スペシャルインタビュー
第5回「LOCAL×はたらく」を考える

第5回「LOCAL×はたらく」を考える

株式会社和える 代表取締役  矢島 里佳 氏
1988年生まれ。2011年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2013年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程社会イノベータコース修了。職人の技術と伝統に惹かれ、19歳のときに日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに日本の伝統をつなぎたい」という想いから、大学4年生の2011年3月に株式会社和えるを設立。子どもたちのための日用品を全国の職人とともに作る「0から6歳の伝統ブランドaeru」を立ち上げる。現在は、オリジナル商品の企画・販売のほかに、講演会や書籍の執筆など幅広く活動中。

テーマ1
日本のスタンダードは東京? 地方?

日本のスタンダードは東京? 地方?

学生時代に将来何をしようか考えたときに、「日本の伝統を次世代に伝える仕事をしたい」と思いました。でも、当時はそれを実現できる場所がなかったのです。ないなら自分で作ろうと思い、創業しました。今は、同じ想いを持つ仲間が「和える」に集まってくれるようになりました。

 

仕事柄、たくさんの地方の職人さんとお会いしますが、職人さんのことを知り、地方の空気に触れれば触れるほど、東京は日本でありながらも、日本ではないのではないかと感じることもあります。東京はある意味、「人間によって造作された場所」。そこをスタンダードと捉えてしまうと、本質的な日本が見えなくなる気がしています。

 

職人の方々とお話をしていると、人として本当に大事にすべきものはなんだろうかと考えさせられます。現代社会は貨幣経済で循環しているので、もちろんお金は大事です。けれども、それ以外の価値、例えば人と人との強いつながりや、お金では代えられない豊かさというものがあるんだということを教えていただいたような気がします。私が知らない遥か昔の日本は、きっとそういう豊かさを大切にして、価値を生み出しながら循環して認め合っていたのではないかと思います。そういった「GDPには表れない豊かさ」に目を向けずに、目に見える数字だけを追い続けていると、日本は貧しい国になってしまうと思えて仕方がないんです。それに気付かせてくださるのが地域の伝統や歴史、人と自然といった魅力であり、日本各地に脈々と受け継がれているのだと思います。

テーマ2
日本が日本であるためのヒントは地方にある

日本が日本であるためのヒントは地方にある

日本中どこでも、その土地ならではの産業がありますが、それらは全て、その土地でしか生まれ得なかったものです。つまり、昔から川が氾濫する地域であれば、「おかげでいい土ができるから、それを生かして何か作ろう」と考えるわけです。そこには受け入れ、活かし、楽しむという「智慧」がある。例えば青森県弘前市の伝統産業品である「津軽塗り」は、一つ作るのに約2カ月半かかるそうです。別名「馬鹿塗り」といわれるくらい何度も何度も塗り重ねるのですが、なぜかといえば、豪雪地帯で冬は外に出られなかったため、冬の仕事として、時間をかけて丁寧に作られてきたそうです。

 

その地域にある「自然の恵み」を生かして作り続けるということは、まさに智慧だと思います。作られたものは、手仕事であるがゆえに、プリントしたものとは違った味が出る。同じ色のコップを兄弟で使っても、微妙な模様や感触の違いから、どれが自分のコップかがすぐに見分けがつくのだそうです。

 

日本の伝統産業にこそ、グローバル化の中で「日本が日本であること」を明確にしてくれるヒントがあると思っています。日本にはたくさんの宝物があるのに、そこに私たちはなかなか気がつけていません。この気付けなくなっていることが課題です。大量生産も生きていくうえでは必要ですが、どの国に行っても同じものが手に入るようになったら、何をもって日本なのか、日本が日本でなくなってしまうという時代がやってくるように感じます。だからこそ、一度地域を出た人が自分の生まれ育った地域のものに触れること、そしてその魅力に改めて気付くことは価値があることだと思います。

テーマ3
若者の「素朴な疑問」が社会を動かす

若者の「素朴な疑問」が社会を動かす

2015年11月に京都に2店舗目の直営店『aeru gojo』を出店したのですが、地域のご近所付き合いを通じて、「一見さんお断り」の裏にある、人を大切にする文化に触れました。「経済の発展が全て」という都会の価値観ではなく、大切にしたいと感じるものをきちんと大切にし、その上で経済が回っていく状態を実現したい。そう考えるようになったのは、日本各地にたくさん足を運んだことが影響していると考えています。

 

ある意味で、国内旅行は海外旅行以上に価値観が変容するきっかけになると思いますね。同じ言葉を話し、同じような顔をしているのに、実は文化はこんなにも違うんだという気付きは、海外旅行で得られるものとはまた違った衝撃となります。だからこそ、もっと国内を旅してみることをお勧めしたいと思います。

 

地域に興味をお持ちの学生の皆さんにぜひお伝えしたいことは、新しい風を自分が吹き込むのだという気持ちを持って地域の魅力を発見し、発信していただきたいということです。尊敬の念を持って先人に学びながら、若いみなさんだからこそ感じられることを和えていく。そうやって既存のものと改めて向かい合ったときに出てくる若者の「素朴な疑問」が、これからの社会を動かすのではないでしょうか。それこそが、若い人の存在価値ではないでしょうか。

 

(掲載日:2016年3月3日)