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スペシャルインタビュー

第9回「LOCAL×はたらく」を考える 第9回「LOCAL×はたらく」を考える

第9回「LOCAL×はたらく」を考える

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 事務局長  長谷川 琢也 氏
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一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 事務局長  長谷川 琢也 氏

「ヤフー株式会社 社員(社会貢献推進室 東北共創)」「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 事務局長」の2つの肩書を持つ。東京都出身。2011年、自分の誕生日に東日本大震災が起こったことがきっかけで東北に関わり始める。石巻に移住し、ヤフーの拠点を作り復興支援に関わるように。その後、被災地の農作物や海産物、東北の歴史が息づく伝統工芸品などをネットで販売する「復興デパートメント」や、東北の水産品にブランド価値を与え、新たな水産業を創造する「三陸フィッシャーマンズプロジェクト」の立ち上げなどに従事。2014年7月には、漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変え、担い手が後を絶たないようにするための地域や職種を超えた漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」を立ち上げる。 “二足のわらじ”で、陸で奮闘中。

漁業の担い手を1000人増やす!

漁業の担い手を1000人増やす!

僕は3月11日生まれなんですが、自分の誕生日に東北でああいうことが起こってしまって、考えるより先に体が動きました。当時は東京で会社員をしていたので、東京と石巻を行き来しながら個人でボランティア活動を行っていましたが、自分一人でできることはあまりに小さすぎると感じ、会社内で色々なプロジェクトを立ち上げたんです。

 

そうやって東北と縁を持つようになった中で知ったのが、漁業の現実です。

 

皆さんもご存じの通り、漁業の担い手は昨今減っています。農業と同じで、「きつい・きたない・結婚できない・かっこ悪い・腰が痛い」といったネガティブな“K”に囲まれていて、このままだと若い子が就きたい職業にはならないと思いました。何よりショックだったのは、石巻の漁師さんたちが自分たちの子どもに「一生懸命勉強して、俺の仕事を継ぐな」と言っているのを知ったこと。自分たちが親の背中を見て憧れて漁師になったのに、そんなのあまりに悲しいじゃないですか。

 

それなら、漁師を子どもが憧れる仕事にしようと思って。「かっこいい・稼げる・革新的な仕事」という“新3K”を掲げ、そういう漁業従業者を増やして水産業を盛り上げようとフィッシャーマン・ジャパンを立ち上げました。だから、震災復興を目的にしているだけではなくて、地方で感じた課題を解決できる団体を作りたい、というのが根底にある思いです。

 

元々、日本中を旅するのが好きでした。地方に行くと、たまたま声をかけた人と仲良くなって、家に招いてもらっておいしい料理を食べさせてもらったりするような、東京ではあり得ないことがたまにあります。そういう都会にはなくなってしまった人間らしいものにずっと憧れていました。だから、プロジェクトを立ち上げたときも、東京にいながらメールや電話だけで仕事をするのはあまりにバーチャルで違和感があると思い、「被災地のど真ん中に支社をつくりたい」と会社に提案しました。そうしたらあっさり認めてくれて。だからそれまでの仕事はもちろん、キャリアも全部捨ててこちらにやってきました。

 

実は小さい頃から貝類が苦手だったんです。大人になるまで魚も食べられませんでした。東京生まれ東京育ちなので東北のことは全く知らないし、寒さへの耐性もなく、日本酒も飲めなければ魚も苦手。よくそんな状態で来たなあと思いますが(笑)、だからこそ全てが新鮮でした。

薦められるまま、船の上で穫れたての牡蠣を恐る恐る食べたときは、その味を知らなかったことを後悔するくらい美味しくて美味しくて…感動しました。船に乗せてもらって、いろいろな話を聞いて、それまでの自分とはひっくり返るくらい、大きく変わって。最初は支援のつもりで入ったのに、今はもう感謝の気持ちしかないですね。

生産現場にこそクリエイティブさが必要

生産現場にこそクリエイティブさが必要

地方で働いていて感じるのは、自分が興味を持ったことやしようと思ったことが、所属する組織の改善や進化、地域の発展や課題解決に直結するということです。自分のアイデアや自分が使った時間が、団体や会社、地域につながっていることが実感できるのです。東京だと、仮に100時間働いたとしても小さな歯車が45度くらい回転した程度の実感しか得られないとしたら、地方なら自分がエンジンになっている様に感じられます。

