場所にいたくて
2.どの様な人と一緒に触れ合いたくて
3.どんな感じのことをしていたくて
4.それが実現したときにどんな気持ちになるのか

というものでした。

戸田そう、土地が一番なんですよね。

笹田私も、土地には救われた経験がありますから。
京都に住んでいた時は、歴史が好きだったので、暇さえあれば歴史散策してたんです。歴史の舞台に自分も立っていると考えるだけで日頃のストレスが発散できました。東京に戻った当初は、本当に嫌で毎日京都に帰りたいって考えてたんですが、先程のコミュニティFMがきっかけで、すっかりプライベートの楽しみ方というより、生き方の価値観が変わりましたね。

戸田なるほど。でも最近は、会社の中での立ち位置を見つけるのが難しい場合もあるかもしれないですよね。ジェネラリスト(広範囲にわたる知識を持つ人。企業内では総合職を指すことが多い)でいくのか、スペシャリスト(特定の分野に特化した知識を持つ人。企業内では専門職を指すことが多い)でいくのか、自分の中でスペシャリストと決めていても、会社都合で変えられることもありますからね。私は理系だったので、仲間もスペシャリストが多かったのですが、事業部が解体されて営業職になった人もいましたから。長期プランが見えていれば、短期的なことは我慢できるかもしれませんが、なかなか長期プランが見えないので、「自分らしい仕事」を見つけるのは難しい場合もありますよね。

笹田私は「自分らしく生きる」って、自分の人生の主人公になることだと思ってるんです。それと、学生時代からやりたいことが決まっている人って、ほんの一握りの天才だと思うんです。だから、社会に出てからもいろんな経験をして、その経験の中から楽しめることや自分の志向性を見つければいいと思うんです。

戸田そうですね。最近は「業種・職種」に加えて「職務」という視点も出てきてます。どうやって仕事と向き合っていくかが重要になっていて、企業側も従業員のキャリア形成に対して、成長できるよう努力するようになってきました。さらに働き方改革で副業も可能になってくると、自分自身で「職務」とどう向き合うか考える幅が広がりますよね。

笹田そう、いろいろな人に出会うことや、自分の興味あることを声高に叫ぶことって大事だと思うんです。私がやっているLO活のガイダンスで、サイトに掲載されている移住者のインタビューを話題にするんですが、札幌の映像制作会社に就職した京都の学生さんの話です。

彼女は大学で映像の勉強をしていて、将来は映像制作会社か放送局に入りたいと思っていたそうなんです。映像制作といえば都会ということで、東京の会社ばかりを受けていたのですが、なかなか内定をもらえず卒業間近になってきた。でも、どうしても映像の仕事がしたくて、いろいろなところで「映像系の仕事ない?」と聞きまくり、ようやく札幌の映像制作会社の話をもらったらしいんです。

本人は、棚から牡丹餅のようにチャンスがやってきたって言っていたそうなんですが、違いますよね。自分でいろいろな人にアピールしたから、チャンスをつかめたんですよね。

戸田そうですね。彼女は、やりたいことが決まっていた人だった訳ですが、私も「働く理由」の中で紹介した村上龍さんの言葉を思い出しました。

彼は「会社に雇われていなかったら、自分は何をしてるか考えよ」って言ってるんです。
常に変化する時代の中で、常に自分の居場所「どこで、誰と、どんなことして働くのか」を考え続けることが大切なのかもしれないですね。

――「会社に雇われていなかったら、自分は何をしてるか考えよ」ですか…。結局、いろいろな経験をして、その経験から「自分の居場所」をイメージしていくことが大切ということですね。

これからAI革命がやってくると、単純作業はAIがやってくれる時代となります。そうなると、人間に残される仕事は「考えること、判断すること」になります。例えば経理の仕事でも、集計作業はAIがやってくれますから、人間はその経理データから何を見出して、どのように事業の改善策を考えるかが重要になります。ぜひ、広い視野で仕事を考えてみてください。その時に「地方で自分らしく」というキーワードが見つかるかもしれません。

 

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