 

だからといって、東京がダメだとは思いませんよ。一次産業の観点で言えば、東京は消費地で、石巻は生産地。フィッシャーマンたちがきちんと稼ぐためにはどちらも大事なんです。ただ、「ヒト・モノ・カネ」が集まる場所でイノベーションが起こるわけで、今は東京にあらゆるものが流れすぎだと思うんです。そのバランスを一度戻さないといけません。飽和したものを再度分散させるためにも、人は地方に行くべきだし、そのためには生産現場である地方にこそクリエイティブさが必要なんです。

 

漁師さんたちは、東京の人たちの生きる源を自分たちが提供していて、しかもそれを安心・安全で持続可能な状態で届け続けていることに誇りを持っています。生産地と消費地がお互いにリスペクトできるようにすることも、僕たちが取り組むべき一つのテーマです。

 

石巻に来て、まちづくりや伝統工芸の商品開発、水産業の魅力向上などいろいろなことをやってきましたが、僕たちがやっていることは、地方ならどこにでも当てはめることができると思っています。石巻と同じ課題をどこも持っている。それをチャンスだと捉えたら、日本中にチャンスはたくさんあるんですよ。テーマの数だけ必要となる職種やスキルがあるので、何でも活かせると思います。

 

若い人は片仮名の仕事(マーケティングやクリエイター等)に憧れて、「そういう仕事が地方にはない」と都会を目指すわけですが、実際は地方にこそ必要なんです。ITをお箸やスプーンみたいに当たり前に使える若い人たちが、地方でITを根付かそうと企んでみたりするのは、むちゃくちゃ面白いと思いますよ。気がついたら東京の人たちよりもリテラシーが進んでいた、みたいな“ジャイアントキリング”的なことになったら、すごく楽しいですよね。

東京と地方「新しい働き方の事例」を目指す

東京と地方「新しい働き方の事例」を目指す

一次産業に関わると、「生き物本来の姿」というか、人間として本来あるべき生業や、四季の移り変わりなどを知ることができます。東北の冬は夜が長くて寒くて、太陽が昇ってくると暖かくなって、漁師が穫ってきてくれるもので季節を感じる、そんな生活が当たり前にあることを実感させてくれます。それこそ、地下鉄で会社に通ってビルの中で一日中働いていたら、外が暑いのか寒いのか、朝なのか夜なのかも分かりません。東京の人たちが忘れてしまった日本らしさがここにはあるのに、それが産業として廃れてしまった。だから世界における日本のブランド力が落ちてしまったような気がしますね。

 

海に囲まれた島国と漁業は切り離せないものです。食べ物も、エネルギーも、仕事も、文化も、全て海と関わりながら育んできました。だから、その海の課題解決は本当に面白いですし、挑みがいがあるんです。漁業でのそうした取り組みはまだまだ少ないので、フィッシャーマン・ジャパンは目立っているのかもしれません。ただ、僕らを見て、日本各地で同様の取り組みを始めようとしている人が増えているようで。嬉しいです。これを機に世界から日本のフィッシャーマンたちが注目されて、かつてのような漁業大国日本が復権したらいいなと思います。

 

寿命が延び、人生が長くなったからこそ、僕のようなおっさんも活躍できる場所を探していく必要があります。そう考えると、これからは新しい働き方をつくっていく必要があると思うんです。40代以降に、20代・30代で培った「片仮名スキル」を、地方などそれを持っていないところに展開していくような働き方は、一つの可能性があると思います。僕は二足のわらじで東京と地方を行ったり来たりしていますが、そういう新しい働き方の事例の一つになれたらいいなと思っています。人が40代・50代になった時の面白い働き方のヒントが、東京と地方のハイブリッドな仕事の仕方の中にある気がしているんです。

 

都会と地方、ITとリアル、消費地と生産地というような対極と言われるものの中間に、僕はこの数年間、いることができました。今後もそこに居続けることで、若い人に対しても、おっさんに対しても、新しい生き方・働き方の可能性を提示できると思っています。今は毎日が楽しいのでこの生活は当分続くと思います。それも家族とヤフーの社員の両方の理解があってこそ。ありがたいことだと感謝しないといけませんね。

 

(2017年3月15日掲載)

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